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玄英のハートはノンストップモーション
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そんな理由で、見切り発車の勇み足ってか。外向きにはいつも自信たっぷりでソツも隙も一ミリたりとも見せなくて、もっと小器用な人だと思ってたのに……
「恒星が嫌なら、何か理由をつけてキャンセルするよ。急な話を了解してくれた先方には、迷惑かけちゃうけど……」
世間でこれを可憐と言わないのなら、ウィキ何ちゃらやカンチャラ辞苑の方が間違っている。
さすがの俺もいたたまれなくなってくる。前言撤回でなし崩し的に抱きしめて押し倒して、じゃなかった世界遺産級の御尊顔ごとこのまま蹴り倒して全身舐め回したいーーそんな衝動を、辛うじて堪えた。
「あ……あのな?嫌とかじゃあねえんだよ?ただ、びっくりしただけっていうか……俺の短気な質はよく知ってんだろ。あんたのことは、いつかはちゃんと家のモンに話したいし紹介したいと思ってる」
俺は照れ臭くなって頭を掻いた。
「えっ……?」
「だけど、今じゃねえなって思ってるだけ。
うちの連中、基本的にゴリゴリ価値観昭和の人らだから。玄英に嫌な思いさせんのも嫌だし、かと言ってただの『友人』とか『取引先の人』して紹介するのも違うと思うし……」
ここまで言うつもりなかったんだが……ホント勘弁してくれ。
「僕のこと、そこまで真剣に考えてくれてたの……!」
ぱああ、と擬音が聞こえてきそうなくらいの、日の出とともに一斉に起床した向日葵畑が見えた。そのくらい玄英の顔が明るくなったーーうっわ。今俺絶対今、顔コクリコ畑だわ。
「いやまあ……あんたにとっちゃ大きなお世話かもしれないんだけど。長くつき合うんならそういうこともあるかと……」
「大好き!ご主人様!」
玄英が声を震わせ、立ち上がった反動で飛びかかってきた。横倒しに押し倒された勢いが余って二人ともド派手な音を立ててソファから転げ落ちた。
「痛っ!何しやがんだ!」
「だ、だ、だってまさか、ご主人様から『結婚しよう』なんて言われるなんて思ってなくて……夢みたい!」
「は?話聞け!何をどう聞いたらそうなるんだ!この馬鹿犬!」
フローリングとショットガン・マリッジさせといて何言ってやがる。頭でも打ったか。
玄英は俺を撫でくり回しながら夢見心地で続けた。
「ツン専門のご主人様基準のそれってもう、世間的には『結婚しよう』って事じゃないですか!」
……え、そ、そうなの……か?
「んな訳ねえだろ!」
うっかり納得しかけたじゃねえか。危ねえ……
「だいたい俺ら、日本の法律じゃ結婚は無理で……」
「海外でならいくらでも正式に結婚できますよ」
「さすがに『いくらでも』する気はねえわ。つか、話の論点……」
「ああ、早く気が変わらないうちに、眠りについたあなたをプライベートジェットに押し込めて手続きしてしまいたい」
「拉致誘拐密出入国犯め!婚姻届出す前に強制送還されて前科持ちだぞ」
せめてポケットに詰め込むくらいにしとけよ。可愛げねえクソセレブ。
「式は両方白のタキシードがスタンダードなんでしょうが、恒星は和服も似合うでしょうね。現地で羽織袴が調達できるといいんだけど……」
おおい、戻ってこーい。馬鹿ロミオ。
「初夜には脱がしっこしましょうね」
「ストップ!その辺で止まれ、この変態!どさくさに紛れて脱がそうとじゃねえ!」
玄英に頭突きを喰らわせて、どうにか起き直ることができた。
「痛った……酷い」
「俺だって痛えわ!」
「僕、前頭葉が商売道具なのに酷い。ご主人様、ずいぶん斜め横のプレイに目覚め……」
「まだ話は続いてんだよ!」
ソファに戻り剥がされかけた服を直す俺と、恋人座りでめげずにくっついてくる玄英。
「手だけ繋いでていい?」
「……おう」
「恒星が嫌なら、何か理由をつけてキャンセルするよ。急な話を了解してくれた先方には、迷惑かけちゃうけど……」
世間でこれを可憐と言わないのなら、ウィキ何ちゃらやカンチャラ辞苑の方が間違っている。
さすがの俺もいたたまれなくなってくる。前言撤回でなし崩し的に抱きしめて押し倒して、じゃなかった世界遺産級の御尊顔ごとこのまま蹴り倒して全身舐め回したいーーそんな衝動を、辛うじて堪えた。
「あ……あのな?嫌とかじゃあねえんだよ?ただ、びっくりしただけっていうか……俺の短気な質はよく知ってんだろ。あんたのことは、いつかはちゃんと家のモンに話したいし紹介したいと思ってる」
俺は照れ臭くなって頭を掻いた。
「えっ……?」
「だけど、今じゃねえなって思ってるだけ。
うちの連中、基本的にゴリゴリ価値観昭和の人らだから。玄英に嫌な思いさせんのも嫌だし、かと言ってただの『友人』とか『取引先の人』して紹介するのも違うと思うし……」
ここまで言うつもりなかったんだが……ホント勘弁してくれ。
「僕のこと、そこまで真剣に考えてくれてたの……!」
ぱああ、と擬音が聞こえてきそうなくらいの、日の出とともに一斉に起床した向日葵畑が見えた。そのくらい玄英の顔が明るくなったーーうっわ。今俺絶対今、顔コクリコ畑だわ。
「いやまあ……あんたにとっちゃ大きなお世話かもしれないんだけど。長くつき合うんならそういうこともあるかと……」
「大好き!ご主人様!」
玄英が声を震わせ、立ち上がった反動で飛びかかってきた。横倒しに押し倒された勢いが余って二人ともド派手な音を立ててソファから転げ落ちた。
「痛っ!何しやがんだ!」
「だ、だ、だってまさか、ご主人様から『結婚しよう』なんて言われるなんて思ってなくて……夢みたい!」
「は?話聞け!何をどう聞いたらそうなるんだ!この馬鹿犬!」
フローリングとショットガン・マリッジさせといて何言ってやがる。頭でも打ったか。
玄英は俺を撫でくり回しながら夢見心地で続けた。
「ツン専門のご主人様基準のそれってもう、世間的には『結婚しよう』って事じゃないですか!」
……え、そ、そうなの……か?
「んな訳ねえだろ!」
うっかり納得しかけたじゃねえか。危ねえ……
「だいたい俺ら、日本の法律じゃ結婚は無理で……」
「海外でならいくらでも正式に結婚できますよ」
「さすがに『いくらでも』する気はねえわ。つか、話の論点……」
「ああ、早く気が変わらないうちに、眠りについたあなたをプライベートジェットに押し込めて手続きしてしまいたい」
「拉致誘拐密出入国犯め!婚姻届出す前に強制送還されて前科持ちだぞ」
せめてポケットに詰め込むくらいにしとけよ。可愛げねえクソセレブ。
「式は両方白のタキシードがスタンダードなんでしょうが、恒星は和服も似合うでしょうね。現地で羽織袴が調達できるといいんだけど……」
おおい、戻ってこーい。馬鹿ロミオ。
「初夜には脱がしっこしましょうね」
「ストップ!その辺で止まれ、この変態!どさくさに紛れて脱がそうとじゃねえ!」
玄英に頭突きを喰らわせて、どうにか起き直ることができた。
「痛った……酷い」
「俺だって痛えわ!」
「僕、前頭葉が商売道具なのに酷い。ご主人様、ずいぶん斜め横のプレイに目覚め……」
「まだ話は続いてんだよ!」
ソファに戻り剥がされかけた服を直す俺と、恋人座りでめげずにくっついてくる玄英。
「手だけ繋いでていい?」
「……おう」
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