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タキシードが無ければ、紋付袴を着ればいいじゃないの。

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「いやいやいや、俺無理だわ。仕事が目的なら古賀さんとかジェシカ同伴でいいだろ」

「ダメ。僕のパートナーは恒星でしょ」

 玄英の機嫌が途端に悪くなる。

 個人主義でフランクで仕事とプライベートはきっちり分ける文化かと思ってたのに、参加者全員リア充前提の公私混同とか……向こうの価値観てのもよくわかんねえよな。

「同性のパートナーと来る人もたくさんいるから。大丈夫だよ?」

 俺が引いてるのは全然そこじゃない。
 玄英並みかそれ以上に金銭感覚のぶっ飛んだアッパークラスが集まるおセレブパーティってだけで、ド庶民の子にはメキシコ国境の壁並みに敷居高えんだよ!

「僕の姉もパートナーと一緒に来るんだ。理解者として力になってくれるはずだから、恒星のことを紹介するいい機会だと思ったんだ」

 こいつの実家は、家族全員が世界を股にかける実業家一家だ。

「わかった、行くよ。けど俺、タキシードなんか持ってねえし……」

 量販系紳士服店の、一着分の値段で二着買えるセールで買った冠婚葬祭全対応万能礼服じゃダメなのか?ダメなんだろうな、きっと。

「じゃあ一緒に買いに行こう!正統派英国式オーダーメイドのいい店を見つけたんだ。もちろんプレゼントするよ!」

「断る」

「ええっ?」

「金の事で借り作んの、嫌なんだよ。玄英、バカ高いの買ってくれそうだから余計に嫌だ」

「借りなんて……」

「こちとらこれでも『ボロは着てても心は錦』で29年生きてんだ。セレブだかメカブだか、クルーズだかクローズだか知らねえが、所詮おんなじ原始人の子孫のくせに身につけた布切れ一枚で門前払いしやがる気満々のお上等な集まりなんざ、こっちから願い下げだい」

「恒星……」

 玄英の不服そうな顔がだんだん泣き出しそうになったが、俺は無視した。

「あんたが俺の実家まで来てくれたから、俺もあんたのご家族に筋通しに行くってだけだ。紋付袴でいいだろ。中に入れてくれるかは知らんが」

「モンツキ……?」

「紋付ってのは、家紋の入った着物や羽織のこと。紋付羽織袴は男の和服の正装だよ」

「キモノ?いいね!すごくいい!クールだ!」

「そ、そうか……?」

 玄英が急に目を輝かせてはしゃぎ出したので、啖呵切ってたこちらが逆に引いたーー着物に対する海外出身者のテンションの高さって独特なもんがあるよな。

「そうか、その手があったか。民族衣装の正装なら全然アリだよ!じゃあ僕もお揃いで作ろうかな」

 待て。そこってカップルでお揃いにするもんなのか?パリピの常識ってのがよくわからん。

「キモノってどこで買うの?」

「商店街の呉服屋でよければ連れて行けるけど……玄英のサイズだと寸法計って特注だろうな。地味に成人式シーズン前だし、パーティには間に合わないと思うぞ」

「ああ……そうか。残念」

「って、実は和服も気が進まないんだけどな……玄英と並んだら俺、絶対猿回しの猿かよくて七五三のガキじゃん」

「そんなことないよ!絶対素敵だよ!僕、恒星の和服姿が見てみたい。そして一緒にパーティ行きたい」

 玄英は懇願するように訴えた。

「わかった、わかった」

 実は俺も、玄英の和服姿は一度見てみたいので……オフシーズンになったら焚きつけて作らせちゃおうかな。

「祖父ちゃんのはさすがに丈が短いだろうから、清さんに借りるしかないか」

「清さんだって?」

 俺の独り言に、玄英の目の色が変わった。

「ダメ。それは絶対ダメ」
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