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元ご主人様、元飼い犬に手を噛まれそうになる……からの〜❔

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「ユーラ!この人に構うな」

 俺を庇うように前に立ちはだかった玄英は、阿修羅像よろしく憤怒のオーラ放出しまくりの、今まで見たことのない表情をしていた。

 恐くて綺麗でカッコいい……一瞬見惚れかけたが、はっと我に返った。庇うために広げた両手の、その指先が微かに震えている。

 俺は思わず、玄英を押しのけて前に進み出た。

「恒星?」

「下がれ玄英。喧嘩を売られたのは俺だ」

「あー本当、仲良いねぇ、君たち。見てて不愉快」

 ユーラは苦々しげに顔を歪めたが、すぐに嘘臭い薄っぺらな笑いを貼りつけた。

「玄英。会いたかったよ。今日はよく来てくれた。離婚したと聞いて僕は祝杯を挙げたよ。だが、男の趣味は悪くなったようだね」

「大きなお世話だ!」

 俺より先に、玄英が叫び返した。怒りのギアがさらに一段上がったようだ。

「今までの事を水に流して、僕の仕事のため協力したいって言ってくれたから来たのに……あなたとはもうこれきりだ。僕にも恒星にも、もうかまわないでくれ」

 ユーラはわざとらしく肩をすくめ、哀れっぽく首を横に振った。

「そんな悲しいこと言わないでくれよ!君の事を誰よりも一番よく知ってるのは僕だよ?」

 俺もキレた。

「あ"?さっきから黙って聞いてりゃーよ。しつけぇ男ぁキモいだけだぜ、オッサンよぉ?」

「キモいオッサンだ……と?」

手前てめえの方が玄英の事をよっぽどわかってるって言いやがるんならよ、こいつの今の気持ちだってわかんだろ。放っておいてくれって言ってんだから黙って放っといてやれよ?それがせめてもの男の筋ってもんだぜ」

 ユーラもキレた。

「黙れ!そっちこそ昨日今日割り込んできた、知性や品性のカケラもないサルのくせにーー」

「僕の恒星を侮辱するなーー!」

 一番キレたのは玄英だった。いきなりユーラに突進すると胸ぐらを掴み拳を振り上げた。玄英がやらなかったら、先に俺が奴を殴っていたと思うがーー

「玄英!やめろ。まずいって」

 反射的に理性のスイッチが働き、すんでのところで飛びついてギリ止めることができた。

「玄英。やっと僕の方を見てくれた」

 ユーラはユーラで玄英に挑まれたまま、ヘラヘラ笑ってるし……もしかしてこいつ、ネットの噂以上にヤバい奴なんじゃ……

「君は僕を忘れられないはずだ。君の一番の理解者で初めての恋人ーー何といっても公私ともにかれこれ15年来のつき合いじゃないか?」

 ユーラの粘着質な猫撫で声に、俺まで背筋が薄寒くなった。

《お客様っ!いかがされましたか》

 男性客室乗務員キャビンアテンダントがすっ飛んできた。同じ制服姿で後ろに控えている二人は彼とは段違いに体格がいいので警備員かもしれない。

「……」

 我に返った玄英は、チャンの胸元から手を離した。

《何でもない》

 彼の取り巻きらしい連中が駆け寄ろうとしたが、ユーラは彼らを制しタキシードの乱れを直す仕草をした。

《ドレッシングルームにご案内いたします》

 チーフアテンダント(乗務員の中でもなんかエラそうな人)が進み出てユーラに恭しく一礼をした。

《ユーラとクロエよね?一体何があったの?》

《三人とも外国語で話していたな。中国語か?》

《日本語よ。三人とも興奮して早口だったたからよく聞き取れなかったけどーー》

《あの二人は以前、ビジネスパートナーだったんだろう?つき合ってたって噂も……》

《それ、何年も前の話よ。資金繰りでも断られたんじゃない?》

《俺はユーラがクロエの連れの日本人にちょっかい出してトラブったって聞いたぜ》 

 いつの間にか終わっていた花火そっちのけでなりゆきを見守っていた野次馬達は半分安堵し、半分残念そうに散り始めた。

「恒星。ごめんーー」

 冷静になった玄英は、さっきとは別人のように青ざめた顔で今にも泣き出しそうにしていた。

「君の言う通りだ……やっぱり来るんじゃなかった」

「帰ろう」

 俺は玄英の手を掴んで引っ張ったーーやっぱり小刻みに震えている。過去に何があったのかは知らないが、この人にとって奴に歯向かうという事自体、かなりのプレッシャーだったんじゃ……

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