上 下
86 / 144

タキシードが無ければ、紋付袴を着ればいいじゃないの。

しおりを挟む
「いやいやいや、俺無理だわ。仕事が目的なら古賀さんとかジェシカ同伴でいいだろ」

「ダメ。僕のパートナーは恒星でしょ」

 玄英の機嫌が途端に悪くなる。

 個人主義でフランクで仕事とプライベートはきっちり分ける文化かと思ってたのに、参加者全員リア充前提の公私混同とか……向こうの価値観てのもよくわかんねえよな。

「同性のパートナーと来る人もたくさんいるから。大丈夫だよ?」

 俺が引いてるのは全然そこじゃない。
 玄英並みかそれ以上に金銭感覚のぶっ飛んだアッパークラスが集まるおセレブパーティってだけで、ド庶民の子にはメキシコ国境の壁並みに敷居高えんだよ!

「僕の姉もパートナーと一緒に来るんだ。理解者として力になってくれるはずだから、恒星のことを紹介するいい機会だと思ったんだ」

 こいつの実家は、家族全員が世界を股にかける実業家一家だ。

「わかった、行くよ。けど俺、タキシードなんか持ってねえし……」

 量販系紳士服店の、一着分の値段で二着買えるセールで買った冠婚葬祭全対応万能礼服じゃダメなのか?ダメなんだろうな、きっと。

「じゃあ一緒に買いに行こう!正統派英国式オーダーメイドのいい店を見つけたんだ。もちろんプレゼントするよ!」

「断る」

「ええっ?」

「金の事で借り作んの、嫌なんだよ。玄英、バカ高いの買ってくれそうだから余計に嫌だ」

「借りなんて……」

「こちとらこれでも『ボロは着てても心は錦』で29年生きてんだ。セレブだかメカブだか、クルーズだかクローズだか知らねえが、所詮おんなじ原始人の子孫のくせに身につけた布切れ一枚で門前払いしやがる気満々のお上等な集まりなんざ、こっちから願い下げだい」

「恒星……」

 玄英の不服そうな顔がだんだん泣き出しそうになったが、俺は無視した。

「あんたが俺の実家まで来てくれたから、俺もあんたのご家族に筋通しに行くってだけだ。紋付袴でいいだろ。中に入れてくれるかは知らんが」

「モンツキ……?」

「紋付ってのは、家紋の入った着物や羽織のこと。紋付羽織袴は男の和服の正装だよ」

「キモノ?いいね!すごくいい!クールだ!」

「そ、そうか……?」

 玄英が急に目を輝かせてはしゃぎ出したので、啖呵切ってたこちらが逆に引いたーー着物に対する海外出身者のテンションの高さって独特なもんがあるよな。

「そうか、その手があったか。民族衣装の正装なら全然アリだよ!じゃあ僕もお揃いで作ろうかな」

 待て。そこってカップルでお揃いにするもんなのか?パリピの常識ってのがよくわからん。

「キモノってどこで買うの?」

「商店街の呉服屋でよければ連れて行けるけど……玄英のサイズだと寸法計って特注だろうな。地味に成人式シーズン前だし、パーティには間に合わないと思うぞ」

「ああ……そうか。残念」

「って、実は和服も気が進まないんだけどな……玄英と並んだら俺、絶対猿回しの猿かよくて七五三のガキじゃん」

「そんなことないよ!絶対素敵だよ!僕、恒星の和服姿が見てみたい。そして一緒にパーティ行きたい」

 玄英は懇願するように訴えた。

「わかった、わかった」

 実は俺も、玄英の和服姿は一度見てみたいので……オフシーズンになったら焚きつけて作らせちゃおうかな。

「祖父ちゃんのはさすがに丈が短いだろうから、清さんに借りるしかないか」

「清さんだって?」

 俺の独り言に、玄英の目の色が変わった。

「ダメ。それは絶対ダメ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

年上の恋人は優しい上司

木野葉ゆる
BL
小さな賃貸専門の不動産屋さんに勤める俺の恋人は、年上で優しい上司。 仕事のこととか、日常のこととか、デートのこととか、日記代わりに綴るSS連作。 基本は受け視点(一人称)です。 一日一花BL企画 参加作品も含まれています。 表紙は松下リサ様(@risa_m1012)に描いて頂きました!!ありがとうございます!!!! 完結済みにいたしました。 6月13日、同人誌を発売しました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~

柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】 人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。 その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。 完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。 ところがある日。 篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。 「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」 一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。 いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。 合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)

【BL】はるおみ先輩はトコトン押しに弱い!

三崎こはく
BL
 サラリーマンの赤根春臣(あかね はるおみ)は、決断力がなく人生流されがち。仕事はへっぽこ、飲み会では酔い潰れてばかり、 果ては29歳の誕生日に彼女にフラれてしまうというダメっぷり。  ある飲み会の夜。酔っ払った春臣はイケメンの後輩・白浜律希(しらはま りつき)と身体の関係を持ってしまう。  大変なことをしてしまったと焦る春臣。  しかしその夜以降、律希はやたらグイグイ来るように――?  イケメンワンコ後輩×押しに弱いダメリーマン★☆軽快オフィスラブ♪ ※別サイトにも投稿しています

夏の扉を開けるとき

萩尾雅縁
BL
「霧のはし 虹のたもとで 2nd season」  アルビーの留学を控えた二か月間の夏物語。  僕の心はきみには見えない――。  やっと通じ合えたと思ったのに――。 思いがけない闖入者に平穏を乱され、冷静ではいられないアルビー。 不可思議で傍若無人、何やら訳アリなコウの友人たちに振り回され、断ち切れない過去のしがらみが浮かび上がる。 夢と現を両手に掬い、境界線を綱渡りする。 アルビーの心に映る万華鏡のように脆く、危うい世界が広がる――。  *****  コウからアルビーへ一人称視点が切り替わっていますが、続編として内容は続いています。独立した作品としては読めませんので、「霧のはし 虹のたもとで」からお読み下さい。  注・精神疾患に関する記述があります。ご不快に感じられる面があるかもしれません。 (番外編「憂鬱な朝」をプロローグとして挿入しています)  

電車の男 同棲編

月世
BL
「電車の男」の続編。高校卒業から同棲生活にかけてのお話です。 ※「電車の男」「電車の男 番外編」を先にお読みください

処理中です...