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ドリフの赤まむしコントって知ってる?

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「お帰り!恒星」

 玄英は部屋のドアを開けるなり、ゴールデンレトリバーみたいな瞳をくるくるさせて俺に飛びついた。

「お腹空いてない?」

 新婚夫婦のコントかよ。無駄にクソ可愛い。

「大丈夫。時間潰しがてら食ってきた」

 玄英は今日は出社日だったので、彼の帰宅時間に合わせてマンションに立ち寄った。

「来る予定じゃなかったのに、悪いな」

「ううん。連絡くれて嬉しかったーー僕の方も週末まで我慢できそうになかったから」

 それって心理的に?それとも生理的……まあ、どっちでもいいや。

 一昨日まで連泊したばかりじゃなかった?

「こういうときのために、恒星の情報も登録しとこうよ?」

 コイツんちの鍵は生体認証式だ。

「いや、要らんわ。なんかそういうの苦手だし……」

「スマホと変わらないよ?いっそここに引っ越して来たらいいのに」

「それもいいや。たまに来るならいいが、住むのはちょっと……」

 玄英の方は、今や時の人である天才研究者で企業家、こちらは一日8+α時間労働の平均的サラリーマンで土日は実家の手伝いが入る事が多い。
 二人の時間を確保するにはスキマ時間を撚《よ》って繋げるしかなく、いっそ同棲してしまった方が楽なのだが。

 本音を言うとこいつの希望通り、なし崩し的に俺が居候状態になってしまいそうで嫌なのだ。

 いや、連泊はするわ着替えや私物を持ち込んじゃってるわで、既に半分そうなりつつあるんだけど。一線を引いておきたいってのは俺の単なるこだわりだ。

 確かにこいつのマンションは一流ホテルのスウィート並に快適だ(泊まった事ないから想像だけど)

 ロビーに常駐するコンシェルジュ氏は急ぎのクリーニングから食事のデリバリー、電池一個の買い物まで何でもやってくれる。部屋の掃除はプロの家事サービスがしてくれるし、名前呼んだら返事するAI的なヤツが空調も風呂も家電の操作もやってくれて、BGMまで流してくれる。
 マンション内にはジムもスパもカフェテリアもーー玄英によると核シェルターまでーー揃っている。
 その気になれば建物から一歩も出ずに世界の終わる日まで生活できそうだ。ただし、金が続く限り、という事になるが。

 冷静になって自分の身の丈を考えると、そういった生活に慣れてしまうのはよくないし、玄英の好意に甘え過ぎるのも違うと思う。

 玄英はそんなこと気にしちゃいないし、むしろ一緒に暮らしたがっている。筋を通したいのは山々だが、ここの家賃なんか折半できないしーー

「一緒にお風呂入ろ?」

「入らねえよ」

「なら、恒星がくれたほうじ茶淹れるね?あれ、意外と美味しいよね」

 こちらの気も知らないで脳天気にうきうきとじゃれつく玄英に苛立ってしまい、つい胸ぐらを掴んで壁に押しつけてしまった。

「そんなことよりアンタ、俺に何か言うことあんだろ」

 本当は部屋で落ち着いてからゆっくり切り出すつもりだったのに。

「ご、ご主人様……玄関でいきなり壁ドンの応用技とか……急にスキル上げましたよね」

「恥じらうな!無駄にテンション上げんな!」

 ……初手から失敗した。こいつの性癖はわかってるはずなのに、こっちの短気だって生まれついてのもんだからそう簡単に直せない。
 俺はすぐ手を離し「悪い。中で話そう」とリビングのドアを目指した(この玄関ホールがまた、無駄にクソ広・以下略)

「……からの放置?ステイはここ?服も脱ぎますか?」

 玄英は顔を上気させながら、すぐ横の全身鏡をチラチラ見たーーなるほど、そういうのもあ……

 じゃ、ねえわ!

「そういうプレイじゃねえっつってんだよ!こっちは話があって来てんだ!いいから中入って座れ!」

「えっ……じゃ、もしかしてマジのやつ……?」

「もしかしなくてもそうだよ!」

 仕事着のままリビングのソファに掛けると、玄英は屈めた長身を無言で膝の上に預けてきた。

「重い」
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