赤いトラロープ〜たぶん、きっと運命の

ようさん

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シャーデンフロイデ,ゲッテルフンケン……年末にラ◯ュタのイカヅチ的なモン落とすの、流行ってるんですか!?

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「だって、社長代理でお忙しいんじゃ?」

「まずは牽制がてら代理人と話をしてみます。いくら積まれたかは知りませんが、私ならその段階で戦意喪失しますね」

 普段は機嫌のありどころがわからないほどポーカーフェイスの古賀さんが珍しく上機嫌オーラを漂わせている。

「じゃあ……勝てるんですね?」

「しっかりしてください。あなたお得意の『筋』がどちらにあると思ってるんです?こんなの、いっそ清々しいほどの言いがかりじゃないですか」

 そうだった。もう少しでユーラのゴリ押しに呑まれるところだった。いかんいかん。

「モリーさん達やアテンダントの証言も得られるでしょうし、直後に本人自ら踊っている写真も公表されている。おそらく嫌がらせ兼パフォーマンス目的でしょう」

 古賀さんにそう断言されて、ひとまず胸のつかえが下りた。

「いやでも、待ってください。ユーラの言い分がめちゃくちゃなのは最初からわかってますが、仮に勝っても奴にとってはした金程度の賠償金しか取れない裁判ですよね?わざわざその何十倍もの金と手間暇をかけてまで起こす意味がわかりません」

「典型的なシャーデンフロイデですよーー舞台装置だけはずいぶん大掛かりに見えますが」

「シャーデンフロイデ?」

「ええ。一言で言うと『他人の不幸は蜜の味』といった種類の感情です。自分よりも妬ましさを感じる者、気に食わない者の失敗を喜ぶ気持ちは、多少の差はあれほとんどの人間に備わっているものです。最近はインターネットとSNSの普及によって、より可視化されるようになりました。例えば不倫騒動などでバッシングを受けている有名人をさらに誹謗中傷する、とか」

「なるほど」

「こんな話もあります。ある心理学の実験で、初対面の相手同士を『自分は損も得もしないが相手は得をする』と『自分は損をするが相手はより損をする』の二択があるゲームで競わせました」

「後者の選択肢が『シャーデンフロイデ』ですね」

「そうです。国別にデータをとったところ、後者を選ぶ割合が一番多かったのは日本人だったそうですよ。行列の順番を守るとか、国際試合での選手やサポーターのマナーの良さとか、災害の時の助け合いは海外から高く評価されているのに意外ですよね。
 それはともかく『自分は損をしてでも恒星を窮地に立たせたい』っていうのがまさに、今のユーラの本心なのではないでしょうか」

 何となく納得はいったが……

 いや、完璧に頭おかしいだろうが!俺よりちょっとばかりオッサンかも知らんが、あんだけイケてて頭も切れて超のつく世界的セレブなんだから、俺みたいなド庶民の子に構ってないで、さっさと新しい恋でも見つけりゃいいのに……

 当の本人は傷心療養中設定のためかお得意のSNSも更新せず、その事でかえって憶測を呼びに呼んでバズっているという皮肉さ……

 とにかく馬鹿に金と権力と、ついでに暇なんか与えたらロクな事にならん好例だ。

「では、お言葉に甘えてよろしくお願いします……あの、弁護費用って言うんですか、どの程度お払いしたら」

 古賀さんくらいメチャ有能な人じゃバカ高そう……

「代理人同士の交渉で済めば不要ですよ。もし彼がそれでもなお悪あがきすると言うならーー」  

「なら?」

「個人的に積年の思いがありますので。願ってもない機会だ」

 古賀さんはそう言って口の端を持ち上げた。もしかしてこの事態を面白がってないか?(ちょっと怖い)

「ところでこの事は、玄英には?」

 古賀さんが逆に聞いてきた。

「いや、まだ伏せといてください。向こうでの仕事で一杯一杯だろうし、巻き込みたくない。帰ってからちゃんと話します」

「了解。話は変わりますが、恒星」

「なんですか」

「君、転職する気はありませんか?わがD's Theory社に」

「はいいいいいいいい!?」




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