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さて、往生際の悪いアイツがお約束のように立ちはだかります。
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温室の地続きに浴場がある。本当は娑婆に出る前に玄英を洗ってやりたかったが時間がない。
タキシード姿の古賀さん、清掃員姿の俺、特攻服姿の玄英。パーティに出ずこのまま下船するにしても珍妙な一行だが、この際構うもんか。長居は無用だ。
「坊ちゃん」
温室の出口に向かっている時、インカムから清さんの声がした。
「清さん?まだ船の中にいたの?」
「古賀さんに着いて来たんでさ」
プランBの「正攻法」は俺達が撤収した後、変装した古賀さんが手に入れた招待状を使って俺と一緒に潜り込むーーと言うものだったが、俺が戻って来なかったので急きょ清さんが代理で着いて来たようだ。
ジェシカとアンジェラはさすがにさっき目立ち過ぎたし、もしもの時の機動力や戦闘力を考えたら、妥当な人選だ。
「戦場で撤収命令に従わないなんて。死にたいんですか」
「説教なら後で聞くよ」
つか、戦場じゃなくて船上だし(座布団一枚くれ)
「後生ですからここから先は、ちゃんと清の言う事を聞いてください。実はさっき、例の野郎を見かけーー」
電波が途絶えた。
「清さん?」
そして俺達の前に、立ちはだかったのはーー
「宝探しにずい分と時間かけたねえ?タイタニックだったらとっくに沈んでるよ?」
「ユーラ!」
「えっ?何で?」
ーーイェン社で堀田達と揉めてるんじゃ……?
「僕、ただでさえ敵が多いんだよ?影武者くらい常識でしょ……それに君なら、絶対ここに乗り込んで来ると思ってたから」
ユーラは息を呑むほど美しい光沢を讃えた純白のタキシード姿でうすら笑いを浮かべた。シチュエーションとのギャップのせいでやや間の抜けたコスチュームに思える反面、俺達を睨みつける目と震える声にはありったけの憤怒と憎悪が滲み出ていた。
「テメェ、ナメてんじゃねえぞ!タイマン上等だァコラ!」
俺は今度こそ奴の人中にストレートを叩き込むと決めたーーが、玄英が背中にしがみついて止めた。
「駄目!恒星!」
「玄英離せ!止めんな!コイツは一回痛い目見ねえとダメだ!」
「それでもっ……!」
「恒星!」
さらに古賀さんが前に割って入る。
「ここで面倒を起こしたら、玄英を連れ帰れなくなります。必要なら後日、然るべき法的手段を考えますから」
「……ッ」
俺は渋々拳を下ろした。
「まったく……さすがカミカゼの子孫だけあって野蛮な民族だ」
てめェに言われたくないわ!
「玄英。その安っぽい格好は何だ。君には全く似合わない」
ユーラがわざとらしく手を差し出し、玄英に向かって前に進み出た。
「晴れのパーティだろう?君にはもっと相応しい装いを用意してある」
玄英も俺を庇うように前に進み出る。
「玄英……!」
玄英はしばらく黙ってユーラを見つめ返していたが首を悲しげに振り、しかしきっぱりとこう言った。
「ユーラ。僕のことはもう忘れてーー僕では君の欠損は埋められない」
「何っ?何て言った?この僕が?どこか欠けてるって?」
ユーラの笑顔が引き攣り、だんだんと消えていった。
「そうだよ。昔からずっと感じてた。君は僕のことをよく知ってるというけど、それは違う。
昔の君は世間知らずの僕を導いてくれる本当に大きな存在だった。次第に僕は君の見たい都合のいい僕を演じるようになったし、君は僕を支配するようになった。
今ならわかる。君はどんなに成功しても空虚なんだ。僕を思い通りに従わせて他人を見下したところで、君の本質は決して埋まらないブラックホールのような、巨大で絶望的な空白ーー」
「知ったふうに適当な事を言うな!玄英のくせに!」
ユーラはついに怒りを隠さなくなった。玄英は静かに続けた。
「わかるんだよ。だって僕らは同類だからーー君も僕も一皮剥けばどうしようもない、最低な人間だから。だからお互い埋め合うように依存し合って傷つけ合うーー周りの人も大勢巻き込んで」
「不愉快だ。黙れ」
「でもーーそんな僕の欠点も情けない部分も、恒星は全部好きでいてくれる。生きてたらそれでいいって言ってくれた」
はからずも玄英が背中に背負った「天上天下唯我独尊」の字が頼もしく光る。
「ユーラ。君もそういう人を見つけるべきだーーいや、むしろ君自身が変わるべきだ。心からそう言ってあげられる人を見つけるために」
「黙れ黙れ黙れ!玄英のくせに俺に指図するな!玄英が僕の玄英でないなら、ここで一緒に死んでやる!」
ユーラが美の壺レベルなジャケットの胸元から、当然の流れのように取り出してこちらに向けたのは。
ーーピ、ピストル!?
「危ない!」
タキシード姿の古賀さん、清掃員姿の俺、特攻服姿の玄英。パーティに出ずこのまま下船するにしても珍妙な一行だが、この際構うもんか。長居は無用だ。
「坊ちゃん」
温室の出口に向かっている時、インカムから清さんの声がした。
「清さん?まだ船の中にいたの?」
「古賀さんに着いて来たんでさ」
プランBの「正攻法」は俺達が撤収した後、変装した古賀さんが手に入れた招待状を使って俺と一緒に潜り込むーーと言うものだったが、俺が戻って来なかったので急きょ清さんが代理で着いて来たようだ。
ジェシカとアンジェラはさすがにさっき目立ち過ぎたし、もしもの時の機動力や戦闘力を考えたら、妥当な人選だ。
「戦場で撤収命令に従わないなんて。死にたいんですか」
「説教なら後で聞くよ」
つか、戦場じゃなくて船上だし(座布団一枚くれ)
「後生ですからここから先は、ちゃんと清の言う事を聞いてください。実はさっき、例の野郎を見かけーー」
電波が途絶えた。
「清さん?」
そして俺達の前に、立ちはだかったのはーー
「宝探しにずい分と時間かけたねえ?タイタニックだったらとっくに沈んでるよ?」
「ユーラ!」
「えっ?何で?」
ーーイェン社で堀田達と揉めてるんじゃ……?
「僕、ただでさえ敵が多いんだよ?影武者くらい常識でしょ……それに君なら、絶対ここに乗り込んで来ると思ってたから」
ユーラは息を呑むほど美しい光沢を讃えた純白のタキシード姿でうすら笑いを浮かべた。シチュエーションとのギャップのせいでやや間の抜けたコスチュームに思える反面、俺達を睨みつける目と震える声にはありったけの憤怒と憎悪が滲み出ていた。
「テメェ、ナメてんじゃねえぞ!タイマン上等だァコラ!」
俺は今度こそ奴の人中にストレートを叩き込むと決めたーーが、玄英が背中にしがみついて止めた。
「駄目!恒星!」
「玄英離せ!止めんな!コイツは一回痛い目見ねえとダメだ!」
「それでもっ……!」
「恒星!」
さらに古賀さんが前に割って入る。
「ここで面倒を起こしたら、玄英を連れ帰れなくなります。必要なら後日、然るべき法的手段を考えますから」
「……ッ」
俺は渋々拳を下ろした。
「まったく……さすがカミカゼの子孫だけあって野蛮な民族だ」
てめェに言われたくないわ!
「玄英。その安っぽい格好は何だ。君には全く似合わない」
ユーラがわざとらしく手を差し出し、玄英に向かって前に進み出た。
「晴れのパーティだろう?君にはもっと相応しい装いを用意してある」
玄英も俺を庇うように前に進み出る。
「玄英……!」
玄英はしばらく黙ってユーラを見つめ返していたが首を悲しげに振り、しかしきっぱりとこう言った。
「ユーラ。僕のことはもう忘れてーー僕では君の欠損は埋められない」
「何っ?何て言った?この僕が?どこか欠けてるって?」
ユーラの笑顔が引き攣り、だんだんと消えていった。
「そうだよ。昔からずっと感じてた。君は僕のことをよく知ってるというけど、それは違う。
昔の君は世間知らずの僕を導いてくれる本当に大きな存在だった。次第に僕は君の見たい都合のいい僕を演じるようになったし、君は僕を支配するようになった。
今ならわかる。君はどんなに成功しても空虚なんだ。僕を思い通りに従わせて他人を見下したところで、君の本質は決して埋まらないブラックホールのような、巨大で絶望的な空白ーー」
「知ったふうに適当な事を言うな!玄英のくせに!」
ユーラはついに怒りを隠さなくなった。玄英は静かに続けた。
「わかるんだよ。だって僕らは同類だからーー君も僕も一皮剥けばどうしようもない、最低な人間だから。だからお互い埋め合うように依存し合って傷つけ合うーー周りの人も大勢巻き込んで」
「不愉快だ。黙れ」
「でもーーそんな僕の欠点も情けない部分も、恒星は全部好きでいてくれる。生きてたらそれでいいって言ってくれた」
はからずも玄英が背中に背負った「天上天下唯我独尊」の字が頼もしく光る。
「ユーラ。君もそういう人を見つけるべきだーーいや、むしろ君自身が変わるべきだ。心からそう言ってあげられる人を見つけるために」
「黙れ黙れ黙れ!玄英のくせに俺に指図するな!玄英が僕の玄英でないなら、ここで一緒に死んでやる!」
ユーラが美の壺レベルなジャケットの胸元から、当然の流れのように取り出してこちらに向けたのは。
ーーピ、ピストル!?
「危ない!」
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