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21 溶ける2

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「……この指輪は、リストライネン公爵家の使用人だった祖父が祖母に送った結婚指輪だったんだよ。祖母は母上の乳母をしていて、母と母上は乳姉妹だったんだ」

「そうだったんだ……」

「物心ついた時には、まだ祖父も祖母も生きていて、別邸で家族水入らずで暮らしていて……スゥと出会って……短い間だったけど、とても……凄く……幸せな時間ときだったんだ……あの時間ときの事はあんまり思い出さないよう……に……」

 コードは指輪を握りしめ開いている手で顔を覆って黙ってしまった。

 泣いているのだろうか? リスベスはコードの気持ちを推し量って黙っていたが、なぜだか居たたまれなくなってコードの頭を抱きしめ、背中を優しく撫でながら静かに涙を流した。




◇◆◇◆




 どのくらい時間が経ったのか、コードが身じろぎしたのでリスベスはコードから手を離し二人の間に少し間を空けた。

 が、逆にコードに両腕ごと抱きすくめられソファに押し倒される。

「ちょっ、コード!」

「抱きしめられるより、抱きしめる方がいいんだよ」

「なにが?!」

「楽しむには」

「はぁ?! ちょっと! 何言って……んっ」

 リスベスの抗議の言葉はキスで止められてしまう。コードの舌がリスベスの上下の唇をなぞった後口内に入って有無を言わせず、口腔ひだをなぞる。途端に背筋がゾクッとして脇腹がピクッと小さく痙攣した。

「いいね。俺が教えた通りの反応だ」

 コードの自分の呼び方が変わって、戸惑いの表情を見せたリスベスが素直に疑問を返す。
「……俺って?」

「兄上の影の時は、兄上の口調で話す。スゥしか昔の俺を知っている人間はもういないし、もう影でいる必要はないからね。あれから、誰もスゥに触れてないんだね?」

 そう言うと、コードはあの時のように顔中にキスの雨を降らせると、耳のひだに舌を這わせ耳に熱い息を吹き込んだ。リスベスがビクッと肩をすくめるとその反応が嬉しかったのか、リスベスのドレスを広げて胸元にキスをして心底嬉しそうに笑う。

 その笑顔を見て、リスベスはあんなにもう一度戻りたかったコードの腕の中に居るのに、このままコードに抱かれるのは簡単でそれは前回と一緒だと気づいた。
 過去の話はたくさんしたのに、未来の話、今夜の事さえ何も話してはいない。
 また幸せな一夜の夢だけ見てあの空しい日々に戻るのではないか? そう思うとリスベスの欲望は、すっと覚めてしまった。

「……そうね、あれからひどく寂しくて空しくて後悔してた……コードはどんなに探しても見つからなくて、私は一夜の恋レベルの女で愛とか長続きする関係すら求めらることは無い女だってって思い知っちゃったから……コードを恨んだわ」

 リスベスの冷えた返事にコードが目を見開いて凍り付く。

 コードの腕が緩んだので、リスベスはドレスを直してまっすぐコードに向き直る。

「コード、ちゃんと話して。あの日どうして、傷ついた顔をしたのか、最後に名前を呼んだのか。そしてこれから私達はどうするべきなのか」



◇◆◇◆

気が付いたらお気に入りが1,000以上に。Σ(・ω・ノ)ノ!
励みになります。本当にありがとうございます。
ちゃんとハッピーエンド完結するよう頑張ります!

本当にありがとうございます。
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