赤いトラロープ〜たぶん、きっと運命の

ようさん

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悪貨は良貨を駆逐するし、無理が通れば道理が引っ込む

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 あんな馬鹿げた内容の告訴状が受理されたのか?

 慌てて小川さんに電話したら「いや、落ち着け。『訴状』なら民事だろう。警察の管轄外だ」と言う。
 
「民事……?」

「有罪か無罪かを判断するのが刑事、賠償金を請求するのは民事裁判だ。普通はいきなり訴状じゃなくて、調停なり交渉を申し入れるもんだと思うんだが。まあでも、かえってよかったんじゃないか」

「よかった、って何が?どこがですか!」

「もし告訴人に民事で示談にする意思があれば、こっちは受理しないという判断になるかもしれん」

「示談って、話し合って解決するってことですよね!仮に99パーセントOFFしてもらっても自己破産するしかないような請求金額が来てるんですが!」

「それがユーラ・チャンのやり口らしいからなあ……」

 しかもユーラの「弁護団」とやらは告訴状を提出した後、ご丁寧にも警視庁前でネットニュース配信者用の会見まで開いていたらしい。

 さすがに俺の名前までは出してないものの、ネットの一部の界隈では既に「正義中毒」に毒された連中が匿名の「犯人(?)」探しに躍起になるわ、ネット署名なんか始めるわ、アンチと泥沼バトルになって無関係なユーザーに飛び火するわ、さらに警察叩きたいだけの奴や祭り大騒ぎだけしたいだけの連中が参戦したりしてますますカオスな騒ぎとなっている。

 万一身バレなんかしたら、自己破産云々関係なく社会的に即死だろう。俺は戦々恐々としている。
 
 これってもはや個人の嫌がらせの域超えてるし、警察的にも業務妨害ーーいや公務執行妨害でユーラ逮捕できる案件じゃね?
 善良な庶民ドライバー相手にケチな違反切符切るだけじゃなくて、少しは気骨見せやがれよ!日本警察。

 ありとあらゆる手段を使って敵を叩き潰す訴訟王ーーモリーの警告を思い出した。気をつけるべきだったのはまさに俺だったのだ。

ーーモリーに相談したほうがいいのかなあ……?

ーーけど、玄英の事ならともかく、俺自身の事で先日初めて会ったばかりの人に迷惑かけんのは……

「訴状なら第一回口頭弁論の日時が書いてあるだろ。欠席すんなよ。向こうの言い分が百パーセント通っちまうからな」

「わかりました。行きゃいいんですか」

 会社も実家も繁忙期真っ只な中の貴重な一日なんですが……(泣)
 
「馬鹿。行きゃいいですかって、子どもの使いじゃねえんだ。色々証拠書類とか用意しないと勝てるもんも勝てねえぞ」

 マジかよ……

「どうにも危なっかしいなあ。悪いこたあ言わねえ、今すぐ弁護士に相談しろ。当番弁護士の先生なら、俺に心当たりが無いでもないが」

 考えてみます、と礼を言って電話を切った。

 しかし、冷静になって考えれば考えるほど馬鹿馬鹿しい。

 何にも悪いことしてないのに、なぜ野郎のせいで俺がここまで時間とメンタル削られなきゃならんのだ!理不尽だ。

 が、犬も元ヤンも歩けば理不尽に当たる、それが世知辛い世間の常ってもんかもしれない。あらゆる意味での社会的生死が懸かってるとなれば背に腹は変えられない。

 俺はついに古賀さんに相談する事にした。

 公私に渡って俺と玄英の事情を知ってるし、国際弁護士の資格も持っている。多忙な人だから裁判をお願いするのは無理だろうがワンチャン、(友達の)友達価格で引き受けてくださる笠地蔵のようなお方を紹介してもらえるかもしれない(にしたって、一体いくらかかるんだろう……?)

 
 古賀さんは「すぐ会う」と言ってくれて、遅い時間だったが以前話をした会社近くのコーヒーショップに来てくれた。

 暖冬傾向で何とも微妙に締まらないクリスマスデコレーションで彩られた店内には「第九」のBGMが流れている。この時期は世界中でハレルヤコーラスやマライア・キャリーが流れてるけど(大谷の年俸レベルの印税が転がり込んでくるとか来ないとか)年末に第九が流れる国って日本だけなんだってな。

 古賀さんは訴状に目を通し、俺はこないだのクルーズ船パーティ以来の顛末を洗いざらい話した(タキシードで寸止めだった件以外)

「大変でしたね。わかりました。ひとまず私がお引き受けしましょう」 

「ええっ?」

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