上 下
2 / 3

その2

しおりを挟む

三人姉妹の真中っ子。

華やかなタイプの姉と妹に挟まれた小さい頃の私は、母の手をわずらわせないようにといつも部屋の隅で一人絵本を読んでいるような子だった。

母にとっていい子でいるために感情を出さないよう心掛けているうちに、感情を押し殺すようになっていた。

そして湧き上がった感情を押し殺すのは辛いから、いつの間にか生まれたばかりの感情を心の中で瞬時にカチカチに凍らせて何も望んでいない振りをするのが得意になっていった。

友だちと遊んでいても、心から楽しいと思えたことは無かったような気がする。

心の中を凍らせた後に訪れる何とも言えない空っぽの疲れが嫌で、感情が弾けそうになると自然に距離をとるようになってしまったから。

無防備に輝く笑顔で遊んでいる姉妹や友人たちと比べると感情をさらけだせない私は、愛情を受けることが出来なかった可哀想な子に思えてきて、さらに感情を凍らせた。

そして楽しんでいる振り、何も望んでいない振りをして可哀想な子だとバレないように、いつもどこかビクついていたような気がする。

凍った感情の心の中で漏れ出すものは迷惑をかけていないか、間違ったことを言っていないか、不快にさせていないか、邪魔をしていないかというような鈍色にびいろのザラついた申し訳なさだった。

鈍色のザラつきは消えることなく、こびり付いて離れてくれない。

彼に対してもそうだった。

大学の課題やアルバイトで忙しそうな彼へ私から連絡することは躊躇ためらわれた。

彼の時間を邪魔して迷惑がられるんじゃないかという不安が垂れ込めてきて、幾度も電話へ添えた指先を止めてしまっていた。

嫌われたくなくて待つだけの私はきっとつまらない子だっただろう。

誰かの一番になったことが無い私は、彼の一番になる自信も勇気も無かったのだ。

……いや、むしろ一番になることに貪欲だったのかもしれない。

だから躰だけ求められているような気がしたクリスマスの夜は、ただ一緒に朝を迎えただけの虚しさ残る冷たい終り方をしたのだろう。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

昔の恋人の夢

ねむりありす
恋愛
ゆっくり睫毛を下ろして、さっきまでそこにあった夢をなぞり返す

仲の良かった幼なじみが急によそよそしくなった

家紋武範
恋愛
仲の良い女の幼なじみがいた。 小さい頃から遊んでいたのに、急にアイツはよそよそしくなった。 まるでオレがいないもののように……。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

大人な軍人の許嫁に、抱き上げられています

真風月花
恋愛
大正浪漫の恋物語。婚約者に子ども扱いされてしまうわたしは、大人びた格好で彼との逢引きに出かけました。今日こそは、手を繋ぐのだと固い決意を胸に。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

処理中です...