赤いトラロープ〜たぶん、きっと運命の

ようさん

文字の大きさ
上 下
28 / 144

皆様と緑のパートナー、ガルテン松山は今日もニコニコ営業中

しおりを挟む
 さて、十日ほど後。

 滅多に部下を褒めない水島課長が俺を褒めてくれた。

「D's Theoryとの本契約に無事漕ぎ着けたのは、青木君がうちの幹部達を根気よくレクチャーしてリモート会議に参加できるまて育ててくれたお陰ね」

「いやいや、育てるなんてそんな」

 課長に面と向かって珍しく感謝されるとものすごく恐縮するし、それはそれで新たなプレッシャーなので萎縮する。

「いくらうちの製品がよくても、幹部クラスがリモート会議の一つも対応できないんじゃあ今回の契約は無理だったわ」

「いえホント、ああいうのは慣れですから。苦手意識や思い込みを無くしてもらえれば後はなんて事は」

 課長は短くため息をいた。

「青葉君は根気強いからいいのよ。私はダメ。上役だろうが何だろうが、不甲斐ないとすぐ怒鳴り飛ばしちゃう」

 だ、だろうな……

 俺だって自称江戸っ子だから決して気が長い方ではないのだが、さすがに自分の立ち位置は弁えているし空気も読む。課長ほど有能で「コレ」という物を持っていたなら、我を押し通しても部下はついてくるし上層部だって一目置くんだろうけど。

 何にせよ、褒められるのは気分がいい。気をよくしていると課内の内線電話が鳴った。

「青葉さん。下の受付にアポ無しの来客です。D's Theory社の古賀様だそうです」

 後輩の女子社員にそう告げられて一瞬、キョトンとした。

「へっ?」

ーー遠山の会社?誰だっけ?

ーーあ!

 確か遠山社長について来ていた彼の右腕ーー日本の会社流に言えばD社の法務部長兼副社長に当たるナンバーツーだ。が、いくら少数精鋭の若い会社でトップのフットワークが軽いとは言え、そんな人が法務でも営業でもない主任クラスの担当者に名指して何の用なんだ?

「って、俺?何で?課長とかじゃなく?」

「青葉さんって言ってましたが。何でって言われても」

 後輩が眉をひそめて困り顔になった。そりゃそうだ。

「わかった。すぐに行くって伝えて」

 やや昭和臭のする五階建ての自社ビルは迷うほど広い訳では全然ないのだが、わざわざ上がってきてもらうのも気が引けたので俺は慌てて一階に降りた。

 エレベーターで降りてすぐ、受付横にある猫の額ほどのロビーで「先生」と呼ぶに相応しい佇まいの中肉中背の男性が待っていた。遠山社長の持つ甘やかでインターナショナルな美貌とは好対照な純和風の顔つきでかっちりとした雰囲気がよく記憶に残っていた。おそらく上司より少し年上だろう。

「お待たせしました。企画開発課の青葉です」

 一瞬、あちら風に握手で挨拶かどうか迷ったがここは、最大の敬意を払って日本式に頭を下げた。そして内心、実は課長補佐あたりと人違いしてたとか何とかいうオチじゃないかと思っていた。が、

「古賀です」

 古賀さんは俺のような若輩相手にご当然のように、そしてまったく偉ぶらない態度で丁寧に礼を返してくれた。

「青葉恒星さんですね。お忙しいところ、いきなりすみません」

「いえ、とんでもない。とりあえず上へ」

 本来なら部長クラスの個室にでもご案内すべき方なんだが(横並び大好き日本人)、うちの課の応接コーナーで我慢してもらおうときびすを返しかけた。

「いいえ。実は個人的な用件でして。お時間少しよろしいですか」

 俺はよく事情が飲み込めず、目をぱちくりさせた。

「……それは構いませんが」

「よかった」と古賀さんは言い、課長に断りの電話を入れると俺を通りの向かいにあるコーヒーショップに連れ出した。
 この人が俺に個人的な用事って何だ?いや、あるとするなら遠山の事くらいしか心当たり無いけど。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

処理中です...