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玄英と清武、昭和の居酒屋バトル!(なお、ザル合戦ではない模様)

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 青葉造園は最寄駅から少し離れた郊外にあるが、玄英の自宅やD’sTheoryと同じ沿線上ではある。

 駅の北口側は再開発からも何となく取り残され、昭和のままの街並みが残る一角だ。地元の事情通しか通らないないような裏ぶれた細道に立ち並ぶのは色褪せて破れたファザードと色褪せた看板ーーとっくに潰れてるようにしか見えない繁華街だが、それでも夕方になると二、三軒ほどの店には灯が灯り、演歌のBGMと煙の臭いが漂う。
 ガイドブックに載ってないどころか常連以外、絶対寄り付かなそうなーーまるで高倉健あたりが主演の映画に出てきそうな店だと玄英は思った。超のつくイケメンではあるが、こんな場所には全く場違いな男ではある。

 もちろん玄英が自ら、こんなニッチでドメスティックな店を発掘したわけではない。青葉造園社員・土井清武どい きよたけ(通称・清さん)から突然連絡が入り、連れられるままに店の暖簾をくぐったのである。どこからか聞こえないコングが鳴った。

「らっしゃい。清さん」

 店にはまだ客はおらず、つけっぱなしのテレビをBGMにカウンターの中で新聞を広げていた愛想の良い老人が声を掛けた。 

 2メートルあるかないかの間口に比べたら奥行きはあるか、それでも狭い。見せの体を保つために所狭しとテーブルやイスが置かれてなかったら、十歩ほどで一周できてしまいそうだ。
 ビール文化で有名な母国の名物、地域密着型のパブでもここまで狭い店は見た事がない。ありとあらゆる場面で、より狭い空間をどれだけ効率的に使うか競い合っているかのような昭和世代の日本人の知恵に感動すら覚える。

 清武は二つしかないテーブル席の奥の方に真っ直ぐ向かい、玄英に掛けるよう目配せした。完全に清武側のホームだが、望むところである。

「おや、お連れさんかい?珍しいね。カウンターこっちじゃなくていいの?」

 店主はさっそく、ラフなオーバーシャツとデニム姿の玄英に興味深々のようだ。

「ああ。冷や二つ」

 今日の清武は普段用の作業着姿だ。揃いの法被姿は仕事始めとか起工式などのイベント限定なのだと恒星から聞いた。

 ご亭主がいそいそと冷酒とお通しの乾き物を運んでくる。

「はいよ。いらっしゃい、そちらさんお初だね」

「はい。初めまして」

 玄英も愛想よく笑顔を返した。

「ほう、ずいぶんなべっぴんさん……じゃなくて、色男だね?モデルか俳優さんみたいだ。まさか新人さんかい?」

 はしゃぎ気味の店主を、清武はギロリと睨みつけて牽制した。

「いいえ。青葉造園さんとは仕事の関係で」

「へえっ。てことは兄さんも清さんと同業……」

「ご亭主。俺、この人と込み入った話があるから」

 清武は婉曲も何も無しに、年中無休の仏頂面できっぱりと遮った。機嫌の善し悪しに関わらず年中この調子らしいが、少なくも今日に限っては機嫌がいいなんてことはないはずだ。

「わかったよ。もう邪魔しねえから用があったら呼んでくんなーーへい、らっしゃい」

 気のいいご亭主は清武に臆する事もなく、残念そうに引き下がった。まだ日があるうちだというのにぽつりぽつりと客が顔を出す。店内はあっという間に満席になった。
 キャパシティが十人ちょっとの狭い店だが、残りの客はけっこうな音量で流れている野球中継やお互いのお喋りに夢中で、他の客に会話を聞かれてしまう心配はなさそうだ。
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