赤いトラロープ〜たぶん、きっと運命の

ようさん

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恒星の考察による、後世のためのアリア

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「僕らの周りではその気になれば海外にも日帰りで行けて、家にいながらにして世界の絶景が見られて、それまで名前も知らなかった国に住む誰かと繋がれて、個人情報が手に入って。このままいけばAIがエッセンシャル・ワークからクリエイティブ・アクションまで人間の代わりにやってくれそうな勢いだーーそこまで進化してなお、戦争も格差も貧困も無くなる気配が無い。もちろん気候変動もマイクロプラスチックもねーー僕らは一体どこに進んでいる?」

「ーーなるほどな。玄英がそこまで気に病んでんなら俺、次の旅行までにエコバイクに買い替えようか?」

 真顔で恒星が提案すると、玄英は「うん。それもいいかもね」と笑った。

「俺は玄英の悩みは、災害や戦争が起きた場所のアスリートや芸術家達が『このまま活動していていいのか』と考えるのと似ていると思うよ。
 俺はその人が進みたい方に進めばいいと思うけど、その人にしかできない活躍をする事で希望や元気をもらえる人がもっとたくさんいて、結果、みんなが幸せになれるならそっちが正解だろうとも思う」

「……」

「飛行機だって、昔それを発明して実験を繰り返してた人達ってのがいるんだけど、ほとんどが変わり者扱いされたり借金抱えたりしながら何人も死んでる。飛行機で世の中を変えて、ついでに大儲けしのはみんな後世の連中だ。
 そこいくと俺の玄英は地球を救うかもしれない夢の素材を発明して世間からもちゃんと評価されて、飯も食えてる。飛行機があるから世界を飛び回ってどんどん普及もできる。
玄英はきっと、今よりもっとたくさんの人を幸せにできる。俺は誇らしいし幸せだよ」

 冬の午後の午後の気怠げな西日が、笑うと無くなってしまいそうな優しげな目や、そばかすの透ける浅黒い頬を照らしていた。

「グレタさんみたいに勇気を出して叫んだり、言動一致を目指そうとするのは立派だしカッコいいと思うけどさ。俺なんかみたいなのは、快適さや便利さやそれらへの憧れを捨てられない。
 怠惰なくせに人からは褒められたい。自分だけ得したいし人より賢いつもりでいるから、ネットの宣伝を信じ込み嘘八百にホイホイ騙されるーーそんなしょうもない凡人どもが世界の九割九分九厘だ。
 これだけ気候変動による災害が起きて、ウミガメやホッキョクグマだけじゃなく俺達自身が水や大気を通じてマイクロプラスチックの健康被害に遭っているのに、それを知った俺たちは正常化バイアスを働かせてでも昨日までの生活を変えられない。日々の時間の不足分と目先の得をCO2とプラスチックで補っている。
 プラスチック消費大国の日本でやっとエコバッグが普及したと思ったら、パンデミックが来た。上げ底のテイクアウト容器やリサイクルできない不織布マスクごみが増えたし、他の国でも戦争してたらCO2排出規制どころじゃないし。
 地球がそんなしょうもない人類ばかりで埋め尽くされていても、どうにか自業自得で滅びずに済むようにーー玄英がやろうとしているのはきっと、そういう大きな事なんだと思うが……道は遠そうだな」
 
 まだ今月頭の出来事のはずなのに、もう何年も前の事のような気がする。

ーー恒星。君はそのまま、どうか変わらずにいて。たとえ僕が変わってしまってもーー
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