赤いトラロープ〜たぶん、きっと運命の

ようさん

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実家de修羅場

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 そこで止めてりゃよかった。

 玄英があんまり「このままじゃ寝られない」と訴えるので、ちょこちょこ構ってやってるうちにそれどころでは済まなくなった。

「坊ちゃん?」

 離れで寝てるとばかり思ってた清さんが不意に襖を開けた時、俺は半裸でーーしかも下の方ーー玄英を組みしだいている状況だった。
 死んでも見られたくない人に、絶対に見られたくないタイミングだ。三人揃って目が合って、瞬間冷却で一気に冷静になる。

 天国から地獄ってさぁ……

 俺も玄英も固まってしまい、数分ほど三人で見合っていたーーような気がしたのだが、実際には秒以下だったろう。

 思いっきり「最中」ではなかったが、誤解されるには十分なシチュエーションだーーいや、誤解も何も「見たまんま」過ぎてその場を取り繕うという発想すら浮かばなかった。

 清さんが恐ろしい勢いで部屋の中に踏み込んで来たかと思うと頬に激しい衝撃を感じ、次の瞬間には部屋の端に吹っ飛ばされていたーー咄嗟に剥き出しの急所だけは庇ったが、机の角にでも激突していたら再起不能の大惨事になるところだった。

「坊ちゃん!お客人に何てことを!」

 へっ?ーーあ、そうか。そっち……

 真夜中、ベッドの上にほぼ裸の男が二人ーー浴衣帯を剥ぎ取られベッドの柵に縛りつけられた泣き顔の美青年と、抵抗する彼を身体で抑えつける部屋の主ーーむしろ犯罪行為以外の何に見えるんだ。

「坊ちゃん!俺は……俺はあんたを、こんな鬼畜にもとる所行を働くお人にお育てした覚えはっっっ!」

 清さんは号泣しながら倒れた俺に覆い被さり、胸ぐらを掴んでゆさゆさと揺すり出したーーいや、鬼畜な所行はいつものことなんだが、あくまで合意の上でよりよきリア充ライフのためだーーって、そんな言い訳したら絶対また殴られる。

「社長業を継ぐ気がねえのも、立派な年して身を固める気がなくてふらふらしてんのもまだ許せます。筋の通った人間でさえいてくれたら、いっそヤンキーや半グレでもよかったんだ」

 いつも無口で冷静沈着な清さんがめっちゃ喋ってる。というかパニクってる。

 中途半端なヤンキー生活に明け暮れていた黒歴史生産ラインの最盛期、将来を案じた清さんに根気よく軌道修正させられて今の俺がある。

 頭越しに怒鳴りつけるのではなく、自身の体験談も語りながら諄々じゅんじゅんと諭すスタイルで、かえってそれが凄みがあった。約束を違えたら何をされるかわからないような本気の怒りがじわじわと伝わってきて、瞬間湯沸かし器の祖父ちゃんの数百倍怖かったものだ。

 恥ずかしながら、当時の俺は空気を読まない去勢張りの怖いもの知らずだったから、そこから何度か取っ組み合いの喧嘩になったこともあるーーそれだって全然歯が立たなかったけど。
 有無を言わさない一方的な鉄拳制裁って生まれて初めてじゃね?何げにダメージでかいわ。

「ご気性の真っ直ぐな方にお変わりはないと信じて、この手をお離ししたばっかりに!清が間違っておりましたああああ!」

「ちょ……ちょっと待ってくれ、清さん」

 ここまで取り乱す清さんを生まれて初めて見た。いや、清さんが泣くとこ自体初めて見た。
 俺は清さん以上にパニクってしまい、どうしたらいいかわからない。

「かくなる上は亡きおかみさんの墓前で腹かっさばいて、死んでお詫びを!」

「清さん、落ち着いて……!」
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