赤いトラロープ〜たぶん、きっと運命の

ようさん

文字の大きさ
上 下
55 / 144
6

推し活最大のイベントってやっぱり、聖地巡礼ですかね。

しおりを挟む
 遠山玄英って本当は二人いて、俺はこっちの玄英に騙されてるんじゃないか?
……そう思ってしまうくらいこの人、感情の起伏とギャップが大き過ぎて時々扱いづらい。Mのくせにメガトン級の甘えん坊だし。

 玄英は頭だけ持ち上げて俺を見上げると、全年齢の乙女がもれなく恋に落ちてしまいそうな天真爛漫かつ蠱惑こわく的な笑みを浮かべた。

「めちゃくちゃにして?そしたらちゃんと話を聞く」

ーーこ、こいつ…… 

「しない。離れろ」

 しかも知能犯で確信犯だし。これは絶対俺のウィークポイントを狙ってやってる奴だ。

 無防備にはしゃぐ玄英に一瞬ほだされかかったが、どうにか保っていた怒りの感情が辛うじて勝ったーー英雄かよ、俺。
 人間の感情エネルギーで性欲よりデカいのが唯一、怒りだって言うからな。

「座れ。難しい話じゃないからすぐ終わる」

 俺は毅然として、俺の側ではなく対面側のソファを顎で指した。

「新しいプレイ?」

「そう思って我慢しとけ」

 キレたら負けだ。玄英はするすると俺の足元に降りると床の上にちょこんと正座したーーそういう意味じゃあねえんだがーーまあいいか。

「話って何?」

 俺は俺なりにこいつの扱いにどうにか慣れつつある(と信じたい)

「あんたの会社、研修で俺の実家に来るって聞いたんだけど」

 あくまでフラットに、事務的に話を切り出す。

「そう!楽しみだなぁ。案内よろしくね」

 玄英は悪びれることなく嬉しそうに笑った。

「いや俺、会社で今日、初めて聞いたんだけど……」

「えっ、そうなの?」

 玄英は意外そうに目を丸くした。

「いや、それはどうでもいいんだ。こっちの単なる事務連絡の不手際だから。ただ普通、こういう話って先に俺に相談してくれるもんじゃないの?」

「……」

 押し黙る玄英。これはついウッカリ、などではなく確信犯っぽいな。そもそもこの人がウッカリするとこなんて見た事ないし。

「確かにお互い、仕事とプライベートは極力分ける事にしてるし、ましてやあんたの会社のことに口挟むつもりなんか一切ないけどさ」

「ダメだった?」

 わざわざ長身を屈め、潤んだ瞳で見上げられたって動じるもんかーー胸元緩め過ぎだし。あざと過ぎんぞ、くそ(可愛い)

「恒星の仕事にも家にも悪い話じゃないと思うんだよね。見学して現場を見せてもらった上で、青葉造園さんに業務用資材のモニターをお願いしたいとも思ってるし。それに……」

「わかってて論点を反らすなーっ!」

 平手でテーブルを叩いたら玄英は「ひゃっ」と飛び上がった。

「ダメだったとかあぶく立った煮え立ったとか、そういう話をしてんじゃねえんだよ!」

 俺は手のひらの激痛を押し殺して叫んだ。マホガニーのアンティークだかなんだかの馬鹿みたいに頑丈なテーブルだ。骨にヒビ入ったかもしれん……叩くんじゃなかった。

「何で今度の土曜に俺の実家に行くって、直接言わねえんだよ!ホムパのその場のノリレベルの話を、何しれっとオフィシャルな話にしてんだよ?そもそもあんたあの時、自分も行きたいなんて言わなかったじゃん!」

 落ち着いて話し合ってさっくりと終わらせるつもりだったのに、勢いに乗ってついまくし立ててしまった。

「……ええとだって僕、その場にいなかったし」

 そうだったっけ?

「僕も行きたいなんて言ったら、恒星、嫌がるかなって思って……」

 玄英はすっかりしゅんとなってしまった。

「色々理屈はつけたけど……僕、単純に好きな人の生まれ育った場所が見てみたいんだよ。恒星を育ててくれたご家族にも会って見たかったし……」

 玄英はうつむきながら、訥々とつとつと言い訳を始めた。

 ううっ……可憐だ(図体デカいけど) 

「この国で、同性のパートナーを家族に紹介しづらい事情は僕もよくわかってる。仕事絡みにでもしなきゃ、そんな機会なんて永遠に訪れないだろうと思って……」 

 何それ(きゅん)

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

観念しようね、レモンくん

天埜鳩愛
BL
短編・22話で完結です バスケ部に所属するDKトリオ、溺愛双子兄弟×年下の従弟のキュンドキBLです 🍋あらすじ🍋 バスケ部員の麗紋(れもん)は高校一年生。 美形双子の碧(あお)と翠(みどり)に従兄として過剰なお世話をやかれ続けてきた。 共に通う高校の球技大会で従兄たちのクラスと激突! 自立と引き換えに従兄たちから提示されたちょっと困っちゃう 「とあること」を賭けて彼らと勝負を行いことに。 麗紋「絶対無理、絶対あの約束だけはむりむりむり!!!!」 賭けに負けたら大変なことに!!! 奮闘する麗紋に余裕の笑みを浮かべた双子は揺さぶりをかけてくる。 「れーちゃん、観念しようね?」 『双子の愛 溺愛双子攻アンソロジー』寄稿作品(2022年2月~2023年3月)です。

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

ハイスペミュージシャンは女神(ミューズ)を手放さない!

汐瀬うに
恋愛
雫は失恋し、単身オーストリア旅行へ。そこで素性を隠した男:隆介と出会う。意気投合したふたりは数日を共にしたが、最終日、隆介は雫を残してひと足先にった。スマホのない雫に番号を書いたメモを残したが、それを別れの言葉だと思った雫は連絡せずに日本へ帰国。日本で再会したふたりの恋はすぐに再燃するが、そこには様々な障害が… 互いに惹かれ合う大人の溺愛×運命のラブストーリーです。 ※ムーンライトノベルス・アルファポリス・Nola・Berry'scafeで同時掲載しています

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

【完結】I adore you

ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。 そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。 ※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

処理中です...