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青葉家、ファミリー・ヒストリー(@エコー)

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「何だかんだで四年ばかり経った頃にカミさんが危篤になっちまってな。どうにかこうにか人伝にあの親不孝娘を呼び戻したんだよ。そしたら何と二つ身だよ。三歳の恒星を連れてたのには驚いたね!
 よくよく話を聞いてまた驚いた。何でも亭主とはとっくに別れたんだと。赤ん坊の世話でてんてこ舞いの最中に亭主に浮気されたんだとか何とか……父親あロクでもねえが、孫は何てったって可愛いやい。
 真新しいカミさんの仏壇に俺ぁ誓った。
 跡継ぎだ婿だと、あんまり決めつけてやかましく言い過ぎたんじゃねえかとこの三年間、くる日もくる日も反省してた。
 たとえ片親だろうがこの子が立派に育つよう、あいつが母親業を全うできるように黙って手だけ差し伸べてやろうと決めたんだ。
 そしたらどうだい、奴さんたら四十九日も終わるか終わらねえかのうちに、
『念願の跡取りを連れて来たんだから、あたしにはもう何も期待しないで』
『あたし真実の愛に出会ったの。今度こそ幸せになるわ』
 とかなんとか浮かれた置き手紙残して、ふらりとまた姿を消しやがったーー『アルプスの少女ハ○ジ』のデーテおばさんかよってんだ。
 それから俺ァ、『赤城の子守唄』よろしく四苦八苦の孫育ての日々だーー娘の時だってカミさんに任せっきりだったんだ、涙無くしちゃ語れねえ。喜びも悲しみも幾星霜、(中略)思えば遠くにきたもんだ、ってなもんでさ。おい恒星」

 やっぱりこっちにお鉢が回って来たよ(げんなり)

「今回の話はまァ、仕方がねえ。俺が先様によくよく頭下げりゃあいい話さ。
 だがよ。お前さんが家を出んのを許したのは、独身貴族で好き勝手させるためじゃあねえぞ。
 お前ときたら幾つになっても何かと言やぁ『清』『清』って手を焼かせるわ、当の清もずっと独り身だわ、それがずっと気掛かりだったからさ。
『可愛い子には旅をさせろ』だの『他人の釜の飯を食わせろ』挙げ句の果てにゃ『祖父ちゃん子は三文安い』なんて昔っからよく言うしな。お前さんが一人前になってくれるんならと、そう思って許したんだ」

 ううう……

「不調法な男所帯にしちゃァよくぞ真っ当に、健康に育ってくれたと感謝してるこのご時世だし、サラリーマンのお前に今さら家業を継げたぁ言わねえ。が、いい歳して筋のひとつも通せないってんじゃあお前さん、それぁ通らねえぜ。
 何だかんだでお前さんも三十路だ。この後に及んでひ孫の顔が見てみてえなんて贅沢ぁ言わねえが、そろそろこの年寄りを安心させてくれたってバチぁ当らねえと思うんだがなぁ」

 祖父ちゃんごめん……そんな日はもう永遠に来ないかもしれない。

 老体に鞭打って俺みたいな悪ガキを育ててくれた事には感謝してるし、何なら介護も引き受けるつもりだけど。円満にオッサン化を迎えつつあるアラサー孫の心配なんかもうしないでくれ……

「縁談のこと、すっかり忘れてたのは謝るよ。つか祖父ちゃんもさ、初対面のお客さんの前でわざわざそこまでディープな話、しなくてもよくね?」

「ああっはっはっは、そう言やぁそうだ。どうも爺馬鹿がお恥ずかしいところをお見せしちまって。遠山社長、きっとこれも何かのご縁だ。そちらの会社でどなたかご紹介願えませんかねえ」
 
 嗚呼、祖父ちゃん大暴走。

「やめろよ。この人の会社、全然そういう感じじゃないんだから。第一コンプライアンスってもんが……」

「なに、コンパネだか何だか知らんが、どこの会社にだって適齢期の女子社員の一人くらいおられるだろうよ。ときに社長、ご結婚の方は?」

「昨年、離婚しました」

 カコーン……

 終始社交用スマイルを崩さずさらりと愛想良く答えた玄英を俺は尊敬した。「俺の辞書にデリカシーとかコンプラという文字はない」ザ・昭和の男も「へえ、そりゃどうも……ご愁傷様で」と決まり悪そうに黙り込んだ。
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