赤いトラロープ〜たぶん、きっと運命の

ようさん

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玄英旋風、第一波

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「……俺はここんの孫で恒星。よろしくな。ところでダイ」

「はい」

「何をどう教わったのか知らんけど、兄さん方から教わることをあんまり真に受けない方がいいと思う……」

「え、え?そうなんですか?」

 達成感すら感じるドヤ顔から一変して狼狽えるダイ、非情にも腹を抱えて笑い転げる白髪混じりの兄弟子にいさん方。ひでえ。 

「仕事以外のことは、な」

 俺がバイトを兼ねて手伝いに入り始めたのは十代のトンがってた生意気盛りの頃だった。一枚も二枚も上手の兄さん達に突っかかっては手のひらで転がされ、逆にちょくちょく遊ばれたものだ……今となってはいい思い出だ。

「清さん」

「はい坊ちゃん」

「兄さん方が面白がって新入りに変なこと教えてんの、放っとくんじゃないよ。どうせ教えるならもっと役立つことを教えてやらないか」

「面目ございません。目が届きませんで……ところで坊ちゃん、後ろのお客人は?」

 俺の後ろからついて来ていた玄英が、いい年をした孫を猫可愛がりする婆ちゃん連中……ならぬおっちゃん連中の様子を、興味津々で観察中だった。危うく存在を忘れるところだった。

 私服バージョンの玄英はデニム地のオーバーオールに着替え用のボストンバッグを肩に掛けている。
 その場の全員を見下ろせる180センチ近い長身の作業着姿でありながら、早朝の光の中でハーフアップから溢れた長めの前髪が早朝の光の中微風そよかぜに遊び、儚げな透明感と物憂げな色香を放っている。「スタンド・バイ・ミー」か何かを口ずさみながら大陸横断鉄道の果てに歩き去ってしまいそうだ。

「へっ?……ひょっとして……坊ちゃんのこれですかい」

 悪ノリに輪をかけるタイプの敏さんが、下ネタを披露する時の下世話な笑顔で小指を立てたーー昭和ノリが相変わらずしょうもない。

「ああ。そうだよ」

 面倒臭くなってあまり考えずに放った一言で、一同騒然となる。

「ま、まさかの青い目の嫁さん?」「どえらいべっぴんさんだ!」「坊ちゃんもやるな!」

「国際結婚?しかも姉さん女房じゃねえか?」

「いやはや!こいつは朝っぱらから目出度めでてえや!」

「坊ちゃん、水臭いですよ!」

「そうならそうと早く言ってくれれば!」

「これで青葉造園も安泰だ!」

「ささ姐さん、どうぞ中に!あー、キャンユースピークジャパニーズ?」

「それにしてもえらく急だな。もしや出来ちゃった婚か?」

「馬鹿、昨今はおめでた婚っつうんだよ」

「いやはや、坊ちゃんやるなあああ!」

「目出度え事にゃ変わりはねえ。いっそ手間が省けちゃっていいや」

「こりゃあ仕事どころの騒ぎじゃねえや。清。仕出しに鯛のお頭つきつけて頼んどけ!」

「ダイ、急いで親方に報告を!」

「ガッテン承知!」

「待てーーーーーーーーーーーーっ!」

 男だらけのカオスな昭和コントに俺がキレたのと、玄英の引き笑い+大爆笑(デスメタル寄りのバリトンだった)にみんなが固まったのとが同時だった。

「揃いも揃って間に受けんな!その人はD’s Theoryの社長さんだ!社員研修の委託元で、今日の見学者だよ!」

 しかも電話口で祖父ちゃんに気に入られ「見学だけなんて言わず、飲んで泊まっていきねえ」と誘われたらしい。
 まるっと孫の俺の頭越しに、昔気質の祖父ちゃんに気に入られるとは……恐るべし玄英のコミュ強ぶり……

「社長さんなの?若え!」

「よく見りゃハリウッドスターみてえな色男だ!」

「お客人は、あれですかい?今流行りのカストリだかニジマスだか……ほら、スティーム・ジョブズみてぇな?」

 色々惜しすぎて何言ってるかわかんねえよ(笑)

「でも坊ちゃん、英語なんかできましたっけ?」

「中高生の頃はしょっちゅう赤点取ってたような」

「この人、日本語ペラペラだしご両親は日本人だそうだよ。祖母ちゃんがイギリス人らしい」

 いくら実家にしたって、このプライバシーとデリカシーの無さよ。こんなに疲れる所だったっけ……?

 ガラスのハートの全力少年時代にグレたくなるのも無理はない……我ながらよく更生したと思うわ。恒星だけに(ゴメンどうしても言いたかった)

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