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その1
しおりを挟む感情が硬いのだと思う。
中学生の頃、周りの女の子たちはバレンタインデーが近づくとソワソワしだして、キャッキャ嬉しそうに男の子たちの話をしていた。
ゲームのチーム分けをするかのようにチョコレートを贈る相手を選んでいるのだろうと彼女たちを眺めていたのだけど、赤らんでゆく頬や潤んでゆく瞳そして切ない溜息をつく唇を目にした時、ひどく遠くへ一人とり残されていることに気がついた。
彼女たちがチョコレートを贈る相手に使う『好き』は、友達やお気に入りのアーティストや美味しい苺のスイーツなどに対して使う『好き』とはどうやら違うらしかった。
いつどこでどのようにして、そのような感情、恋の始め方を学んだのだろう?
大学生になった私の周りの女の子たちは、恋する日常を当然のことのように送っていた。
仲間に入れてもらうためには恋をしていなければいけないような気がしてきて、細かい棘が纏わりつくようなぼんやりした痛みが消えてくれなかった。
夕焼けに梅紅葉が重なる頃、いつまでも恋人がいない私を心配してくれたのか、それとも宛てがわれたのか友人が一人の男の子を紹介してくれた。
彼は少し遠くに住んでいて少し遠くの大学へ通う物静かな男の子だった。
一週間に一度あるかないかの間隔で連絡をくれて、時間が合えば二人で出かけるようになった。
初めて二人で出かけた遊園地では、ぎこちない会話が重苦しい沈黙の空気を払いのけるのがやっとだったけれど、心は羽が生えたようにふんわり浮いているようになった。
今まで経験したことのないその感覚やどこからか広がるハチミツレモンの香りに戸惑ってしまい、視線は迷子のまま彷徨っていた。
それでも会う回数を重ねるにしたがって二人の距離はしだいに縮んでゆくだろうと思っていたのだけど、それほど単純で簡単なものでは無かった。
二人で会った後の長く揺られる帰りの電車の中では、うっすら涙の匂いが漂ってくるものだから飲み込んで凌いでいた。
厚いゼラチンの膜のようなものが二人の間をいつまでも隔てていて、なんだか隣にいる距離以上に彼をとても遠くへ感じていた。
それなのに突然、クリスマスの夜の路上でホテルへ誘ってきた。
まだ手を一度ほんの少し繋いだだけで、キスしたことも、心が通い合ったこともないというのに。
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