上 下
60 / 144
6

玄英旋風、第一波

しおりを挟む
「……俺はここんの孫で恒星。よろしくな。ところでダイ」

「はい」

「何をどう教わったのか知らんけど、兄さん方から教わることをあんまり真に受けない方がいいと思う……」

「え、え?そうなんですか?」

 達成感すら感じるドヤ顔から一変して狼狽えるダイ、非情にも腹を抱えて笑い転げる白髪混じりの兄弟子にいさん方。ひでえ。 

「仕事以外のことは、な」

 俺がバイトを兼ねて手伝いに入り始めたのは十代のトンがってた生意気盛りの頃だった。一枚も二枚も上手の兄さん達に突っかかっては手のひらで転がされ、逆にちょくちょく遊ばれたものだ……今となってはいい思い出だ。

「清さん」

「はい坊ちゃん」

「兄さん方が面白がって新入りに変なこと教えてんの、放っとくんじゃないよ。どうせ教えるならもっと役立つことを教えてやらないか」

「面目ございません。目が届きませんで……ところで坊ちゃん、後ろのお客人は?」

 俺の後ろからついて来ていた玄英が、いい年をした孫を猫可愛がりする婆ちゃん連中……ならぬおっちゃん連中の様子を、興味津々で観察中だった。危うく存在を忘れるところだった。

 私服バージョンの玄英はデニム地のオーバーオールに着替え用のボストンバッグを肩に掛けている。
 その場の全員を見下ろせる180センチ近い長身の作業着姿でありながら、早朝の光の中でハーフアップから溢れた長めの前髪が早朝の光の中微風そよかぜに遊び、儚げな透明感と物憂げな色香を放っている。「スタンド・バイ・ミー」か何かを口ずさみながら大陸横断鉄道の果てに歩き去ってしまいそうだ。

「へっ?……ひょっとして……坊ちゃんのこれですかい」

 悪ノリに輪をかけるタイプの敏さんが、下ネタを披露する時の下世話な笑顔で小指を立てたーー昭和ノリが相変わらずしょうもない。

「ああ。そうだよ」

 面倒臭くなってあまり考えずに放った一言で、一同騒然となる。

「ま、まさかの青い目の嫁さん?」「どえらいべっぴんさんだ!」「坊ちゃんもやるな!」

「国際結婚?しかも姉さん女房じゃねえか?」

「いやはや!こいつは朝っぱらから目出度めでてえや!」

「坊ちゃん、水臭いですよ!」

「そうならそうと早く言ってくれれば!」

「これで青葉造園も安泰だ!」

「ささ姐さん、どうぞ中に!あー、キャンユースピークジャパニーズ?」

「それにしてもえらく急だな。もしや出来ちゃった婚か?」

「馬鹿、昨今はおめでた婚っつうんだよ」

「いやはや、坊ちゃんやるなあああ!」

「目出度え事にゃ変わりはねえ。いっそ手間が省けちゃっていいや」

「こりゃあ仕事どころの騒ぎじゃねえや。清。仕出しに鯛のお頭つきつけて頼んどけ!」

「ダイ、急いで親方に報告を!」

「ガッテン承知!」

「待てーーーーーーーーーーーーっ!」

 男だらけのカオスな昭和コントに俺がキレたのと、玄英の引き笑い+大爆笑(デスメタル寄りのバリトンだった)にみんなが固まったのとが同時だった。

「揃いも揃って間に受けんな!その人はD’s Theoryの社長さんだ!社員研修の委託元で、今日の見学者だよ!」

 しかも電話口で祖父ちゃんに気に入られ「見学だけなんて言わず、飲んで泊まっていきねえ」と誘われたらしい。
 まるっと孫の俺の頭越しに、昔気質の祖父ちゃんに気に入られるとは……恐るべし玄英のコミュ強ぶり……

「社長さんなの?若え!」

「よく見りゃハリウッドスターみてえな色男だ!」

「お客人は、あれですかい?今流行りのカストリだかニジマスだか……ほら、スティーム・ジョブズみてぇな?」

 色々惜しすぎて何言ってるかわかんねえよ(笑)

「でも坊ちゃん、英語なんかできましたっけ?」

「中高生の頃はしょっちゅう赤点取ってたような」

「この人、日本語ペラペラだしご両親は日本人だそうだよ。祖母ちゃんがイギリス人らしい」

 いくら実家にしたって、このプライバシーとデリカシーの無さよ。こんなに疲れる所だったっけ……?

 ガラスのハートの全力少年時代にグレたくなるのも無理はない……我ながらよく更生したと思うわ。恒星だけに(ゴメンどうしても言いたかった)

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

体育教師に目を付けられ、理不尽な体罰を受ける女の子

恩知らずなわんこ
現代文学
入学したばかりの女の子が体育の先生から理不尽な体罰をされてしまうお話です。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

食事届いたけど配達員のほうを食べました

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
なぜ自転車に乗る人はピチピチのエロい服を着ているのか? そう思っていたところに、食事を届けにきたデリバリー配達員の男子大学生がピチピチのサイクルウェアを着ていた。イケメンな上に筋肉質でエロかったので、追加料金を払って、メシではなく彼を食べることにした。

理香は俺のカノジョじゃねえ

中屋沙鳥
BL
篠原亮は料理が得意な高校3年生。受験生なのに卒業後に兄の周と結婚する予定の遠山理香に料理を教えてやらなければならなくなった。弁当を作ってやったり一緒に帰ったり…理香が18歳になるまではなぜか兄のカノジョだということはみんなに内緒にしなければならない。そのため友だちでイケメンの櫻井和樹やチャラ男の大宮司から亮が理香と付き合ってるんじゃないかと疑われてしまうことに。そうこうしているうちに和樹の様子がおかしくなって?口の悪い高校生男子の学生ライフ/男女CPあります。

初体験

nano ひにゃ
BL
23才性体験ゼロの好一朗が、友人のすすめで年上で優しい男と付き合い始める。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

イタズラ後輩と堅物上司

凪玖海くみ
BL
堅物で真面目な会社員・真壁尚也は、いつも後輩の市川悠太に振り回されてばかり。 そんな中、ある出来事をきっかけに、二人の距離が少しずつ縮まっていく。 頼ることが苦手な尚也と、彼を支えたいと願う悠太。仕事と日常の中で繰り広げられる軽妙なやり取りの果てに、二人が見つけた関係とは――? 職場で繰り広げられる、不器用で心温まる大人のラブストーリー。

熱中症

こじらせた処女
BL
会社で熱中症になってしまった木野瀬 遼(きのせ りょう)(26)は、同居人で恋人でもある八瀬希一(やせ きいち)(29)に迎えに来てもらおうと電話するが…?

処理中です...