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2章
43話 決心
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あの後、ギョンゾは正義という言葉を信じて、異世界人に対して積極的に攻撃を仕掛けるようになったという。
「異世界人が悪いんだ……。俺らが追われるのも、辛いことも」
ギョンゾは何か縋るように、自分を信じ込ませるように最後に言った。
ギョンゾから昔話を聞かされた俺はその話をまとめる。
ギョンゾにこの笛を渡したのはその科学者様?であり、そいつはなぜか異世界人を捕まえることを指示していた。
そいつはなぜか異世界人を恨んでおり、悪だと言っている……。
良く分からないな……、俺は心の中で独り言ちた。
とりあえず、俺はギョンゾの持っていた笛を奪い、鑑定してみる。
「『鑑定』」
『???
?????????
??????????????
?????????????????』
やはり、というべきか、何も鑑定で見ることができなかった。ゲームを始めて最初の方で出会った罠を使う金級冒険者であるカラルが作った罠でもこのような表示になっていた。
おそらく、これを作った奴は相当強い。それに、何らかの鑑定を妨害するものが掛かっているんだろう。
しばらく笛を見つめている俺をエマは心配そうに見る。
「大丈夫?何か分かった?」
「いや、分からない……。でも、これを作った奴はかなり強いんだろうな」
俺はそれだけしか言えなかったが、ケンジの身が心配だ。もちろん、ケンジはプレイヤーだからログアウトすればいいだけなんだろうが、何か嫌な予感がする。それに、このギョンゾに手を貸した男は異世界人(プレイヤー)に何らかの恨みを持っているんだろう。そいつがもしプレイヤーだったら、ゲームの垣根を越えて何が起きるのかは予想がつかない。
「この笛は初めて使ったのか?」
笛を見せながらそう尋ねると、ギョンゾは首を横に振った。
「いや、何人かの異世界人に使った……。捕まえたい奴、異世界人と思い浮かべながら吹いたら、足元に影が生まれたと思ったら、そいつらはすぐに引きずり込まれてった」
「お前はその後、その人たちがどこに行ったり、どんな状態になったかは知らないんだな?」
「ああ、全く知らない」
ギョンゾの話を聞き、どうすれば良いかと悩んでいると、俺の頭の中に妙案が思いついた。
「よし、ギョンゾ。それを俺が異世界人と思いながら吹け」
「は!?」
「えっ、何言ってるの?カジ」
エマとギョンゾが同時に驚いた。
驚く二人をしり目に俺は平然と言う。
「伝えてなかったが、俺も異世界人なんだ」
「えー!そうなの!?私2人の異世界人と冒険してたの?」
そう言って驚くエマとは対照的に、ギョンゾは口をパクパクとしていた、まるで酸欠の魚みたいに。
「……嫌、だった?」
エマに向けて言うと、ぜんぜん!と答えが返ってきた。
「私は異世界人とか、そんなの関係ないと思ってるよー。今回の冒険が初めてだけど、2人ともとっても良い人ってわかってるし」
「ありがとう」
俺はじゃあ、と呆然としているギョンゾに言う。
「さぁ、早く笛を吹けよ……。お前の言う悪の異世界人だぞ」
そう言ってギョンゾに詰めていると、「だーめ」という言葉が聞こえた。
エマの方を向くと、なにやら口元で手にバッテンを結んでいた。
「カジも行くんだったら、私も異世界人と思って吹いて連れてきなさい!」
「ダメだ!」
そう言うエマに対して反射的に俺は言った。
「どうして?」
「さっき言ったろ、俺は異世界人。異世界人は伝承で死んでも生き返るんだろ?」
そう言って、エマにその考えをやめさせようとするが、食い下がってくる。
「でも、私がケンジが助けに行ってはダメな理由にならないよ?」
少し頭に血が上った。
「だから、ダメなんだよ!君たちは多分、死ぬんだろ!?この世界で一度でも死ねば」
「そうだよ。でも、それだったらケンジも異世界人なんだからカジが言う通り、生き返るのなら何があっても大丈夫じゃないの?」
「うぐっ」
痛い所を突かれてしまった。確かにケンジはプレイヤーで何かあってもログアウトすればいい。けど、
「何か、危ない予感がする。……だから、そんなに焦っているのでしょう?」
「私も3人での冒険が楽しかった。だから……助けたいの!」
エマに思っていたことを当てられた。だが、俺も譲らない。
「ああ、エマの考えてることは合ってる。けど、やっぱり君は来たらだめだ」
「どうして!」
声を荒らげるが、俺はエマの手を取る。
「ちょ!」
エマが驚きの声を上げる。
「エマに死んでほしくないからだ!……大丈夫、俺もケンジさんも異世界人だから。絶対に君の前にまた現れる。そうだ!ケンジさんが言ってたんだ。俺たちでまた冒険しないかってさ!」
俺はエマには死んでほしくない。NPCだけど、出会って短いけど、弓矢を教えてくれたり、優しい所があったり、決闘で負けて悔しそうな顔をしたり、もっと彼女を知りたかった。死んで二度と話せないのは嫌だった。
エマはなぜか赤面し、先ほどまでの叫んだ声とは正反対に小さい声で言う。
「うぅー、分かった。3人で冒険するし、残る、残るから一旦手を離して……」
俺は言われた通り、手を離す。そして、目を伏せる彼女に向けて言う。
「エマにはギョンゾと、あの飛んでったオクとヒラの対処を頼む。俺は様子を見にいくだけだから、ね」
「……うん」
少しの沈黙の後、エマは頷きながら言った。
……
「ほんとに……、良いんだな?」
ギョンゾは満身創痍ながらも立ち、笛を構えていた。その後ろにはエマが不安そうな顔でこちらを見つめていた。
「早くしろ。俺は悪なんだろ?」
「……異世界人は悪だ。悪のはずなのに。どうして助けに……」
「早くしろ」
促すと、しぶしぶギョンゾは笛を強く吹いた。
何も変わらない、そう俺が思った直後、空中に浮くような浮遊感が俺を襲い、次の瞬間に俺は気を失った。
「異世界人が悪いんだ……。俺らが追われるのも、辛いことも」
ギョンゾは何か縋るように、自分を信じ込ませるように最後に言った。
ギョンゾから昔話を聞かされた俺はその話をまとめる。
ギョンゾにこの笛を渡したのはその科学者様?であり、そいつはなぜか異世界人を捕まえることを指示していた。
そいつはなぜか異世界人を恨んでおり、悪だと言っている……。
良く分からないな……、俺は心の中で独り言ちた。
とりあえず、俺はギョンゾの持っていた笛を奪い、鑑定してみる。
「『鑑定』」
『???
?????????
??????????????
?????????????????』
やはり、というべきか、何も鑑定で見ることができなかった。ゲームを始めて最初の方で出会った罠を使う金級冒険者であるカラルが作った罠でもこのような表示になっていた。
おそらく、これを作った奴は相当強い。それに、何らかの鑑定を妨害するものが掛かっているんだろう。
しばらく笛を見つめている俺をエマは心配そうに見る。
「大丈夫?何か分かった?」
「いや、分からない……。でも、これを作った奴はかなり強いんだろうな」
俺はそれだけしか言えなかったが、ケンジの身が心配だ。もちろん、ケンジはプレイヤーだからログアウトすればいいだけなんだろうが、何か嫌な予感がする。それに、このギョンゾに手を貸した男は異世界人(プレイヤー)に何らかの恨みを持っているんだろう。そいつがもしプレイヤーだったら、ゲームの垣根を越えて何が起きるのかは予想がつかない。
「この笛は初めて使ったのか?」
笛を見せながらそう尋ねると、ギョンゾは首を横に振った。
「いや、何人かの異世界人に使った……。捕まえたい奴、異世界人と思い浮かべながら吹いたら、足元に影が生まれたと思ったら、そいつらはすぐに引きずり込まれてった」
「お前はその後、その人たちがどこに行ったり、どんな状態になったかは知らないんだな?」
「ああ、全く知らない」
ギョンゾの話を聞き、どうすれば良いかと悩んでいると、俺の頭の中に妙案が思いついた。
「よし、ギョンゾ。それを俺が異世界人と思いながら吹け」
「は!?」
「えっ、何言ってるの?カジ」
エマとギョンゾが同時に驚いた。
驚く二人をしり目に俺は平然と言う。
「伝えてなかったが、俺も異世界人なんだ」
「えー!そうなの!?私2人の異世界人と冒険してたの?」
そう言って驚くエマとは対照的に、ギョンゾは口をパクパクとしていた、まるで酸欠の魚みたいに。
「……嫌、だった?」
エマに向けて言うと、ぜんぜん!と答えが返ってきた。
「私は異世界人とか、そんなの関係ないと思ってるよー。今回の冒険が初めてだけど、2人ともとっても良い人ってわかってるし」
「ありがとう」
俺はじゃあ、と呆然としているギョンゾに言う。
「さぁ、早く笛を吹けよ……。お前の言う悪の異世界人だぞ」
そう言ってギョンゾに詰めていると、「だーめ」という言葉が聞こえた。
エマの方を向くと、なにやら口元で手にバッテンを結んでいた。
「カジも行くんだったら、私も異世界人と思って吹いて連れてきなさい!」
「ダメだ!」
そう言うエマに対して反射的に俺は言った。
「どうして?」
「さっき言ったろ、俺は異世界人。異世界人は伝承で死んでも生き返るんだろ?」
そう言って、エマにその考えをやめさせようとするが、食い下がってくる。
「でも、私がケンジが助けに行ってはダメな理由にならないよ?」
少し頭に血が上った。
「だから、ダメなんだよ!君たちは多分、死ぬんだろ!?この世界で一度でも死ねば」
「そうだよ。でも、それだったらケンジも異世界人なんだからカジが言う通り、生き返るのなら何があっても大丈夫じゃないの?」
「うぐっ」
痛い所を突かれてしまった。確かにケンジはプレイヤーで何かあってもログアウトすればいい。けど、
「何か、危ない予感がする。……だから、そんなに焦っているのでしょう?」
「私も3人での冒険が楽しかった。だから……助けたいの!」
エマに思っていたことを当てられた。だが、俺も譲らない。
「ああ、エマの考えてることは合ってる。けど、やっぱり君は来たらだめだ」
「どうして!」
声を荒らげるが、俺はエマの手を取る。
「ちょ!」
エマが驚きの声を上げる。
「エマに死んでほしくないからだ!……大丈夫、俺もケンジさんも異世界人だから。絶対に君の前にまた現れる。そうだ!ケンジさんが言ってたんだ。俺たちでまた冒険しないかってさ!」
俺はエマには死んでほしくない。NPCだけど、出会って短いけど、弓矢を教えてくれたり、優しい所があったり、決闘で負けて悔しそうな顔をしたり、もっと彼女を知りたかった。死んで二度と話せないのは嫌だった。
エマはなぜか赤面し、先ほどまでの叫んだ声とは正反対に小さい声で言う。
「うぅー、分かった。3人で冒険するし、残る、残るから一旦手を離して……」
俺は言われた通り、手を離す。そして、目を伏せる彼女に向けて言う。
「エマにはギョンゾと、あの飛んでったオクとヒラの対処を頼む。俺は様子を見にいくだけだから、ね」
「……うん」
少しの沈黙の後、エマは頷きながら言った。
……
「ほんとに……、良いんだな?」
ギョンゾは満身創痍ながらも立ち、笛を構えていた。その後ろにはエマが不安そうな顔でこちらを見つめていた。
「早くしろ。俺は悪なんだろ?」
「……異世界人は悪だ。悪のはずなのに。どうして助けに……」
「早くしろ」
促すと、しぶしぶギョンゾは笛を強く吹いた。
何も変わらない、そう俺が思った直後、空中に浮くような浮遊感が俺を襲い、次の瞬間に俺は気を失った。
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