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その3
しおりを挟むカーテンの隙間から射し込む光が邪魔をする部屋の中でもう一度、瞼を閉じたが夢の中へはもう戻れなかった。
現に残された懐かしい切なさで絞られるように痛い胸をギュッと押さえた。
瞼の縁を拭いながら醒めた夢をなぞろうとするが、どうしても彼に靄がかかったようになってしまう。
彼の顔を思い出そうとしても瞼の裏に浮かぶのは、少し癖のある髪や伏せめがちな睫毛やたばこを弄る指先だった。
二人で白い波の上で溶け合えていれば、思い出すことが出来たのかしら?
一緒に夜を超えても心通わせ合うことなく終わった恋だった。
こんな日が来ると知っていれば、はぐらかして逃げないで二人で眩しい朝を迎えておけば良かったなんて、くたびれた心に苦さが拡がる。
合せた瞼の隙間では、隣の綺麗にベッドメイキングされたままの藍色のベッドカバーが揺らぐ。
きっと躰の中に記憶されていないからこそ、切なさが色あせないまま揺り醒まされるのだろう。
始まらなかった思い出は終わる不安がなくて、繋がらなかった思い出は切れる心配も無いので、どこまでもどこまでも懐かしさを追える。
芽を出さなかった太古の種が永久凍土の底深くで眠り続けるように。
私を切なくさせるのは他の誰でも無く、彼でもなくて、別れた後に私が恋をした喪失感の先の靄の中に現れた彼だ。
まだ微かに残るジャスミンと薔薇の溶け合った香りに包まれながら、また眠りへひきこまれてゆく。
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