ばあちゃんの豆しとぎ

ようさん

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北三陸への道 1〜新しい駅、古い線路〜

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 次の日の午後、颯也と私はサッカー用のベンチコートに毛糸の手袋と帽子、マフラーの完全武装に大荷物を抱えて新幹線「はやて」から降り、スノードームに覆われた真新しいホームに立った。冷気が無防備な顔面を刺し、思わず二人同時に「痛いっ!」と叫んだ。

 車内から一面の雪景色が見えていたのでそれなりに身構えていたのだが、いきなり冷凍庫の中に放り込まれたような容赦ない底冷えだ。

 あと数日で二月になるが、今住む町では早咲きの梅や蝋梅が咲き出す頃だというのに故郷への入り口は溶け出す気配をすらまだない一面の根雪で覆われている。

 改札を通りその横の売店を通り過ぎようとすると、颯也が「売店に寄っていい?」と聞いた。実家への簡単な手みやげはすでに出発駅で買ってあるので私の方は用がないが、バスにはまだ少し時間がある。

「早くね」と言うと颯也は「やった」と笑い、泊まり荷物の入ったリュックを揺すりながら店の中に消えた。

 新幹線の開通に伴って建て替えられた構内は、まだ建材の匂いが残っていそうなほどぴかぴかだ。新幹線開通フィーバーの名残は既になく、数ヶ月先の観光イベントや観光スポットのPRポスターが堅実に貼り巡らされている。

 出口に続く跨線橋の巨大なガラス窓から外を見ると雪の上にくっきりと在来線の鉄路が見えた。降る雪は新幹線の窓から眺めていたときより強くなったようだ。

 鈍色の空から延々と降る雪が世界中の音を吸い込んでしまったような一面の静寂、冷たい純白の中に黒く光る道。幾多の分岐の上に立ち尽くす主人公もまた人生の岐路に立たされていてーー昔観た、何という映画のワンシーンだったか。

 進学、就職、結婚、出産ーー人生の岐路で選ばなければいけないのはいつもどちらか一方だった。雪をほとんど見ることのない地方や街で過ごした年月が、生まれてから高校卒業までを故郷で過ごした年月をそろそろ越えようとしている

 入園、入学、再就職ーー住居や居場所が何度も変わり、人間関係を一から築くーーその繰り返しだった。
 物怖じしない社交的な性格ならまだよかったのかもしれないが、どこにいても根っこのところでは余所者で居場所のない感じが拭えない。
 家庭や職場でつまづくたびに「いつでも帰ってやる」と心の底で思いながら乗り越えてきた。

 だが、関東の猛暑を逃れて「いいとこどり」だけの帰省を十年以上も続けているので、この雪と寒さの長い冬を耐えて故郷で暮らすのはもう無理なのかもしれない。
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