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ラブストーリーと修羅場は突然に

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 準備作業が一区切りついた俺は、古賀さんと並んでキッチンの椅子に座り、玄英からもらったカクテルを飲んだ。
 玄英の作るノンアルコールカクテルは、どれも甘過ぎずスッキリとしている。しかも人生で俺が飲んだカクテルの中で一番美味い。

「古い映画ですが、『プラ◯を着た悪魔』ってあるでしょう?あれは女社長の話ですが」

「俺、観た事あります。さすがにネタですよね?あんな酷い上司」

「そうですか?映画のボスの方が彼より全然優しいですよ」

 せっかくの特製カクテルを思わず思わず吹いた。

「私は留学時代に彼と知り合って、日本支社設立をきっかけに引き抜かれたんです。当時は彼のせいで病む社員が続出していて、悩みの種でした。それでリモート勤務を提案したんですが、本社時代は一体どうしていたものやら」

 リモート勤務って、本人が原因かよっ。

「とは言え、時期が時期ですから出社してもらった方がはかどることもあるんです。が、毎日となると私もストレスですし」

 はっきり言うのな、この人。

「決してヒステリックな暴君では無いのですが、何せ頭の回転早過ぎる上に「適当」と言う事ができない人ですので我々凡人が歯痒く思えるのでしょう。
 それが最近、ずいぶんと丸くなってくれて。我々がどれだけ助かっているか」

 D社には俺の知らないブラック玄英の姿が……

 俺の業務内容上、直接訪れる必要はないのだが、一度奴の「城」が見てみたくてD's Theory社にわざわざ行ってみたことがある。

 とは言え「近くに来たから(はぁと)」なんて恋人ヅラして乗り込む皮の厚さも度胸もないから、本当に外観を「見て」帰っただけだけども。

 郊外の緑の多い住宅地にある現代アートの個人美術館風の社屋は、うちの社のような平成築の平均的な社屋ビルとも都市開発の先端にある最新式の建物ともまるで違っていた。
 後で聞いたら元は個人の趣味満載の一般住宅だった建物を改築したんだそうだ。もちろん玄英の発案で。

「とは言え、もし何かお困りでしたら相談に乗りますよ。例えばDVとか」

 古賀さんが真顔なのが逆に怖い。どんだけだよ。

「いやいや、大丈夫です。全くそんな事は……相談するとしたらむしろ玄英……」

「はいっ?」

「ちょっと!」

 その時キッチンに玄英が乱入してきた。

「二人とも、僕が知らない間にいつの間に何で仲良くなってんのさ?」

 玄英はむくれて、俺に首の後ろから抱きついて来た。

「馬鹿、くっつくな!暑い!せっかく会社の人達紹介してもらったし、よかれと思って親睦深めてんだろうが!」

「古賀は前から知ってるでしょ!親睦深める必要なし!」

「お前なあっ……本人いる前でなんて事言うんだ!」

「僕のいない時に、二人きりでティータイムしてたの、知ってるんだからね」

「は?何言ってんだ。してねえし!」

「いや、そう言えばしましたね」

 古賀さんが極めて冷静に答えた。

 は?……あ。興信所に俺の事調べさせた挙句、つき合ってんのかどうかじかに聞きに来た時か……
 さすがに社内で話せるような話じゃなかったからなあ。

「君さ。何で恒星に、プライベートの番号なんか渡してんの?僕だって知らないのに」

「いや、もしもの時の緊急用にと思いまして……必要でしたら社長にも」

「そういう意味じゃない!」

 プライベートの番号?そんなんもらった覚え……あ。
 そういや帰り際に頭を下げられた時、何やら裏に走り書きした名刺渡されたっけ。つか、何で玄英がそれ知ってるワケ?
 別に隠すつもりも無かったけど例の資料も焼いちゃったことだし、綺麗さっぱり忘れてたのに!

「具にもつかねえ事でヤキモチ妬いてんじゃねえよ!お前は一体、何がしたいんだ!古賀さんだって困ってんだろうが!」

 俺は思わず玄英を一喝した。彼は都会的な支度に不似合いな、今にも泣きそうな顔になった。

「ごっ、ごめんなさい、ご主人さ……」

「人前でその呼び方すんなああああ!」

 玄英がヤキモチ妬きなのは薄々わかってたが、ここまでとは……だって古賀さんって、旧友で玄英の仕事上の右腕で、難関大の法学部卒で留学経験者で俺とは水と油ーーとまでは言わんが、玄英を間に挟まなかったら共通の話題にすら困りそうなのに。

 確かに玄英がうちの会社来た時だけは、立場上古賀さんと話す事の方が圧倒的に多いけど……ちょっと考えたら、わかんだろうがよ。面倒臭…… 
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