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玄英のアリアもしくは浪花節
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その次の日、ほぼ生存報告専用となっている俺のSNSアカウントに奴からの丁寧なメッセージが届いた。無事に帰れたかとか会えて嬉しかったとか、そんな他愛もない内容だった。
そのまた次の日も次の次の日も毎日……いや、半日に一度ほどメッセージが来た。内容は返事の催促でも仕事の事でもなく、他愛もない時事ネタだったり近況報告だったり、俺の様子も聞きたそうだったり……俺は短めの返信やスタンプを返したり、忘れて何も返さなかったりした。
迷惑だったわけではなく、元々俺ってそういう奴だ。それに正直、嬉しくないこともなかった。
つか、何で俺のアカウントあんたが知ってんだよ!!しかもこの間に何故か、フォロワーの数までが10倍になってるし!マジでビビるわ!
で、四日目くらいから「今度いつ会える?」というメッセージがちらほら届き出した。いつまでもどっちつかずというのは俺もガラじゃないしーーベクトルは違うかもしれんが、変なトコが似てんのな俺らーーある日の仕事終わり、意を決して空に聳える風雲城みたいな奴の部屋を再訪した。
「遠山。ちょっとそこ座ってくれ」
俺は例のバカ広いリビングに通されるとすぐ、ソファでもチェアでもなく高級材を敷き詰めた綺麗な木目の床の上に直に膝を折って座り、玄英にも正面に来るように顎で促した。
「えっ、ご主人様、何何?さっそく何のプレイ?」
「ご主人様じゃねえっ!」
「ひゃっ」
玄英が見上げるような長身を持て余し気味に首をすくめた。
「いいからそこ座れ。できんだろ、正座」
「……はい」
玄英は一応、しおらしい態度で俺の正面に座った。生育環境のせいか、真面目な話をする時はどうもジャパニーズ・スタイルでないと俺は本来の調子が出ない。
「あれから真剣に考えてみた。やっぱり、ご主人様やれってのは無理。他に当たってくれ。そっちの世界のことはよくわからないが、あんたくらいの人なら趣味もスペックも釣り合う奴が誰かいるだろう」
断るなら断るで誠意を見せなきゃいけないーーそれで俺は奴の目を見ながら一気に、キッパリと言い切った。
玄英は一瞬、かすかに瞳を揺らして感情の読めない表情を見せたが、そのままうつむくと蚊の鳴くような声でこう呟いた。
「……やっばり、もて遊んで捨てる気なんですね……」
「そっ、そ、そういう言い方するなよ!」
痛いところを突かれて激しく動揺してしまった。
「これでも申し訳ないとは思ってるんだ!」
「謝らないでください。余計傷つきます」
しかも、何故か敬語。
「他人から見たら確かに僕は、成功者に見えるでしょう。仕事は確かに順調です。やり甲斐もある。が、世間からどんなに称賛されたところで、僕の本質は孤独なんです。恒星に出会って、やっとわかってくれる人が現れたと思った時の僕の嬉しさと今の絶望感がわかりますか?」
「……だからそれは……俺でなくても、きっと他に」
玄英はきっと顔を見上げて、潤んだ瞳で真っ直ぐ俺を見た。乱れた前髪がこぼれ、強い目元にすっと一筋、薄い朱鷺色が差している。秘められた意志の強さと中性的な色香がない混ぜになったフォトジェニックな画を、このまま永遠に残しておきたいと思った。
「もうそれはいいんです。どの道、人は一人で生まれて一人で死んでいくんですから」
「いや、死ぬとか……まだ若いのに大げさ……」
「ですから万一僕が恒星以上の伴侶を得られることなく悲惨な最期を遂げても、君は全く罪悪感を持つことはありません。どうぞどこかの清楚で可憐な女性と平凡な家庭を持って幸せに暮らしてください」
「おいおい……ちょっと待てよ」
見かけによらずヤなこと言う野郎だねっ!
「時代の寵児と言われた規格外の天才って大概、末路は悲惨なものなんです。人々からは無理解と嫉妬しか向けられないまま時代に取り残され、世間からは忘れ去られてただ一人の理解者もなく孤独に心を蝕まれてーー」
しかも自分で言うか?それ。
そのまた次の日も次の次の日も毎日……いや、半日に一度ほどメッセージが来た。内容は返事の催促でも仕事の事でもなく、他愛もない時事ネタだったり近況報告だったり、俺の様子も聞きたそうだったり……俺は短めの返信やスタンプを返したり、忘れて何も返さなかったりした。
迷惑だったわけではなく、元々俺ってそういう奴だ。それに正直、嬉しくないこともなかった。
つか、何で俺のアカウントあんたが知ってんだよ!!しかもこの間に何故か、フォロワーの数までが10倍になってるし!マジでビビるわ!
で、四日目くらいから「今度いつ会える?」というメッセージがちらほら届き出した。いつまでもどっちつかずというのは俺もガラじゃないしーーベクトルは違うかもしれんが、変なトコが似てんのな俺らーーある日の仕事終わり、意を決して空に聳える風雲城みたいな奴の部屋を再訪した。
「遠山。ちょっとそこ座ってくれ」
俺は例のバカ広いリビングに通されるとすぐ、ソファでもチェアでもなく高級材を敷き詰めた綺麗な木目の床の上に直に膝を折って座り、玄英にも正面に来るように顎で促した。
「えっ、ご主人様、何何?さっそく何のプレイ?」
「ご主人様じゃねえっ!」
「ひゃっ」
玄英が見上げるような長身を持て余し気味に首をすくめた。
「いいからそこ座れ。できんだろ、正座」
「……はい」
玄英は一応、しおらしい態度で俺の正面に座った。生育環境のせいか、真面目な話をする時はどうもジャパニーズ・スタイルでないと俺は本来の調子が出ない。
「あれから真剣に考えてみた。やっぱり、ご主人様やれってのは無理。他に当たってくれ。そっちの世界のことはよくわからないが、あんたくらいの人なら趣味もスペックも釣り合う奴が誰かいるだろう」
断るなら断るで誠意を見せなきゃいけないーーそれで俺は奴の目を見ながら一気に、キッパリと言い切った。
玄英は一瞬、かすかに瞳を揺らして感情の読めない表情を見せたが、そのままうつむくと蚊の鳴くような声でこう呟いた。
「……やっばり、もて遊んで捨てる気なんですね……」
「そっ、そ、そういう言い方するなよ!」
痛いところを突かれて激しく動揺してしまった。
「これでも申し訳ないとは思ってるんだ!」
「謝らないでください。余計傷つきます」
しかも、何故か敬語。
「他人から見たら確かに僕は、成功者に見えるでしょう。仕事は確かに順調です。やり甲斐もある。が、世間からどんなに称賛されたところで、僕の本質は孤独なんです。恒星に出会って、やっとわかってくれる人が現れたと思った時の僕の嬉しさと今の絶望感がわかりますか?」
「……だからそれは……俺でなくても、きっと他に」
玄英はきっと顔を見上げて、潤んだ瞳で真っ直ぐ俺を見た。乱れた前髪がこぼれ、強い目元にすっと一筋、薄い朱鷺色が差している。秘められた意志の強さと中性的な色香がない混ぜになったフォトジェニックな画を、このまま永遠に残しておきたいと思った。
「もうそれはいいんです。どの道、人は一人で生まれて一人で死んでいくんですから」
「いや、死ぬとか……まだ若いのに大げさ……」
「ですから万一僕が恒星以上の伴侶を得られることなく悲惨な最期を遂げても、君は全く罪悪感を持つことはありません。どうぞどこかの清楚で可憐な女性と平凡な家庭を持って幸せに暮らしてください」
「おいおい……ちょっと待てよ」
見かけによらずヤなこと言う野郎だねっ!
「時代の寵児と言われた規格外の天才って大概、末路は悲惨なものなんです。人々からは無理解と嫉妬しか向けられないまま時代に取り残され、世間からは忘れ去られてただ一人の理解者もなく孤独に心を蝕まれてーー」
しかも自分で言うか?それ。
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