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雪の侯、二戸駅に降りる 1
しおりを挟む「痛っ!」
延伸したばかりの真新しい二戸駅からバス用のロータリーに出ると、微細な氷の礫が剥き出しの顔を刺した。
常春とまでは言い難いが、晴れの日が多く乾いた空っ風の吹く関東内陸部の冬とは全く異質の寒さだ。
「雪だーー!」
真冬も含めて一年中ハイシーズンのサッカー少年である小学6年生の 颯也は、スニーカーの足以外完全武装のベンチコート姿で、歩道脇に積み上げられた雪の塊にスニーカーで突進していく。
「滑るから危ないよ」
慌てて声をかける私もレインシューズの足元がどうも覚束ない。凍った路面をスニーカーであんな走り方をしたら、私だったら絶対転んでいる。
驚異的なバランス感覚はスニーカーの底に申し訳程度についていたスパイク部分のお陰かサッカーのトレーニングの賜か。
「わあ本当だ。めっちゃ滑る!」
颯也はけたけた笑いながら、標高五十センチほどの凍った雪山をスノーボーダーのようなポーズで滑り降りた。
「あれまあ、元気だこと」
コンコースで偶然出会った仙台のみっこ伯母と遠縁の長内さんが、地元の懐かしいアクセントで笑いながら先にバスの切符売り場に向かって行った。
※※
1982年の開通以来、長らく盛岡が終点だった東北新幹線が約20年後、新世紀の始めにようやく八戸まで延びた。その年に早速、実家の母が興奮気味に電話をしてきた。
「八戸行きの新幹線は全席予約制で東京からでも三時間かからない」
などとにわか鉄道ファンか観光大使にでもなったかのように(地元の南部訛りで)夢中で話していた。この時はまだ珍しかった全席予約制の新幹線「はやて」が東京ー八戸間を繋いでいたが、後に新青森までの全線開通に伴い登場した「はやぶさ」に主役の座を明け渡した。
颯也はこの春中学生、北関東の自宅で留守番中の二男・悠也(ゆうや)も高学年になる。
子ども達が幼い頃は飽きて騒がれる心配や費用の事もあり、雪の心配のない夏に夫の豊と交互に運転しながらのマイカー帰省だった。
来年あたり子供たちの思い出作りも兼ねて新しい新幹線で帰省してみようか、家族四人分の切符代と滞在中の荷物の宅配代はかかるけど……なんて思っていたのに。思ったより早く実現してしまった。
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