お盆に台風 in北三陸2024

ようさん

文字の大きさ
11 / 16
8月11日(日)

某新型感染症以来の帰省なんだが、あの頃のことってみんな意外と忘れてね?

しおりを挟む
「ぎゃはははは。そうやって、二人揃ってヌボーッと立ってるの、ト◯ロの雨宿りみたーい!」

 目の前にピンクのアルトラパンが一台停まり、ゲラゲラ笑いながら咲姉が顔を出した。年下とは言え数年ぶりの幼馴染と、初対面の連れに対する挨拶がそれかよーーまったくこの人、変わってねえな。

「うっせーわ」

 だが「つばめ号」バスの件といい、タクシーで行くと言ったのにわざわざ迎えに来てくれた事といい、頭は上がらない。

「咲姉、ありがとう」

「お世話になります」

 俺達は咲姉の指示通りバッチバックに荷物を載せ、後部座席に並んで座った。雨はまだ台風そのものの雨では無いのでいまは小やみになっているが時々、トラップのようにザッとバケツ降りが来るので要注意だ。

「ぶはははは。軽の後部座席に男二人って、むさ苦しいねっ」

 咲姉はエンジンをかけながらルームミラーで俺達をのぞき込むと、また大笑いした。

「そう思うんなら、前の座席もうちょっと詰めてくれよ」

「すみません」

 そんなやり取りをしているうちに車は発車し、助手席に座っていた若い女性が咲姉より背の高い女性が、ちょこんと頭を下げた。

「あ、いや、君じゃなくて咲姉がーーって、どちら様?」

凪沙なぎさです」

「凪沙ちゃん?マジで!こんなに大きくなったの!」

「バカねえ。気がつかなかったの?」

 咲姉はまたもゲラゲラとバカ笑いした。

 凪沙ちゃんは咲姉と晃夫君夫妻の一人娘だ。

「だっ、だって、凪沙ちゃん……この前会った時は小学校に入ったばかりで、こんな小さくて」

 俺はそう言って、肘掛けの辺りに手をかざした。と言っても後部座席でしかも座っていているから、誰にもサイズ感が伝わりそうにないシチュエーションではあるが。

「何年ぶりだと思ってんの?もう中学一年よ」

「マジか……」

 俺は唖然とした。凪沙ちゃんも遠慮がちにクスクスとこらえ笑いをしている。小さい頃は咲姉そっくりだと思ったが、横顔が若い頃の晃夫君によく似ているーーけど、父親似だって言われるのって、思春期の女の子的にはやっぱり「ビミョー」なのかな?

「まあ、ソーシャルディスタンスやらステイホームやら、何やかやで五年ぶりだもんねえ」

 咲姉はしみじみ言った。時間の経つのがこんなに速いなんて、どうりであっちゅー間にオッサンになる訳だ。

 例の感染症騒ぎの初年、岩手県は何故か半年ほど特異的に県内の感染者がゼロだった。
 県面積最大、人口密度最少で実直な県民性と田舎ならではの無言の同調圧力(?)のお陰ではないかとかなんとかテレビ識者がコメントしていたがほどなく、他地域の感染拡大の影響を受けて例外なく感染症の波に飲まれていった。
 全国で感染症拡大を防ぐために人の集まるあらゆるイベントが中止となり、自宅待機やリモートワークが推奨された。
 
 飲食店は休業要請に応じ、営業する店はテーブルにアクリル板を置き、レジにはビニールシートが張られた。

 外出時はマスク着用が半ば義務化され、マスクやトイレットペーパー、麺類などを買い求める行列ができた。転売目的の輩が暗躍し、「絶対数は十分なのに、必要な人に行き渡らない」という現象が度々生じた。

 インフルエンザやマイコプラズマなど他の感染症も流行り、それらに完全に感染しないようにするには、アルカトラズかポイント・ニモ辺りで一人暮らしするしか無さそうだ。安全だけを取ると経済が回らない以前に、個々人の生活の質が極端に下がる。 

 目に見えないウイルス相手だけに、それぞれの判断で正解だと思う事をするしかない。

 俺も気をつけていたつもりだったが、一度感染した。それで懲りて翌年接種したワクチンは副反応がエグかった。後遺症なのか加齢なのか、その後しばらくめちゃくちゃ髪の毛が抜けたのがショックだった。

 人の数だけ正解がある。楽観的な人もいれば慎重な人もいるし、常識も人の考え方もその時々で変わる。
 結果、ネットとリアルを問わずマスク警察や自粛警察が跋扈ばっこする。

 分割画面でのリモートワイドショーや、再放送ばかりのバラエティ番組にも慣れた頃、連休と帰省の季節がやってきて、今度は移動自粛を呼びかけられた。

 当初はウイルスの特効薬やワクチンはなく、抵抗力の弱い持病のある人や老人の死亡率が高かった事から、圧倒的に多くの人が高齢の両親や祖父母の住む実家への帰省を断念した。

 ウイルスは変異を繰り返し、新規感染者数は漸減しては爆発的に増え、二類感染症指定が三年続き、四年目から五類になった。

 その間ずっと帰省を見合わせていた人もいれば、用心に用心を重ねて度々様子を見に行かざるを得なかった人もいるだろう。
 今度は県外ナンバーの車をチェックする「帰省警察」が出没したり、逆に実家から「近所の目があるから」と帰省自粛を「要請」されたりする。挙句、カー用品店では「県内在住です」ステッカーが飛ぶように売れたという。
 経済が活性化するのはいい事だが、もはや何が何だかよくわからない。

 泥縄式に、それでも最速で開発された副作用の強い予防接種ワクチンや特効薬を巡り、接種するしないでも人々は分断した。
 ちょっとした価値観の違いから、それまで何の疑問もなく円滑だった人間関係に亀裂が入ってしまい、今だに戻らないーーそんな人だっているかもしれない。
 あの時、あの騒ぎが社会に残した目に見えない傷や亀裂は、もしかして災害の後のそれより深刻かもしれないのにーー俺達の多くはまるで何もかもを忘れて、日々の忙しさや目先の損得に追われ続けている。

 

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

Husband's secret (夫の秘密)

設楽理沙
ライト文芸
果たして・・ 秘密などあったのだろうか! むちゃくちゃ、1回投稿文が短いです。(^^ゞ💦アセアセ  10秒~30秒?  何気ない隠し事が、とんでもないことに繋がっていくこともあるんですね。 ❦ イラストはAI生成画像 自作

処理中です...