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来たコレ!玄英のターン!1
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「坊ちゃんは気が強いように見えて、繊細で情にもろいお人だ。おおかた、一線を越えた責任感からあんたに合わせてるだけなんじゃないのか」
玄英は不可解そうに眉をひそめた。
「まあ、今どきの人には理解できん感覚だろうがな」
「どういうことですか?」
「坊ちゃんは酔っ払うと陽気な性質だから誰も気づかないが、実は厄介な酒癖持ちだ。驚くようなとんでもねえ事をやらかしといて、翌朝まるきり記憶が無い。翌朝気づいて『酒やめる』なんて言い出しといて、実行したためしがねえんだ。俺が思うに、今度ばかりはよっぽど懲りることがあったんじゃないか」
鋭い。
「ええ……まあ……そう言えばそうかも」
結果的に恋人同士にはなれたのだが、馴れ初めは決して大っぴらに語れるようなものではない。
「僕は彼の禁酒には全面的に賛成だし、今後もサポートしていきますよ」
「そりゃあ是非頼む……と言いたいとこだが、いいか。俺らが折れようがあんた達が押し切ろうが、坊ちゃんはいつか後悔する。大事な人が不幸になるとわかっていて見過ごすことはできない」
「恒星が僕と一生一緒にいるのが不幸だと?」
玄英は心外そうに表情を歪めた。
「ええ。だってそうでしょう。周囲に祝福される結婚をして子どもに恵まれて、幸せな家庭を築いてーー世間一般の幸せってのはそういうことでしょう」
「幸せってのは周囲が決めるもんじゃありませんよ」
玄英は語気を強めてきっぱりと言い返した。
「それに、僕はそれを目指して一度失敗しています。恒星に同じ苦しみを味わって欲しくない」
「あんたは元々男が好きなんだろうが、坊ちゃんは違う」
「清武さんはそう思うんですね。なら、静かに高見の見物でもしていてくださいませんか」
「何っ」
どこまでも冷静に、理屈で反論してくる玄英に対し、清武は怒気を露わに身を乗り出して凄んだ。まとうオーラがやはり常人のそれではない。
昨夜、一対一の喧嘩(物理)を止めてくれた恒星に感謝しつつも、彼の気迫に飲み込まれまいと玄英は、目を逸らすことなく淡々と告げた。
「確かに僕の方が恒星に惚れています。結婚するだけなら、英語圏の国なら僕はだいたい勝手がわかるし生活基盤もある。本音を言えば今すぐ彼を連れ出してそうしたい」
「あんたっ……!」
「ですが、日本流に家族を思う恒星の気持ちも無視したくはないんです。とりあえずは縁側で一緒に茶が飲める老後を目標にこの国で、恒星と幸せになる努力をしたいと思いますーーパレードなり署名運動でもしながら、ね」
清武は平手でテーブルを叩いたーー再逆転に沸き立つテレビをBGMに、店じゅうの客が振り返った。
「隠れてこそこそしていた割に、ずいぶん堂々とご立派な事おっしゃるんですね」
前のめりで噛みつく清武に、玄英は昨夜から密かに立てていた仮説を確信した。
「最初から失敗しようと思って失敗する奴なんていないんだよ。あんたどうせ、前の結婚の時だってそんな歯の浮くようなこと言っ……」
「清武さんこそ、恒星のこと好きなんでしょう」
玄英は清武の言葉を遮り、彼の目を真っ直ぐ見ながらはっきりと言い切った。
「ーー家族や恩人の孫としてじゃなく、僕と同じ気持ちで彼を見てる」
「なっ……!」
いくら杯を重ねても変わることのなかった清武の顔色が見る間に真っ赤になった。
「ああ、僕と同じと言っても、Mだとか抱かれる方って意味じゃなくて、もっと広義の……一般的な恋愛感情って意味で……」
玄英は不可解そうに眉をひそめた。
「まあ、今どきの人には理解できん感覚だろうがな」
「どういうことですか?」
「坊ちゃんは酔っ払うと陽気な性質だから誰も気づかないが、実は厄介な酒癖持ちだ。驚くようなとんでもねえ事をやらかしといて、翌朝まるきり記憶が無い。翌朝気づいて『酒やめる』なんて言い出しといて、実行したためしがねえんだ。俺が思うに、今度ばかりはよっぽど懲りることがあったんじゃないか」
鋭い。
「ええ……まあ……そう言えばそうかも」
結果的に恋人同士にはなれたのだが、馴れ初めは決して大っぴらに語れるようなものではない。
「僕は彼の禁酒には全面的に賛成だし、今後もサポートしていきますよ」
「そりゃあ是非頼む……と言いたいとこだが、いいか。俺らが折れようがあんた達が押し切ろうが、坊ちゃんはいつか後悔する。大事な人が不幸になるとわかっていて見過ごすことはできない」
「恒星が僕と一生一緒にいるのが不幸だと?」
玄英は心外そうに表情を歪めた。
「ええ。だってそうでしょう。周囲に祝福される結婚をして子どもに恵まれて、幸せな家庭を築いてーー世間一般の幸せってのはそういうことでしょう」
「幸せってのは周囲が決めるもんじゃありませんよ」
玄英は語気を強めてきっぱりと言い返した。
「それに、僕はそれを目指して一度失敗しています。恒星に同じ苦しみを味わって欲しくない」
「あんたは元々男が好きなんだろうが、坊ちゃんは違う」
「清武さんはそう思うんですね。なら、静かに高見の見物でもしていてくださいませんか」
「何っ」
どこまでも冷静に、理屈で反論してくる玄英に対し、清武は怒気を露わに身を乗り出して凄んだ。まとうオーラがやはり常人のそれではない。
昨夜、一対一の喧嘩(物理)を止めてくれた恒星に感謝しつつも、彼の気迫に飲み込まれまいと玄英は、目を逸らすことなく淡々と告げた。
「確かに僕の方が恒星に惚れています。結婚するだけなら、英語圏の国なら僕はだいたい勝手がわかるし生活基盤もある。本音を言えば今すぐ彼を連れ出してそうしたい」
「あんたっ……!」
「ですが、日本流に家族を思う恒星の気持ちも無視したくはないんです。とりあえずは縁側で一緒に茶が飲める老後を目標にこの国で、恒星と幸せになる努力をしたいと思いますーーパレードなり署名運動でもしながら、ね」
清武は平手でテーブルを叩いたーー再逆転に沸き立つテレビをBGMに、店じゅうの客が振り返った。
「隠れてこそこそしていた割に、ずいぶん堂々とご立派な事おっしゃるんですね」
前のめりで噛みつく清武に、玄英は昨夜から密かに立てていた仮説を確信した。
「最初から失敗しようと思って失敗する奴なんていないんだよ。あんたどうせ、前の結婚の時だってそんな歯の浮くようなこと言っ……」
「清武さんこそ、恒星のこと好きなんでしょう」
玄英は清武の言葉を遮り、彼の目を真っ直ぐ見ながらはっきりと言い切った。
「ーー家族や恩人の孫としてじゃなく、僕と同じ気持ちで彼を見てる」
「なっ……!」
いくら杯を重ねても変わることのなかった清武の顔色が見る間に真っ赤になった。
「ああ、僕と同じと言っても、Mだとか抱かれる方って意味じゃなくて、もっと広義の……一般的な恋愛感情って意味で……」
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