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⭐︎痴話喧嘩は駄犬も食わないが歩くと棒に当たる

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「はあっ?」

 思わず視線を落とし、一瞬思考が止まる俺。

 とろんとした目つきで顔を赤らめた奴が、

「このまま二人で抜け出さない?」

 と、半分舐め回すように耳打ちする。

「ふっ、ふざけんなあああああ!」

 俺は慌てて半完成品の寿司を奴の口に押し込み、
椅子を蹴って立ち上がった。

「ここ、お前ん家だろうが!どこ連れてく気だよ!この変態無責任野郎!」

 本能に負けて、人の努力と我慢を無にしてんじやねえよ。

「不可抗力なのに無責任なんて酷い……」

 玄英は涙目で震えた。変態は認めるのか。

「うるせえっ!一人で頭冷やして来い!」

 正座させて説教系の啖呵でもひとくさりブチかましてやりたいところだが、そんな事したら最後、力づくでバスルームに連れ込まれかねない。

「コウセイ、どうしたの?」

 バーカウンターで話し込んでいたジェシカとアンジェラがキッチンをのぞき込んだ。
 人も刺せそうなメタリックなネイルでなかなかアーティスティックな手巻き寿司を作っていたのがジェシカ、K-POP風のファッションを決めた寅さんファンの子がアンジェラだ。

「せっかくのパーティだよ。ケンカ、よくない」

「コウセイって、テイシュカンパクなの?」

 アンジェラが真顔で聞いて来た。異次元の生物を見るような目で見られるといたたまれない。

「こっち来てちょっと話さない?」

 俺は二人に促されてキッチンから出た。って、何で俺が説教されるモードになってるの?
 玄英はその隙にキッチン隣のランドリールームに退避したようだ。

「恒星、よくボスのこと、あんな剣幕で怒鳴り飛ばせるね!」

「ボス、オフィスでメッチャ怖い。プライベートは全然違う」

「えっ……?」

 何やら風向きが……?

「二人って、結婚してるの?」

「いや……」

「でもボスがあなたのこと、『シュジン』って呼んでた」

 俺はせっかく古賀さんが淹れてくれたコーヒーを吹いた。

ーーそれたぶん「主人」違いだ……ううん、何て説明しよう。

「日本の法律では同性婚はできないんだよ」

 古賀さんが何かを察したらしく、少し困った顔でフォローしてくれた。

「コウセイ!手巻き寿司面白かった!またやろうね」

「コウセイってシェフなの?」

「僕が作ったカレーチキン、食べてくれた?」

 俺を見つけた人達が一斉に俺を取り囲んで、あれこれ質問し出す。これにはアンジェラも閉口したようだ。

「ちょっと!コウセイとは私が先に話してたんだけど?」

 もしかして今まで、玄英にソンタクして遠巻きにされてたのか?俺。玄英の奴、会社でどんだけ恐れられてんだよ……さっきだって状況的に、上司の玄英の方が先に気遣われそうなもんだけど(お陰で助かったが)

「いや、普段はガルテン松山の会社員」

 俺は話題を変えたかったので、こっちに乗っかることにした。

「ガルテン松山?なら、これから仕事でも会えるね」

「僕はガーデナーって聞いたよ?」

「生まれた家が造園屋なんだ。日本庭園ーートラディショナル・ジャパニーズ・ガーデン……で、いいのかな。それを造る……」

「ジャパニーズ・ガーデン?クールね!」

「知ってる!カレサンスイとか!和歌読んで池に流すんだよね!」

 誰が平安貴族だ。

「そうそう。古き良き日本人は盃とかランプとか人形とか、何でも水に浮かべるんだ!ムビョウソクサイを祈ってね!」

「小銭も入れてるよね!」

 日本好きなのはわかったし嬉しいが、ちょいかじりの知識を自信たっぷりに断言すんのやめてくれ。そもそも水辺がないから「枯山水」って言うんだよ!しかも流し雛とか灯籠とか色々混同してね?

「畳部屋の真ん中に檜風呂by007」みたいな間違った日本文化のイメージって、こうやって一人歩きしていったんだろうな……

「ええと……池はあるけど、何も入れないかな。写真あるけど見る?」

 俺はたまたまスマホのフォルダに入っていた実家の写真を見せた。

「エクセレント!観光用じゃなくて個人の家の庭?」

「鯉を飼ってる?」「馬はいる?」「茶室はある?」

 周りの人たちからさらに斜め上反応の追加質問ーーみんな庭好きかよっ!

「残念ながら全部無いよ。大名屋敷や寺なら別だけど、一般庶民の家だから」
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