27 / 144
3
恋愛観が古風な男×マニアックな男のケミストリー
しおりを挟む
「……俺一応これでも、キレ過ぎたかなとか言い過ぎたとかちょっとは反省してたりすんだけど。あんたまさか、ずっと興奮してたとか?」
耳や首まで上気させた遠山がまたうつむくと、もぞもぞと身動きし上気した肩を小刻みに震わせ、こくりと頷いたーーうん、わけわからん。確かに奥が深いわ。どっと力が抜けた。
コントや漫画のネタにされる程度のうすぼんやりとしたイメージしかないが、おそらくこの人は、縛られる他にいわゆる「言葉責めが効く」とかいうタイプなんだろう。
「やっぱり、気持ち悪い……ですかね?」
「や、……それはない、かな……」
面倒臭い奴だとは思うが、彼に対する嫌悪感は不思議と湧かない。
自分でもどうしようもない性分のせいで難儀な目に遭う辛さややらかした時の後悔、誰にもわかってもらえない孤独感は俺も何となくわかるからだ。
ましてやコイツは表向き、どこに出しても恥ずかしくない百点満点の色男で、世界を股にかける超有能な企業家で、何でも持ってる富裕層だ。
しかもそれを鼻にかけたり、俺のようなその他大勢の一般庶民にも礼儀正しい人格者で(多少感覚がズレてるのは否めないが)どこぞのセレブ美女と世界中が羨むような世紀の大恋愛をしてーー前の奥さんはスーパーモデルだっけ?ーーロイヤルファミリーばりのやんごとなき理想の家庭まで築いてたっておかしくないのに。
正統派イメージ世界選手権連覇中の彼がひた隠しにしている密かな性癖と遅滞を知る者はおそらく、俺を含めて世界に数人ほどしかいないのではないか……正直、そんな優越感と高揚感にこっそり駆られてもいる。
俺は頭を抱えてため息をついた。
「俺だってどうしたらいいか悩んでるんだ。もしあんたが女だったらこのまま結婚前提でつき合おうとか何とか言ってたんだろうけど」
「本当っ?」
奴がアンティークドールのように長いまつ毛のパッチリした瞳を瞳孔ごと見開いてキラキラさせたかと思うと、そのまま二人の間にあるテーブルを飛び越えて空気を読まない大型犬のように突進して来たので焦った。
「ストーーーーーップ!!!待て!」
すんでのところで俺が手をかざして静止すると、足元にちょこんと正座した。何だかな。
「ご主人様になってくれるんだよね?」
「なるか馬鹿!どうしてそうなる?」
「だって結婚してくれるって」
「主人違いだ!それもあんたが女だったらって、仮定の話だ!間に受けんな!」
「えええ……」
三十過ぎた男が口尖らせるのってどうなの?イラッとしながら「ちょっと可愛いかも」と思ってる俺も、よっぽどどうなの?
それを言っちゃあお終いよ的な話をしてしまい、さすがに凹むかと思ったらそうでもない。この人の地雷のあり所がよくわからない。
「僕、心は女性だって言ったら?」
今度は上目遣いで首を傾げてきた。反則技だからやめろ。
「ううん……それならちょっと考え……って、 そうじゃねえんだろ?」
「うんっ」
満面の笑みで嬉しそうに頷く。
「ちったあ悪びれろよ、まったく……」
祖父ちゃんを筆頭に見事に昭和の男に囲まれていた生育環境のせいか、俺の恋愛観は令和の世間一般とかなり「ズレて」いるらしい。
「未婚の男女は結婚するまで純潔を守るべき」とまではさすがに思わないが、生殖行為である以上お互いに責任があると思う。
俺は惚れっぽい性格ではあるが、いざ深い仲になった相手には一途だ。一生添い遂げる覚悟だし、人生を賭して守り抜く所存でいるーーいや、いた。しかも毎回。
歴代の彼女達に言わせるとそこが「古っ!」「重い」「何それ宗教?」「恋人というより父親みたい」……なんだそうだ。
もちろん相手が同性であっても、酒に酔ったはずみで無責任に関係を結んだきりというのはあまりに不誠実だとは思ってはいてーーそうは言ってもさっきまでなら頭下げて「つき合えないものはつき合えない」で押し通したってよかったんだ。まさか二度も、今度は素面でやらかすなんて……
しかも相手はバックネット裏からピンボールぶん投げてくるような、超ド級の予測不能男子でうっかりノリツッコミもできない。
「じゃあ逆に、心は僕のままで身体だけが女だったら?」
「絶妙なとこ突いてくんな……商談かよ」
よければちょこっとお願いしたいとか思っちゃったじゃねえか。
「百歩譲って男同士がクリアできたとしても、SMとか無理」
「大丈夫!経験なしでこれなら恒星、絶対素質あるよ」
今度は真顔。
「ねえわ!何、褒めて伸ばそうとしてんだよ!」
耳や首まで上気させた遠山がまたうつむくと、もぞもぞと身動きし上気した肩を小刻みに震わせ、こくりと頷いたーーうん、わけわからん。確かに奥が深いわ。どっと力が抜けた。
コントや漫画のネタにされる程度のうすぼんやりとしたイメージしかないが、おそらくこの人は、縛られる他にいわゆる「言葉責めが効く」とかいうタイプなんだろう。
「やっぱり、気持ち悪い……ですかね?」
「や、……それはない、かな……」
面倒臭い奴だとは思うが、彼に対する嫌悪感は不思議と湧かない。
自分でもどうしようもない性分のせいで難儀な目に遭う辛さややらかした時の後悔、誰にもわかってもらえない孤独感は俺も何となくわかるからだ。
ましてやコイツは表向き、どこに出しても恥ずかしくない百点満点の色男で、世界を股にかける超有能な企業家で、何でも持ってる富裕層だ。
しかもそれを鼻にかけたり、俺のようなその他大勢の一般庶民にも礼儀正しい人格者で(多少感覚がズレてるのは否めないが)どこぞのセレブ美女と世界中が羨むような世紀の大恋愛をしてーー前の奥さんはスーパーモデルだっけ?ーーロイヤルファミリーばりのやんごとなき理想の家庭まで築いてたっておかしくないのに。
正統派イメージ世界選手権連覇中の彼がひた隠しにしている密かな性癖と遅滞を知る者はおそらく、俺を含めて世界に数人ほどしかいないのではないか……正直、そんな優越感と高揚感にこっそり駆られてもいる。
俺は頭を抱えてため息をついた。
「俺だってどうしたらいいか悩んでるんだ。もしあんたが女だったらこのまま結婚前提でつき合おうとか何とか言ってたんだろうけど」
「本当っ?」
奴がアンティークドールのように長いまつ毛のパッチリした瞳を瞳孔ごと見開いてキラキラさせたかと思うと、そのまま二人の間にあるテーブルを飛び越えて空気を読まない大型犬のように突進して来たので焦った。
「ストーーーーーップ!!!待て!」
すんでのところで俺が手をかざして静止すると、足元にちょこんと正座した。何だかな。
「ご主人様になってくれるんだよね?」
「なるか馬鹿!どうしてそうなる?」
「だって結婚してくれるって」
「主人違いだ!それもあんたが女だったらって、仮定の話だ!間に受けんな!」
「えええ……」
三十過ぎた男が口尖らせるのってどうなの?イラッとしながら「ちょっと可愛いかも」と思ってる俺も、よっぽどどうなの?
それを言っちゃあお終いよ的な話をしてしまい、さすがに凹むかと思ったらそうでもない。この人の地雷のあり所がよくわからない。
「僕、心は女性だって言ったら?」
今度は上目遣いで首を傾げてきた。反則技だからやめろ。
「ううん……それならちょっと考え……って、 そうじゃねえんだろ?」
「うんっ」
満面の笑みで嬉しそうに頷く。
「ちったあ悪びれろよ、まったく……」
祖父ちゃんを筆頭に見事に昭和の男に囲まれていた生育環境のせいか、俺の恋愛観は令和の世間一般とかなり「ズレて」いるらしい。
「未婚の男女は結婚するまで純潔を守るべき」とまではさすがに思わないが、生殖行為である以上お互いに責任があると思う。
俺は惚れっぽい性格ではあるが、いざ深い仲になった相手には一途だ。一生添い遂げる覚悟だし、人生を賭して守り抜く所存でいるーーいや、いた。しかも毎回。
歴代の彼女達に言わせるとそこが「古っ!」「重い」「何それ宗教?」「恋人というより父親みたい」……なんだそうだ。
もちろん相手が同性であっても、酒に酔ったはずみで無責任に関係を結んだきりというのはあまりに不誠実だとは思ってはいてーーそうは言ってもさっきまでなら頭下げて「つき合えないものはつき合えない」で押し通したってよかったんだ。まさか二度も、今度は素面でやらかすなんて……
しかも相手はバックネット裏からピンボールぶん投げてくるような、超ド級の予測不能男子でうっかりノリツッコミもできない。
「じゃあ逆に、心は僕のままで身体だけが女だったら?」
「絶妙なとこ突いてくんな……商談かよ」
よければちょこっとお願いしたいとか思っちゃったじゃねえか。
「百歩譲って男同士がクリアできたとしても、SMとか無理」
「大丈夫!経験なしでこれなら恒星、絶対素質あるよ」
今度は真顔。
「ねえわ!何、褒めて伸ばそうとしてんだよ!」
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】
彩華
BL
俺の名前は水野圭。年は25。
自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで)
だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。
凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!
凄い! 店員もイケメン!
と、実は穴場? な店を見つけたわけで。
(今度からこの店で弁当を買おう)
浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……?
「胃袋掴みたいなぁ」
その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。
******
そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。
Take On Me 2
マン太
BL
大和と岳。二人の新たな生活が始まった三月末。新たな出会いもあり、色々ありながらも、賑やかな日々が過ぎていく。
そんな岳の元に、一本の電話が。それは、昔世話になったヤクザの古山からの呼び出しの電話だった。
岳は仕方なく会うことにするが…。
※絡みの表現は控え目です。
※「エブリスタ」、「小説家になろう」にも投稿しています。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる