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群衆の中の孤独が一番孤独だというけど、いつもお腹いっぱいよりは時々お腹減る方が幸せだって思うよね

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「馬鹿。こんなとこ、誰かに見られたらどうすんだよ!」

「平気平気。社長達は古賀が話相手してるし……」

「今度会社でこんなマネしたら、パワハラで古賀さんに泣きつくぞ」

「えええ……」

 玄英は困ったように顔をしかめた。予測不能で規格外な玄英の手綱を地味に握っているのは、どうやら古賀さんのようだ。よかった、これは使えるーーそう思った、その矢先である。

 この前来社した時はノータイだったが、今日の玄英は正式契約とプレス発表の日だからか、かっちりとしたピンボールカラーに渋い和柄のネクタイを合わせていたーー西陣織か何か?よく知らんけど。
 が、玄英は突然それらをむしり取るように思いっ切り外し、何ならシャツのボタンも外し始めた。

「おいおい!一体何する気だよ!」

 シャツをはだけると素肌の上に規則正しくかけられた縄目がのぞいているーー昨夜、俺が請われて縛ってやったものだ。

「これ、よかったよ。恒星も見ててくれたし……応答だって上手くできたでしょう?」

「そりゃ……わかったからそれ、早くしまえよ」

 あがり症だからお守りがわりにしたいと泣きつかれて、半信半疑ながら従ったのだが……「絶対会社で発情しない、俺に接触しない」という「ゴミはゴミ箱に捨てましょう」レベルの条件つきで。
 さっきのソツのなさ120パーセント、ワールドシリーズ三連覇モノの質疑応答を目の当たりにした俺の疑念は今、99パーセントに達している。

「すごくよかったよ、これ。また、してくれるよね?」

 玄英は袖口のカフスボタンを外し、シャツをまくって手首の縄目も見せた。上半身はともかく、こういうところの縄目は何かの弾みでのぞいて見えてしまう可能性もあった。より危険だ。

「駄目に決まってんだろうが!家にいる時ならともかく、スーツの下にそんなもん仕込んでるのバレたら社会的に終わるぞ」

「その時はその時だよ。恒星がご主人様になってくれてから仕事のパフォーマンスは過去最高だし、体調までいいんだから」

 玄英はシチュエーションにまるで似合わない、まるで恋する乙女そっくりのピュアな笑みを浮かべた。
 古賀さんの言う通り、恋愛面でのメンタルが仕事に影響するというのは本当のようだ。

「ここでほどいてる時間ないしなあ……解いたら解いたで隠し場所に困る。家に帰ったらすぐ自分で解くか切るかして」

「ええっ……解きたくないよう」

「お前なあっ……!」

 玄英の昼間の活動に支障がなく、簡単に乱れないよう、そして飽きたら自分で簡単に解け、跡もあんまり残らないようにーーここ半月、ロープの素材や縛り方の研究を重ねに重ねて昨日の縛り方にたどり着いたってのに!(なおフィードバックを受けて改良予定)

「恒星が解いて。この後、部屋で待ってる」

 胸をはだけたまま、玄英が俺の耳たぶを甘く噛んだ。

「おいっ……ゆっ、昨夜泊まったばかりだろうが。その前も……」

「僕、今日は凄く頑張ったからご主人様に褒めて欲しい。恒星は僕に会いたくないの?」

「……わかったよ。行くよ」

 俺は心音と体温が爆上がりするのを感じながら、玄英の身支度を整えようとボタンを一つずつ留め始めた。

「まあ、終わりよければすべてよし、だ。ボロ出してとんでもないことにならないうちに、とっとと帰ってくれよな」

「ん……」

 玄英は困ったように、薄っすらと頬を染めてうつむいた。

「実は記者会見の時、恒星の声でちょっとヤバかったんだ」

 玄英は息を荒く弾ませながら、俺の腰に手を回して身体を密着させてくる。

「それに君の会社の中って、ちょっと……クルよね?」

「やめろ変態!この馬鹿犬!」

 
 ……何だかんだでより砂化する羽目になった。勤務時間からサカってんじゃねえぞ(涙目)
 あっ。この人、基本リモートでフレックスなんだっけ……って、関係無いからな!


 帰りは帰りで、「遠山社長出待ち禁止令」ってのをハッキリ出したにもかかわらず、なんだかんだ理由をつけて社長室から玄関までの動線をうろつく社員がいつになく多い。
 野次馬目当てで駆けつけた得意先の人までいて、社内の廊下という廊下はターミナル駅のコンコースか実家の町内祭りみたいな人通りだった。

「二度と話しかけんな」オーラを背中にみなぎらせながら、堀田達と一緒に玄英達の前をSPよろしく先導する。
 もし何かの弾みで会社の女子社員に全てがバレたとしたら、全員から石投げつけられて惨殺される気しかしない。
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