赤いトラロープ〜たぶん、きっと運命の

ようさん

文字の大きさ
上 下
62 / 144
6

実家トラップ発動!仁義無用の鹿おどしバトル(えっマジで?)

しおりを挟む
「親方」こと俺の母方の祖父ちゃん青葉恒三は、後期高齢者になりたてホヤホヤではあるが、足腰はしっかりしてるし脱いだらスゴい(筋肉的な意味で)現役バリバリのガテン系職人だ。
 口より先に手が出る昔気質の職人連中を束ねるだけでなく、正真正銘の若手時代からこの家に住み込ませて公私の別なく面倒を見てきた、技術的精神的師匠でもある。
 力仕事は「若手」に任せる場面も増えたが、家の石垣程度なら自分一人で完璧に組み上げられる。

「いえいえどうして。恒星は正直な、立派な人ですよ。僕はいつも助けられています」

 玄英は優美に微笑んだ。玄フライング気味に爆弾を落とさないか気が気ではないのだが、その辺は読んでくれているようだ。

「世界を股に掛ける若社長にそう言っていただけると恐縮です……ささ、もう一杯」

 俺もこの人に褒められると光栄だし、やっぱり嬉しい。

 カコーン……

「造園屋さんのお家だけあって素敵なお庭ですね。特にあれがいいですね……バンブーチューブ……すごくいい音がする」

「ああ、鹿おどしね。家はボロだが庭は商品見本みたいなもんだからね、それなりに手を入れてるんだ。はっはっは」

「シシオドシ、ですか。『ワビ、サビ』という感じがして本当にいいですね。僕もああいうの欲しい」

 あのセレブ御用達タワマンに鹿おどし……って、一体、どこに置くんだよ。バーカウンターとか?流石にシュール過ぎんだろ。

「大昔は農家が作物を荒らす獣を追い払うためのものだったそうですがね。大雨や台風の時なんか、ガコンガコンうるさいですよ。ははは」

 玄英の社交的才能ーー相手のバックボーンや性格を素早く理解してそつなく懐に入り込む会話術のお陰もあるだろうが、やはり玄英本来の真面目さや人に対する優しさ、礼儀正しさが祖父ちゃんに気に入られたのだろう。

 昭和気質で基本的に新しいもの嫌いの祖父ちゃんまで落とすとはおそろしい子……いや。嬉しい誤算だ。

 もっと玄英の人となりを知ってもらえたら案外、俺達のことも受け入れてくれるんじゃないか?とも思えてくるのだが、それは甘すぎるのかな。

「そういや恒星。お前さん、しばらくこっちに来てなかったからよ。こないだの縁談話、進めといたぞ」

「縁談?誰の?清さんの?」

「馬鹿このウスラトンカチ。寝ぼけたこと言ってんじゃねえよ。お前さんのに決まっとろうが」

「は?俺の縁談?」

 カコーン……

「確かに清の奴がいつまでも独り身ってぇのも長年の頭痛の種なんだが。弟分のお前がいよいよ身を固めるってなりゃ、奴さんだって本気出すだろうよ」

 何この地雷トラップin実家。

「そんなん聞いてないよ!」

「まったく呆れたやつだな。忘れたたあ言わせねえぞ。春先に浅井さんとこの親戚の娘さんどうだって聞いたじゃねえか」

 ……ええと……

「お前さんだって珍しく乗り気で、会うだけ会ってみたいって。ところが先方のお嬢さんもお前も年度末だ異動だって都合は合わないわ、こちとらこれでも繁忙期だわでな。それでズルズルと日延べになってた」

 あーー……

 玄英と出会う少し前に、そんな話があったような……

 あの時は俺、まるっとフリーだったし、年齢的にも人並みに婚活云々なんてのが頭をかすめたりしてたんだよな……玄英と出会う前の記憶がビッグバンとかジーザス爆誕前レベルの大昔のことのように思える。

「思い出した……けど、こないだって!正月かそこらの話じゃないか。とっくに無くなったと思ってた」

 ここん家の人らの感覚だと「十年一昔」イコール「こないだ」らしい。長く生きてると人生の縮地法でも発動すんのか?って、そこら辺はツッコんでも仕方がないが。
 ツッコミ待ち失敗からの暴走ボケに、まさかそんな伏線が?どんだけ激アツなんだよ、俺の結婚熱@実家(本人除く)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

初体験

nano ひにゃ
BL
23才性体験ゼロの好一朗が、友人のすすめで年上で優しい男と付き合い始める。

迷想画廊

マサキ エム
BL
昭和中期、戦後、東京。 坂上啓は、普段は眼帯で片目を隠して生活している。 常人には見えない不思議な景色を見ないようにするためだ。 書道家の祖父、標文の家から、都内の美術専門学校に通っている。 絵画の師である高梨英介に尊敬以上の想いを寄せるも、自分に自信が持てず、恋心を伝えられずにいる。 見える景色が何を意味するのか、描くことで答えを見つけようとするが、わからない。 その悩みをよそに、啓の描いた油彩画は高い評価を受ける。 ある日、高梨の叔父であり、画廊を営む北原諭介に、啓の絵を画廊に置きたいと商談を持ちかけられる。 啓と同じように右目を隠す北原は、人形の様な美貌を持つ不思議な男だった。 初めは北原を警戒していた啓も、北原の姪、愛子と親しくなる内、徐々に打ち解けていく。 一方、啓の親友、飯田和美の義兄で刑事である飯田無流は、体の一部を切り取り持ち去る連続傷害事件の捜査に奔走していた。 そこに“連続珍猫行方不明事件”を追って聞き込みをする、新聞記者の椎名八重に出くわす。 二つの事件は関係している? 啓の体質と、絵画が示す、事件解決の糸口とは――?

今日も武器屋は閑古鳥

桜羽根ねね
BL
凡庸な町人、アルジュは武器屋の店主である。 代わり映えのない毎日を送っていた、そんなある日、艶やかな紅い髪に金色の瞳を持つ貴族が現れて──。 謎の美形貴族×平凡町人がメインで、脇カプも多数あります。

どうして、こうなった?

yoyo
BL
新社会として入社した会社の上司に嫌がらせをされて、久しぶりに会った友達の家で、おねしょしてしまう話です。

俺の推し♂が路頭に迷っていたので

木野 章
BL
️アフターストーリーは中途半端ですが、本編は完結しております(何処かでまた書き直すつもりです) どこにでも居る冴えない男 左江内 巨輝(さえない おおき)は 地下アイドルグループ『wedge stone』のメンバーである琥珀の熱烈なファンであった。 しかしある日、グループのメンバー数人が大炎上してしまい、その流れで解散となってしまった… 推しを失ってしまった左江内は抜け殻のように日々を過ごしていたのだが…???

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

切なくて、恋しくて〜zielstrebige Liebe〜

水無瀬 蒼
BL
カフェオーナーである松倉湊斗(まつくらみなと)は高校生の頃から1人の人をずっと思い続けている。その相手は横家大輝(よこやだいき)で、大輝は大学を中退してドイツへサッカー留学をしていた。その後湊斗は一度も会っていないし、連絡もない。それでも、引退を決めたら迎えに来るという言葉を信じてずっと待っている。 そんなある誕生日、お店の常連であるファッションデザイナーの吉澤優馬(よしざわゆうま)に告白されーー ------------------------------- 松倉湊斗(まつくらみなと) 27歳 カフェ・ルーシェのオーナー 横家大輝(よこやだいき) 27歳 サッカー選手 吉澤優馬(よしざわゆうま) 31歳 ファッションデザイナー ------------------------------- 2024.12.21~

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

処理中です...