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恋愛観が古風な男×マニアックな男のケミストリー

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「……俺一応これでも、キレ過ぎたかなとか言い過ぎたとかちょっとは反省してたりすんだけど。あんたまさか、ずっと興奮してたとか?」

 耳や首まで上気させた遠山がまたうつむくと、もぞもぞと身動きし上気した肩を小刻みに震わせ、こくりと頷いたーーうん、わけわからん。確かに奥が深いわ。どっと力が抜けた。

 コントや漫画のネタにされる程度のうすぼんやりとしたイメージしかないが、おそらくこの人は、縛られる他にいわゆる「言葉責めが効く」とかいうタイプなんだろう。

「やっぱり、気持ち悪い……ですかね?」

「や、……それはない、かな……」

 面倒臭い奴だとは思うが、彼に対する嫌悪感は不思議と湧かない。
 自分でもどうしようもない性分のせいで難儀な目に遭う辛さややらかした時の後悔、誰にもわかってもらえない孤独感は俺も何となくわかるからだ。

 ましてやコイツは表向き、どこに出しても恥ずかしくない百点満点の色男で、世界を股にかける超有能な企業家で、何でも持ってる富裕層だ。
 しかもそれを鼻にかけたり、俺のようなその他大勢の一般庶民にも礼儀正しい人格者で(多少感覚がズレてるのは否めないが)どこぞのセレブ美女と世界中が羨むような世紀の大恋愛をしてーー前の奥さんはスーパーモデルだっけ?ーーロイヤルファミリーばりのやんごとなき理想の家庭まで築いてたっておかしくないのに。

 正統派イメージ世界選手権連覇中の彼がひた隠しにしている密かな性癖と遅滞を知る者はおそらく、俺を含めて世界に数人ほどしかいないのではないか……正直、そんな優越感と高揚感にこっそり駆られてもいる。

 俺は頭を抱えてため息をついた。

「俺だってどうしたらいいか悩んでるんだ。もしあんたが女だったらこのまま結婚前提でつき合おうとか何とか言ってたんだろうけど」

「本当っ?」

 奴がアンティークドールのように長いまつ毛のパッチリした瞳を瞳孔ごと見開いてキラキラさせたかと思うと、そのまま二人の間にあるテーブルを飛び越えて空気を読まない大型犬のように突進して来たので焦った。

「ストーーーーーップ!!!待て!」

 すんでのところで俺が手をかざして静止すると、足元にちょこんと正座した。何だかな。

「ご主人様になってくれるんだよね?」

「なるか馬鹿!どうしてそうなる?」

「だって結婚してくれるって」

「主人違いだ!それもあんたが女だったらって、仮定の話だ!間に受けんな!」

「えええ……」

 三十過ぎた男が口尖らせるのってどうなの?イラッとしながら「ちょっと可愛いかも」と思ってる俺も、よっぽどどうなの?
 それを言っちゃあお終いよ的な話をしてしまい、さすがに凹むかと思ったらそうでもない。この人の地雷のあり所がよくわからない。

「僕、心は女性だって言ったら?」

 今度は上目遣いで首を傾げてきた。反則技だからやめろ。

「ううん……それならちょっと考え……って、 そうじゃねえんだろ?」

「うんっ」

 満面の笑みで嬉しそうに頷く。

「ちったあ悪びれろよ、まったく……」

 祖父ちゃんを筆頭に見事に昭和の男に囲まれていた生育環境のせいか、俺の恋愛観は令和の世間一般とかなり「ズレて」いるらしい。
「未婚の男女は結婚するまで純潔を守るべき」とまではさすがに思わないが、生殖行為である以上お互いに責任があると思う。
 俺は惚れっぽい性格ではあるが、いざ深い仲になった相手には一途だ。一生添い遂げる覚悟だし、人生を賭して守り抜く所存でいるーーいや、いた。しかも毎回。
 歴代の彼女達に言わせるとそこが「古っ!」「重い」「何それ宗教?」「恋人というより父親みたい」……なんだそうだ。

 もちろん相手が同性であっても、酒に酔ったはずみで無責任に関係を結んだきりというのはあまりに不誠実だとは思ってはいてーーそうは言ってもさっきまでなら頭下げて「つき合えないものはつき合えない」で押し通したってよかったんだ。まさか二度も、今度は素面でやらかすなんて……
 しかも相手はバックネット裏からピンボールぶん投げてくるような、超ド級の予測不能男子でうっかりノリツッコミもできない。

「じゃあ逆に、心は僕のままで身体だけが女だったら?」

「絶妙なとこ突いてくんな……商談かよ」

 よければちょこっとお願いしたいとか思っちゃったじゃねえか。

「百歩譲って男同士がクリアできたとしても、SMとか無理」

「大丈夫!経験なしでこれなら恒星、絶対素質あるよ」

 今度は真顔。

「ねえわ!何、褒めて伸ばそうとしてんだよ!」

 





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