元人間の異形頭さんと盲目の子

なるみや

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僕が見ている世界

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 ある帝国は昔からずっと森に住むエルフの国と折り合いが悪く、一触即発状態でした。
 しかし、国民同士は仲良く、助け合っていました。
 国民はもっと協力し合いたいと思っていたので王様達の仲を修復して欲しいと大臣にお願いします。
 大臣は国民達の意見を王様達に伝え、仲良くしようと努力しましたが、どうしても馬が合わず、大臣は頭を抱えました。
 大臣はたくさん考え、あることを思いつきました。
 帝国のお姫様とエルフの王子様が結婚すれば王様達も仲良くしてくれるのではないのかと。
 ですが、王様はお姫様をとても大切にしているのでこんな提案をしたら首が飛んでしまいます。
 そこで、大臣はお姫様にお願いします。
 エルフの王子と一度会って欲しいと。
 お姫様は大臣が困っていることに気づき、会うだけならと承諾してくれました。
 そして、エルフの王子様にもお願いしに行くと二つ返事で快諾してくれました。
 実はエルフの王子様は帝国の花と呼ばれる程、美しい姫に一目惚れしていたのです。
 二人は薔薇の咲く綺麗な庭園で会い、王子様は姫を見た時やはりこの人と結婚したいと思いました。
 透き通ったエルフ顔負けの白い肌。
 ゆるくカーブがかかったローズクォーツに似た桃色の髪。
 紅く真っ直ぐこちらを見つめる瞳。
 その全てが気に入りました。
 王子様は国の太陽と言われるほどかっこよく、肩まで伸びた白い髪は雪兎の様に美しいと言われ、青い瞳は海に太陽が反射する様に綺麗でした。
 お姫様は王子を美しい人だと思いましたが王子様の性格がなんとなく気に入らず、王子様が何年も口説き、やっと結婚しました。
 二人の結婚で王様達は仲良しになりました。

「この本もそろそろ読み飽きちゃった」

 読むといっても、指でなぞることなんだけど。
 厚めの紙に文字の形が凹凸になっていて目が見えなくても読める本。
 昔は恋人が読んでくれたけど、その恋人は戦争で声が出せない。
 しかも、頭の部分が人じゃない。
 音が出る弦の楽器のような頭で体は前と変わらない。
 呼ぶと音を出して返事をする。
 本当に恋人なのか考えた時もある。
 触った手の形と声が同じだから多分、アルだと思う。
 アルは基本的に話さない。
 唯一話す言葉は僕の名前だけ。

「へレーネ」

 名前を呼ぶ声がどこから聞こえるのかで大体の位置が掴める。
 少し遠い右の方から聞こえる。
 多分、庭にいるのだろう。

「どうしたの?」

 返事はない。
 ポーン____。
 近くでハープの音がした。
 この音は触れてくる合図。
 目が見えない僕はいきなり触れられると驚いてしまう。
 そのことを人間の時からずっと忘れずに続けてくれる。
 こういうところはやっぱりアルだ。
 手を差し出すと指で文字を書いて伝えてくれる。
 あぁ、それか。
 確かに近くで鳥の声がする。

「手、近くに持っていって」

 手首を優しく握り、肩の方へ持っていってくれる。
 指でふわふわした体を突く。
 触った瞬間、思いがけず鳥は手に乗ってきた。いつもだったら飛んで行ってくれるのに。

 ポロン、ポロン__。

「心配しないで。アルと違って鳥が苦手なわけじゃないんだから」

 地面にゆっくり座って、手を少しずつ降ろし草にあたったところで止める。

「ごめんね。この人、鳥が苦手なんだ」

『こんなに大きな体の癖に変なの』

「可愛いでしょ」

『おまえも変な趣味だな。しかもへレーネって男かよ。女の名前だと思ったぞ』

「僕もそれはちょっと思うけど」

 帰って来た恋人が喋らず、楽器頭でも可愛いと思ってしまう。
 こんなに大きな図体で、鳥が苦手なところも優しい触れ方も変わらないまま。
 全部、愛おしい。

「へレーネ」

 ずっと地面に座りっぱなしだった俺を心配してるのか名前を呼んだ。
 僕の名前はこの国では基本的に女性に付ける名前。
 ヘレーネの意味は絶世の美女。
 素敵な名前だけど僕は自分の顔は見えないし、名前負けしてそうで少し気恥ずかしい。
 鳥はもう何も言わずに、羽ばたく音だけが聞こえた。


「もう大丈夫だよ。アル、家に入ろう」

 手を差しだし、立ち上がらせてもらい腕を組む。

 ポーン____。

 歩き出す合図。
 僕の家はできるだけ段差がないように作られている。
 親が僕のために作った家だ。
 僕が一人でも生活できる家。
 両親が僕を一人で暮らせるように練習したのは僕を置いていくためだったことが解って酷く落ち込んだ。
 でも、もうアルがいるから大丈夫。
 ドアを開けるとベルが鳴る。
 この音は裏口の音。
 全部のドアに別々の音が鳴るベルが付いていて、音でどこのドアか分かるようになっている。
 もう、だいぶ住んでいるから間取りは覚えているんだけど。
 僕の親は魔法が使えたらしく、家の掃除は必要だけど壊れることはない。
 裏口からこの方向だと、リビングに向かっているんだろうな。
 壁には手すりのように木彫りが施されているところがあり、それに触れるとどこにいるか分かる。
 ひとりのときは壁に触れながら移動すれば間違いない。
 歩くときに、物にぶつからないように杖を振って歩くときもあるけど余程の遠出の時以外は使わない。

 ポロン__。

「うん。お願い」

 アルはこないだ僕がソファに座るのに失敗してお尻を強打したせいで、座るときにわざわざ抱きかかえて座らせるようになった。
 心配性すぎて、ちょっと困ってしまう。
 ソファに座ったはいいがすることは特にない。
 アルは座らず、立っているようで試しに隣をポンポンと叩くとソファが少し沈んだ。
 座ったことを確認して、沈んだほうにソファに手を伝わらせながらアルがどこに座ったか確認する。
 アルに手があたったところで、腕を探し組んで寄りかかる。

「何か話して」

 そう言って、手を差し出す。
 アルは手に文字を書いていく。

『さっきはありがとう』

「鳥のこと? ねぇ、どんな鳥だった?」

 僕の目は色も光も見えない。
 いろんな色があって色のないものはガラスと水くらいだと、母に教わった。
 僕が見ているなにもないこれはなんて色なのだろう。
 何も見えないから表現のしようがないんだけど。

『少し、待っていて』

 アルが手に書いて、どこかに行った。
 どこに行くのだろう。
 リビングの二つ目のドアのベルの音がなった。
 足音は左奥に少しずつ遠くなっていった。
 しばらく経って、足音がどんどん近くなり、ベルが鳴った。

 ポロン___。

 戻ってきたと知らせる音とともにソファが沈んだ。

「おかえり。なに持ってきたの?」

 期待しながら手を出す。

『さっきの鳥に似た形の鳥の木彫り』

「乗せてみて」

 両手を出すと、そっと木彫りの鳥が置かれた。
 この木彫り、目が見えない僕のためにアルが作ってくれたやつだ。
 何度も触っていたからすぐに分かった。

「ここが嘴だね。これと同じ長さ?」

『もう少し長い。あと、その子より目が少し小さかった』

「きっとかわいいだろうね。ふわふわしていたし」

『今度、作る』

「いいの?ありがとう」

 アルが木で作ってくれた彫刻コレクションがどんどん増えていく度に僕の世界も広がっていく。
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