赤いトラロープ〜たぶん、きっと運命の

５

無法の手巻き寿司パーティ。恵方巻きが生まれた瞬間って実はこうだったんじゃないか劇場（嘘）

　日本人、特に大人はこういう場合、まず横一列に並んで説明に集中し、衆人環視の中失敗して気まずい思いをしないよう十分な脳内シュミレーションの後のちに恐る恐る手を出す……というパターンが多いような気がする。ファーストペンギンはなかなかいないーー実家の仕事で、行政やそれ関係の学校や会社で主催するガーデニング体験や緑化イベントのスタッフを請け負うことがたまにあるので。

　国民性か教育の賜物か、はたまたこれまで積み重ねてきた成功体験のせいなのか。彼らのチャレンジスピリッツとアグレッシブさは全然違う。

　しかし、みんなの悪戦苦闘ぶりとなるとまた別だ。

「手巻き寿司」とは我々にとって、家庭料理というよりカジュアルな行事食だ。が、初めての人にとってはけっこう難しいものらしい。
　そしてホスト役のこちらも、普段無意識にやっている事をハウツー的に言葉で説明しようとするとそれがまた難しい。

　玄英は想定内だが、古賀さんまで手巻き寿司は未体験だというのは盲点だった。俺も口より先に手が出るタイプなもんだから、「ちょっと貸して」と結局、手巻き寿司専用バーテンダーと化してしまう。

　ただ、どこの界隈にも堅実で要領がよく、飲み込みも早い人ってのはいるーーピーターラビットの姉ちゃん達みたいに。
　ルーツにサンチュとか生春巻とか、セルフ包み物系（？）食文化がある人じゃないかな。そのうち自分達なりの説明で教え合ったりと、俺の知っている「手巻き寿司パーティ」にだんだん寄ってきたのでホストはホッとしている。

　かと思うと早々に諦めてちゃっかり誰かにアウトソーシングする人、限界突破とばかりに絶妙なバランスで全部乗せする人、別テーブルの料理やデザートの果物まで駆使してカリフォルニアロールも真っ青のオリジナルロールを作成、誰彼構わず配っては感想を求める人。

「食べ物で遊ぶな」と鉄拳制裁つきでびっちり躾けられた幼児体験を持つ俺としては、連中の道場破りっぷりに軽く気絶しそうになる。が、どんなチャレンジングな巻物も最終的にはちゃんと誰かのお腹に入っているのでよしとして、「手巻き奉行」を封印した。

　だが、これだけは大声で言いたい。

「寿司飯入れてない食物を『スシ』とは呼ばせないからな？」

　カリフォルニアロール、恵方巻きに次いでブームに乗って爆売れしそうな第三の巻物が爆誕したら、ちゃっかり商標登録出願しちゃおう。

「ご主人様、助けて」

　こちらは予想通りというか、玄英はいつまでも手巻きに苦戦していた。さっきまでスタイリッシュにキマっていたバーテンダー姿が、ご飯粒だらけで悲惨なことになっている。
　カクテルを作ったり紅茶類を煎れる才能に関しては店を開けるレベルの玄英だが、料理のセンスは壊滅的らしい。日々の食事は基本デリバリーか外食かオートミールだ。

　だからと言って俺の方も最初は、恋人に手料理を振る舞いたいなんて欲求は全く湧かなかった。だって「いかにも」って感じでダサくね？

　が、一度半分ネタで炊飯器を持ち込んで、味噌汁と焼き鮭程度のものを作ってやったらいたく感激された。以来、リクエストに応えてこの部屋に不似合いな世話焼きおかんメニューがたびたび並ぶことになる。

「外でその呼び方すんなっつってんだろ。帰る」

「ええっ。恒星の家はここでしょう？」

　そう言って今度はしなだれかかってくる。今日のメンツは平均的に距離近くて、何だかんだ感極まるとハグし合うし、いわんやカップル同士をやーーなので人目はさほど気にならないのだが。

「飯粒つけたままくっついてくんな！」

「僕、無理。恒星が作って」

「ホストがホストの面倒見てどうすんだよ！手巻き寿司はインディペンスフードだ！」

　貴様それでもアメリカ国民か！……ってあれ、英国籍のままグリーンカード永住権持ってるとかだったんだっけ。まあいいや。