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⭐︎執着するS、地雷踏むM

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《玄英……やっぱり君、最高だよ》

 あの日から気がつくと日がな一日、一糸纏わぬ姿で有無を言わさず組みしだかれ彼の欲を惰性のままに受け入れているーー寝食と風呂、アリバイのための連絡をとる時すら部屋から出る事を許されない。

 救いを求める術も思い浮かばないまま、いたずらに時間だけが過ぎた。

「コウセイ……だっけ?」

 ユーラの呟きに、ピクリと反応する。

《やれやれ。アイツがそんなに好き?元々ノーマルな奴だったのに、君がこっち側に引き摺り込んだんだろ?なのに、ここまで教えてやらなかったなんて》

《うるさい……》

《僕は満足だけど。女とは違うし幻滅されるのが嫌だったとか、そんな理由だろ?潔癖症っぽいしな、アイツ》

《……》

《君が他の男に節操無くとろけてるとこなんて想像もつかないだろうな?そうだ、彼も呼んで一緒に楽しむか?》

《嘘でしょうっ……嫌!嫌だ!》

 玄英は真っ青になって首を必死に振った。

《ちょうど今、横浜だし。君がここにいるって教えたら、ボロバイクに跨ってヒーロー気取りで飛んでくるかもね?》

《やめて!彼の事はもう、放っておいて……》


 やっと気が済んだユーラから解放された玄英は精も魂も尽き果て、死骸のように再び床に横たわっていた。

《今向かっている最中だ。だからリモートにしようと言ったのに、そうがなり立てられても困る》

 ユーラは新しいワイシャツに着替え直しながら、おそらくイェン氏からの苦情の電話に怒鳴り返しているーー部屋に漂う強い香りは堕落の痕跡を取り繕うた


《まったく……せっかく支度したのに。君が誘ってきたせいで汚してしまったよ》

めのものなのか。もう一々反論する気も起きない。

《どうせ優しいとかなんとか、クソみたいな理由でアレとくっついてたんだろうが。優しいだけの男なんて、本当は物足りないんだろ?》

 勝ち誇ったような猫撫で声でユーラが話しかけてくる。

《黙って僕にしときなよ。玄英の駄目なところも恥ずかしいところも全部愛してあげられる。玄英のこと、一番よくわかってるのは僕なんだから》

ーー空気が吸いたい……新鮮な空気が。

 分厚いはめ殺しの窓から常春の部屋とは別世界の、冬の寒空が見えるーーどうせ息ができないのなら、あの窓を割って真冬の海に放り出されたい。

《さて。と。ついでに不愉快な雑魚どもをきっちり論破して黙らせて来るか》

ーー座り込みの中に、恒星もいるかもしれない……正義感の強い人だから……

《お願い。手荒な事だけはしないで》

《こちらからは仕掛けないさ。どうせその価値もない連中だ》

《元凶は君じゃないか!彼らを侮辱しないで!》

 ユーラは表情を一変させると、玄英の腕を乱暴に掴んで引きずり上げた。

《まだ口の利き方がなってないな?》

 そう言って酷薄な笑いを浮かべた。

《やっ、やめて……どこに行くの》

 裸のまま急に部屋から連れ出されそうになり、玄英は抵抗した。が、足元がおぼつかず、ずるずると引っ張り寄せられる。

《お仕置きだよ、おいで》

ーー嫌!怖い!

《外に出たいんだろう》

「嫌だ!助けて!恒星に会いたい!恒星!恒星!」

《また他の男の名前を叫んで泣くーー躾が済むまで式はお預けだな》

 ユーラは舌打ちすると、もつれて倒れた玄英の足首を引きずりながら、船の廊下をどこかへどんどん進んで行く。もはやいつそこを通るかもわからないアテンダントや取り巻きの目すら気にしていないようだ。

《やめて!お願い、やめて!》

《本当はこういうの好きなんだろ》

《やああああああー!》

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