赤いトラロープ〜たぶん、きっと運命の

ようさん

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一番喜ばれるスピーチは短いスピーチ。ファストドラマばりの感動エピなんかが圧縮データで入ってたらなお良し

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 さて、D社との契約が無事成立し、当社の大会議室で記者会見が開かれた。
 当初は広報が案内を流し、それに応じた業界紙と専門誌、区の広報誌など十組ほどが参加すればいい程度の、身内感満載なイベントの予定だった。   
 が、日を追うにつれて海外のメディアやフリーランス記者からの問い合わせが相次ぎ、テレビカメラを含む倍以上の人が大会議室一杯に集まっていた。

「滑舌が良く声の通りがいいから」

 と、それだけの理由で本番直前に急きょ司会進行役を振られる俺。

「私、元々あがり症でね。こんな大勢になるなんて聞いてなかったもんだから……」

 内川補佐が額の汗をしきりに拭きながらこっそり聞いてきた。

「水島課長もどうせなら若手の社員を表に出した方がイメージ戦略になるだろうとおっしゃって」

「ええっ?なら、堀田の方が適任ですよ。営業だから話も上手いし」

 地さえ出さなければ俺より体格もよくて数段見栄えもするし、何ならギリイケメン枠だ。

「いや。そこはうちの課の案件なんだから存在感は見せようよ。頼むよ」

 弊社創立以来かもしれない、一般世間様相手の大舞台に身内の管轄争いかよ……

 俺にしたってそんな大仕事をアドリブで任されるのなんか初めてだ。が、ガキの頃のなんちゃってヤンキー生活のお陰で土壇場をハッタリだけで切り抜けるクソ度胸だけはある。

 会見が始まった。

 玄英と古賀さん、ガルテン松山社長と事業部長、水島課長、広報課長が前の席に並ぶ。

「本日はお日柄も良……(じゃ、なかった!)いえ、お忙しい中、皆様お集まりいただきありがとうございます」

 水島課長から渡された鬼指示メモつきカンニングペーパー片手に、ビビったら負けとばかりに開き直って敏腕社員らしく振る舞う俺。背中には筑波山名物油売りのガマなんか目じゃないくらいダラダラ滝汗かきっぱなしだ。

「最初に弊社社長、松山和之介がご挨拶を申し上げます」

 社長挨拶に続いて事業部長が、D社が特許を持つサスティナブル素材の独占使用契約を結び、家庭園芸用品を共同で開発するという今回のプロジェクトの概要を説明する。
 次いで玄英が、自らが開発し特許を持つ話題のエコ素材ーー商品名「D-クロエ」ーーについて説明した。
 取り扱いやすく丈夫な上に最後には自然に還ること、この素材が全世界に普及すれば、今や地球規模で問題となり人間社会にもマイナスの影響を及ぼしつつあるCO2やマイクロプラスチック問題を解決する糸口となると信じていること。

「僕自身のルーツである日本でのビジネスは、長年の夢でした。僕のもう一つのルーツである英国はガーデニング大国として有名で、伝統的に庭を愛し緑を大切してきた日本人とは共通点が多いのです。
 欧米圏では徐々に認知を得つつある『D-クロエ』はアジアではまだ無名の素材です。D's Theory日本支社が家庭園芸の分野を足がかりにして世界中に普及することを願って、創立者である僕自ら兼任の支社長として頑張っている最中です」

 ちなみにD社の社名は Darwin‘s Theory of Evolutionダーウィンの進化論と彼の名言に由来するという。

「最も強いものが生き残るのではなく、最も賢いものが生き延びるのでもない。唯一生き残ることができるものは変化できるものである」

 理路整然と、しかし静かな情熱を持って、誰にでもわかりやすい言葉で朗々と語りかける玄英のスピーチは会場じゅうのハートを鷲掴みにした。
 記者会見らしからぬ満場の拍手に包まれ、微笑んで応える彼ははたから眺めていても最高に格好よかったーーつい見惚れた上にうっかり釣られて手を叩いてしまい、眉毛をつり上げた水島課長からジェスチャーでダメ出しをされた。
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