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1章
20話 ナナシ
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「ナナシィ!無事かー!」
俺は森に向かって大声でナナシを呼ぶ。すると、近くの木の影から耳がピコッと出る。
「カジさん!」
ナナシが木の影から飛び出し、俺に元気のいいタックルをくれた。
「大丈夫だったか?」
「怖かったです……」
ナナシの体は落ち着きを失っていた。頭を撫でると体の震えは無くなっていき、落ち着いてくる。
……
サカタを倒した後、俺は後処理に中々骨を折った。ナナシを探すためにあちこちを駆け回ったからな。だが、ナナシの笑顔を見るとそんな苦労を忘れるほど嬉しい気持ちになる。
この後はナナシを街まで送ってログアウトしよう。
「ナナシ、街へ行こうか」
「はい」
草原を進む中、俺はナナシの過去を聞いた。ナナシは意識を持った時には母親は死んでいたらしい。ナナシの出産のショックでナナシと引き換えに死んでしまったそうだ。父親がいたのだが、彼は生まれたナナシを路地裏に捨てたらしい。
「お父さんにとってぼくはいらない存在だったんです」
ナナシは赤ん坊ながら捨て子となったのだが、そこである老人に拾ってもらったようだ。
「おじいさんが拾ってくれたからぼくは今ここに生きてられるんです。僕にとっておじいさんがお父さんでした。」
ナナシを拾った老人はナナシを可愛がっていたが、老衰によって死んだ。そうしてナナシは路地裏に生活に戻ってしまった。
ん?と俺は何か違和感を感じた。ナナシという名は俺が付けたものだ。ナナシは俺に名前を付けられるまでは本当の意味での名前なしで生活していたということだ。拾ってくれたおじさんがいるのに?
俺は何か奇妙なものを感じたのだが、悲しげな表情のナナシに何も聞かなった。
「おじいさんにたくさん愛情をもらったのに僕は、僕はおじいさんに何にも恩返しを……」
ナナシは口をキュッと締めて涙を出すまいとしていたが、目尻から涙が溢れかかっていた。
俺はそれを見た時、反射的に声を出していた。
「……俺は、親が嫌いだ。」
「えっ……」
俺の言葉にナナシは俺の顔を見る。つらつらと勝手にしゃべってしまう口に任せ、俺はナナシに話す。
「俺は、親に完璧を期待されて生きてきた。だがな、俺は出来が悪かった。そんな俺の無様な姿を見て、今じゃあ親とは絶縁状態さ。だから、俺も親に見捨てられた気持ちは少しは分かる。この先輩の胸で思いをぶつけても何も問題はないさ」
「カジさん……うぅ、うわああああぁぁ」
「今は、たくさん泣いとけ」
……
ナナシは俺の胸で泣いて、泣いて、泣いた。そして泣き疲れて寝てしまったようだ。その寝顔はとても安らかだ。そんな状態なので俺が背中におぶってやっている。
歩いていると今までの出来事がよぎり、このゲームの根本的な疑惑がふつふつと俺の心に湧いてくる。
「これは……ゲームなんだろうか本当に?」
ナナシの過去、この世界のリアリティーさ、街の住民たち。
考えたって少しも分からない。
「まあ、いいか。俺はこのゲームを、楽しめばいいのさ」
自分に説得するように呟くと子鬼の森を抜けだした。
そして、街が見えてきた。
俺は森に向かって大声でナナシを呼ぶ。すると、近くの木の影から耳がピコッと出る。
「カジさん!」
ナナシが木の影から飛び出し、俺に元気のいいタックルをくれた。
「大丈夫だったか?」
「怖かったです……」
ナナシの体は落ち着きを失っていた。頭を撫でると体の震えは無くなっていき、落ち着いてくる。
……
サカタを倒した後、俺は後処理に中々骨を折った。ナナシを探すためにあちこちを駆け回ったからな。だが、ナナシの笑顔を見るとそんな苦労を忘れるほど嬉しい気持ちになる。
この後はナナシを街まで送ってログアウトしよう。
「ナナシ、街へ行こうか」
「はい」
草原を進む中、俺はナナシの過去を聞いた。ナナシは意識を持った時には母親は死んでいたらしい。ナナシの出産のショックでナナシと引き換えに死んでしまったそうだ。父親がいたのだが、彼は生まれたナナシを路地裏に捨てたらしい。
「お父さんにとってぼくはいらない存在だったんです」
ナナシは赤ん坊ながら捨て子となったのだが、そこである老人に拾ってもらったようだ。
「おじいさんが拾ってくれたからぼくは今ここに生きてられるんです。僕にとっておじいさんがお父さんでした。」
ナナシを拾った老人はナナシを可愛がっていたが、老衰によって死んだ。そうしてナナシは路地裏に生活に戻ってしまった。
ん?と俺は何か違和感を感じた。ナナシという名は俺が付けたものだ。ナナシは俺に名前を付けられるまでは本当の意味での名前なしで生活していたということだ。拾ってくれたおじさんがいるのに?
俺は何か奇妙なものを感じたのだが、悲しげな表情のナナシに何も聞かなった。
「おじいさんにたくさん愛情をもらったのに僕は、僕はおじいさんに何にも恩返しを……」
ナナシは口をキュッと締めて涙を出すまいとしていたが、目尻から涙が溢れかかっていた。
俺はそれを見た時、反射的に声を出していた。
「……俺は、親が嫌いだ。」
「えっ……」
俺の言葉にナナシは俺の顔を見る。つらつらと勝手にしゃべってしまう口に任せ、俺はナナシに話す。
「俺は、親に完璧を期待されて生きてきた。だがな、俺は出来が悪かった。そんな俺の無様な姿を見て、今じゃあ親とは絶縁状態さ。だから、俺も親に見捨てられた気持ちは少しは分かる。この先輩の胸で思いをぶつけても何も問題はないさ」
「カジさん……うぅ、うわああああぁぁ」
「今は、たくさん泣いとけ」
……
ナナシは俺の胸で泣いて、泣いて、泣いた。そして泣き疲れて寝てしまったようだ。その寝顔はとても安らかだ。そんな状態なので俺が背中におぶってやっている。
歩いていると今までの出来事がよぎり、このゲームの根本的な疑惑がふつふつと俺の心に湧いてくる。
「これは……ゲームなんだろうか本当に?」
ナナシの過去、この世界のリアリティーさ、街の住民たち。
考えたって少しも分からない。
「まあ、いいか。俺はこのゲームを、楽しめばいいのさ」
自分に説得するように呟くと子鬼の森を抜けだした。
そして、街が見えてきた。
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