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ようこそ玄英の部屋へ
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いかにもなVIP御用達高層マンションの周囲はすっかり瀟洒な街並みに生まれ変わっていた。学生時代によく歩いた道のはずなのに、玄英に不意に角を曲がられるともうどの辺を歩いているかわからない。
いざ、玄英に続いてセキュリティフロアごと空調完備のエントランスに足を踏み入れると、執事服を着たコンシェルジュに最敬礼で出迎えられた。
大理石の床と柱、ロビーにはデザイン性の高いモノトーンのカーペットとテーブルセットが置かれていて、まるで現代アート作品のようだ。
「住人専用のジムやプールが付いているとかマジ?」
「そう。便利だよ」
便利とかそういう次元なのかよ……
実家の家業も今日び、日本庭園だけでは食っていけず時々、ハイクラスマンションの中庭や外構の緑化を請け負う事もあるのだが……ここまでの高級マンションは初めてだ。
「エントランスだけでも俺の住んでるワンルームより広くて快適そうだわ」
驚きのあまり漏らした俺のジョークは悲しいかな玄英には通じず、
「?……ああ、そうだ。核シェルターもついてる」
と真顔で返されたーーマジかよ。
エレベーターを降りると、居住者用の共有スペースはシンプルだがチリ一つ落ちてない清潔さだった。いざ遠山の部屋の前に立つとふと、
ーー待て。こいつの部屋が檻のような内装でありとあらゆるその手の用具がコレクションされていたりしたら……
ふとそんな事を思ってしまい、奴が再び生体認証でロックを解除する数秒の間によほど回れ右をして帰ろうかと思った。
が、かろうじて好奇心の方が勝った。
通されたリビングは至って普通だったーーいや、普通って言うのは「少なくとも異常ではない」って意味だ。
片面の壁全体が夜景の見渡せる窓になっていて、もう片側にミニシネマ並みのスクリーンとバーカウンターのある約50畳の部屋を、庶民感覚ではリビングとは言わない。
ーーハリウッド映画の登場人物以外で、本当にこんな部屋に住んでる人いるんだな。
かといって、やたらめたらにひけらかすようにゴテゴテと、美術品やなんかを大富豪然としてそこいらじゅうに飾ってあるわけでもない。必要最小限の調度全てが意識高い系インテリア雑誌のグラビアをそのまま3Dコピーしたみたい。
「コーヒー……はさっき飲んだし、夜だしね。カモミールとバタフライピーのブレンドでいい?」
物珍しさ丸出しで窓をのぞき込んでいる俺に、キッチンカウンターのくせに生活感皆無でやたらスタイリッシュな構造物の向こうから遠山が声を掛けてきた。自宅に戻ったせいかすっかりリラックスしてタメ口に戻っている。
「カモ……?バター何だって?」
鍋?
「カモミールとバタフライピー……ハーブティーだけど」
「あ、うん……もらうよ」
何が何だかよくわからないまま頷き、玄英は電気ケトルでお湯を沸かしたり、茶器を揃えたりしていた。
「まあ、座りなよ。窓の景色なら椅子からでも見えるよ」
勧められるまま、シンプルなくせにやたらアート臭のするバカ高そうなソファに(語彙力)おっかなびっくり掛けた。
「この街の夜景ってこんなに綺麗なんだな。知らなかった」
内心ビビっているのを悟られまいと平常心を装っていたが、この発見だけは感動を隠せなかった。
「喜んでくれて嬉しい。毎晩だと何だか慣れちゃって、感動も無くてさ」
もはや住む世界が違いすぎて、嫌味にすら聞こえない。経緯経緯じゃなかったら、有意義な「大人の夢」体験型社会科見学だ。
「片付けが苦手って言ってたのに、綺麗に住んでるんだな。これだけ広いと、掃除が大変だろう」
「家事一切をハウスキーパーに頼んである。書斎だけは研究中のデータだとか、他人に触られたくない物があるから自分で管理してるーー側から見たら相当悲惨らしいけど」
「それ、管理してるって言えるのか?」
「何がどこにあるか分かりさえすればいいんだよ」
昔見た海外ドラマの中の、シャーロック・ホームズの部屋を思い出した。事件の記録だけはキャビネットにきちんと整理してあるけれど、あとは全てがカオスでーーヴィクトリア女王のイニシャルが撃ち抜かれ、ナイフで事件のメモが留められたボタニカル模様の壁紙、薬品瓶と試験管に埋もれた顕微鏡、事件のヒントがランダムに、しかもびっしりと書かれた黒板、石炭入れになぜかスリッパーー何がどこにあるかは唯一それに秩序を見出している本人にしかわからない。
「着替えてきていいかな?家でスーツじゃ落ち着かない」
「どうぞ、遠慮なく」
「君は?ウォークインクローゼットにある新品のルームウェアを貸すよ?」
うぉーくいんくろーぜっと……それも絶対、俺の家作より広くて立派なんだろう。
それに書斎だと?少なくとも一人暮らしでそんなもんがある部屋に住んでる奴、見たことねぇわ。一般住宅には普通にあるもんなのかね?
「俺はこのままでいい」
と言うより遠山のサイズじゃ、絶対手足が半分以上余るだろうが。
遠山は奥にいくつか並んでいるドアの一つに消えた。
ーー一体何部屋あるんだよ、この家……
いざ、玄英に続いてセキュリティフロアごと空調完備のエントランスに足を踏み入れると、執事服を着たコンシェルジュに最敬礼で出迎えられた。
大理石の床と柱、ロビーにはデザイン性の高いモノトーンのカーペットとテーブルセットが置かれていて、まるで現代アート作品のようだ。
「住人専用のジムやプールが付いているとかマジ?」
「そう。便利だよ」
便利とかそういう次元なのかよ……
実家の家業も今日び、日本庭園だけでは食っていけず時々、ハイクラスマンションの中庭や外構の緑化を請け負う事もあるのだが……ここまでの高級マンションは初めてだ。
「エントランスだけでも俺の住んでるワンルームより広くて快適そうだわ」
驚きのあまり漏らした俺のジョークは悲しいかな玄英には通じず、
「?……ああ、そうだ。核シェルターもついてる」
と真顔で返されたーーマジかよ。
エレベーターを降りると、居住者用の共有スペースはシンプルだがチリ一つ落ちてない清潔さだった。いざ遠山の部屋の前に立つとふと、
ーー待て。こいつの部屋が檻のような内装でありとあらゆるその手の用具がコレクションされていたりしたら……
ふとそんな事を思ってしまい、奴が再び生体認証でロックを解除する数秒の間によほど回れ右をして帰ろうかと思った。
が、かろうじて好奇心の方が勝った。
通されたリビングは至って普通だったーーいや、普通って言うのは「少なくとも異常ではない」って意味だ。
片面の壁全体が夜景の見渡せる窓になっていて、もう片側にミニシネマ並みのスクリーンとバーカウンターのある約50畳の部屋を、庶民感覚ではリビングとは言わない。
ーーハリウッド映画の登場人物以外で、本当にこんな部屋に住んでる人いるんだな。
かといって、やたらめたらにひけらかすようにゴテゴテと、美術品やなんかを大富豪然としてそこいらじゅうに飾ってあるわけでもない。必要最小限の調度全てが意識高い系インテリア雑誌のグラビアをそのまま3Dコピーしたみたい。
「コーヒー……はさっき飲んだし、夜だしね。カモミールとバタフライピーのブレンドでいい?」
物珍しさ丸出しで窓をのぞき込んでいる俺に、キッチンカウンターのくせに生活感皆無でやたらスタイリッシュな構造物の向こうから遠山が声を掛けてきた。自宅に戻ったせいかすっかりリラックスしてタメ口に戻っている。
「カモ……?バター何だって?」
鍋?
「カモミールとバタフライピー……ハーブティーだけど」
「あ、うん……もらうよ」
何が何だかよくわからないまま頷き、玄英は電気ケトルでお湯を沸かしたり、茶器を揃えたりしていた。
「まあ、座りなよ。窓の景色なら椅子からでも見えるよ」
勧められるまま、シンプルなくせにやたらアート臭のするバカ高そうなソファに(語彙力)おっかなびっくり掛けた。
「この街の夜景ってこんなに綺麗なんだな。知らなかった」
内心ビビっているのを悟られまいと平常心を装っていたが、この発見だけは感動を隠せなかった。
「喜んでくれて嬉しい。毎晩だと何だか慣れちゃって、感動も無くてさ」
もはや住む世界が違いすぎて、嫌味にすら聞こえない。経緯経緯じゃなかったら、有意義な「大人の夢」体験型社会科見学だ。
「片付けが苦手って言ってたのに、綺麗に住んでるんだな。これだけ広いと、掃除が大変だろう」
「家事一切をハウスキーパーに頼んである。書斎だけは研究中のデータだとか、他人に触られたくない物があるから自分で管理してるーー側から見たら相当悲惨らしいけど」
「それ、管理してるって言えるのか?」
「何がどこにあるか分かりさえすればいいんだよ」
昔見た海外ドラマの中の、シャーロック・ホームズの部屋を思い出した。事件の記録だけはキャビネットにきちんと整理してあるけれど、あとは全てがカオスでーーヴィクトリア女王のイニシャルが撃ち抜かれ、ナイフで事件のメモが留められたボタニカル模様の壁紙、薬品瓶と試験管に埋もれた顕微鏡、事件のヒントがランダムに、しかもびっしりと書かれた黒板、石炭入れになぜかスリッパーー何がどこにあるかは唯一それに秩序を見出している本人にしかわからない。
「着替えてきていいかな?家でスーツじゃ落ち着かない」
「どうぞ、遠慮なく」
「君は?ウォークインクローゼットにある新品のルームウェアを貸すよ?」
うぉーくいんくろーぜっと……それも絶対、俺の家作より広くて立派なんだろう。
それに書斎だと?少なくとも一人暮らしでそんなもんがある部屋に住んでる奴、見たことねぇわ。一般住宅には普通にあるもんなのかね?
「俺はこのままでいい」
と言うより遠山のサイズじゃ、絶対手足が半分以上余るだろうが。
遠山は奥にいくつか並んでいるドアの一つに消えた。
ーー一体何部屋あるんだよ、この家……
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