転生悪役令嬢は悪魔王子をスルーしてカフェオーナーになりたい

和気 藹

文字の大きさ
上 下
10 / 43
領都フルネンディク

9 知らないフラグ襲来

しおりを挟む


 私が迂闊につぶやいた一言に、ローと呼ばれた少年から睨まれ、威圧感に似た警戒されている気配が感じられました。

 その様子に私の中の何かが反応しました。嫌な予感というか、ニ〇ータイプの煌めきのような。これ絶対何かのフラグだ、ゲームにはこんなエピソードなかったから、また別のフラグだ。よし全力回避決定。デンカ、電化、伝家……ごまかす言葉が見つからないっ!

「デン・カーはないのか?」
「デン・カー?」
「甘い味がする植物の根だよ」
「聞いたことないな」
「確か、別の地方ではリ……コリスとか呼ばれていたかも」
「……リコリスならあるぞ」
「それ! 欲しい! あと、バニラとペルシ(パセリ)、タイム、エストラゴン、ローズマリーにペペローニ(唐辛子)!」
 わざと前世のハープ・スパイス名を並べた私を見てあきれたように笑う少年。アルカイック・スマイルは殿下のみのようです。
「バニラ以外、聞いた事ないぞ」
「……あー、どんなのがあるか見せてもらえるかな?」
「……お好きにどうぞ」
 薬草を見るふりして背を向けて一息つく。胡散臭げな視線は痛いけれどうまくごまかせたようです……あぁ苦しかった……ダジャレは苦手だし恥ずかしい。

 しかし、このローと呼ばれた少年、庶民なので短く切って瞳を隠すように前髪だけ伸ばしたプラチナ・ブロンドといい、前髪から時折のぞく虹彩に白く筋が入るエメラルドの瞳といい、まとう雰囲気が悪魔殿下そのものです。まぁ殿下はノート兄様と同い年で、この少年はシモンと同い年っぽいので、他人の空似の可能性は高いですが、お爺様が元王宮魔術師というバックグラウンド。どう見ても王家の秘密にかかわるフラグですよ、余計なフラグには近づかない。解らない振りしましょう。

 あっ唐辛子見っけ。大蒜は見つけたし、オリーブオイルは元々あるので、ペペロンチーノが作れますね。黒胡椒もナツメグもある。本当に品揃えが良いです。ローズマリーは乾燥している方が管理が楽なので良しとして、パセリにタイム、エストラゴンも乾燥か。生じゃないとブーケガルニが作れないなぁ。大きさがそろっているし結構綺麗に乾燥してあるけど栽培してるのかな? 農家紹介してもらえないかな?

 振り返ると男三人で穏やかに談笑中でした。
 なんですかー! 仲間外れですか? 寂しいじゃありませんか! 今は男装中だけど、こういう時って気後れしちゃうんですよね……あーあ、どうせ転生するなら男に生まれたかったなぁ……。そしたらこんな苦労しなくて済むのに。

 ……ネガティブ思考は何も生まない。冷静に状況を判断して対策を練るだけ。さっきの緊張した空気は霧散したので良しとしましょう。

 私が居心地悪そうにしているのに気付いたノート兄様が、手招きしてくれました。
「妹のマリアンネだよ」
「えっ、ノート兄様?」
「計画の事を話して協力してもらうことにしたんだ」
「いきなりですね、ノート兄様?」
 言外に何で勝手に決めてんの? を含め訝しげにノート兄様を見ると、私の抗議に気付いたのかノート兄様は焦りながらも話を続けます。
「シモンの友達のローデヴェイクだよ。元王宮魔術師のデュルフェル師の孫で錬金術師だよ」
「錬金術師?!」
 確か錬金術師として名乗るにはスキル持ちでも十年以上の修行が必要なはず。ノート兄様と同じ天才系ですか?!
「うん、だから協力をお願いすることにしたんだ」
 そういうことなら、私もお願いするのが道理でしょう。ローデヴェイクに向かって略式のカーテシーをします。
「錬金術師のローデヴェイク師、私は停滞したこのフェルセンダールを豊かにしたいのです。協力してもらえますか?」
「ローとお呼びください、マリアンネ様。私もこの何年か停滞し始めたこの街に危機感を感じていました。ぜひ協力をさせてください」
「ありがとう、ロー。では後で計画の骨子をまとめた資料をシモンに届けさせるわね」
 にっこり笑うと、ローがあからさまに視線を逸らしました。あれ? 怖かった? まぁ色々扱き使わせていただきますけどね。ふふふふ。

「じゃあ、このメモに書いたモノを全て新ロットで欲しいの。食品として使用するので後入れ先出しでそちらの言い値で買うわ。質は信用するので最小ロットはどのくらいで何日前のもの?」
「モノにもよりますが、最小ロットは麻袋で最新のモノはおとといです」
「麻袋? そんな曖昧なもので商売しているの? 量り売りはしないの?」
「要望があれば、ケイ単位で販売してます」
「分銅の更新は?」
「昨年に」
「最新ね。じゃあ十ケイずつお願い。いつ全部そろいます? 前金で必要なら、シモンに持たせるので金額を教えて? それから無限収納インベントリは持っているの?」
「全部そろうのは三日後で、前金はいりません。無限収納インベントリは小さいものなら」
「じゃあ、ノート兄様に大容量のモノを作ってもらいましょう。ノート兄様、お願いします」
「いいよ。ロー、特別製だから他の人には内緒ね」
「はい」
「じゃあ三日後、また来るわね」
「はい、お待ちいたしております」

 最後に見たローの表情からは、軽視の色は見られませんでした。ふふふ、勝ったぜ。
 次は市場に参りましょう♪

 あ、フラグスルー……出来てたよね?


◇◆◇◆◇◆


 よく聞くけどよくわからないビジネス用語

 ロット;同じ条件のもとに生産(製造)する製品の“生産(製造)数量、出荷数量の最小単位”の事。単価が小さい物や箱で販売するモノの販売数や単価を決める時も最小ロットでの計算を使用する。

 後入れ先出し;後に買った物を先に売る事。時間が経つことによって陳腐化(価値が下がる)しやすいモノ(食品・流行品・使用期限があるモノ)を先に販売する。モノによっては在庫が古いものばかりになり破棄せざるを得なくなるのでリスクが高いが、その分、割引をしなくて良くなるので売価が崩れにくくなる。反対に先入れ先出しは、先に買った物を先に売る事。常に在庫が最新のモノになるので陳腐化や返品・破棄リスクが少ない。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

伯爵令嬢の秘密の知識

シマセイ
ファンタジー
16歳の女子高生 佐藤美咲は、神のミスで交通事故に巻き込まれて死んでしまう。異世界のグランディア王国ルナリス伯爵家のミアとして転生し、前世の記憶と知識チートを授かる。魔法と魔道具を秘密裏に研究しつつ、科学と魔法を融合させた夢を追い、小さな一歩を踏み出す。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

処理中です...