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12 ヘタレと再会フラグ

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 エルノ・ブレンバリ教授のリスベス獲得作戦は彼らしいものだった。

 それは脱走騒ぎのあった出張から帰って来た日から始まった。

 帰って来て靴の泥を落とす間もなくやってきて、「土産だ」と言って出処不明の魔導書を置いていったのが始まりだった。

 翌日には、手のひら大の魔石、古い薬草図鑑、古代魔方陣の古書など。毎日やって来て何かしらを置いていくので、たいして広くないリスベスの研究室はガラクタまみれになった。実際はガラクタなどではない、貴重な資料モノばかりなのだが、魔力の液状化の研究には役に立たない資料モノなので、これは致し方ない。

 ブレンバリ教授は贈り物攻撃をリスベスに拒否されてしまったので、慣れない女性を口説く方法を相手を明かさずに部下のヘルマンに尋ねた。
 相談したのではない尋ねたのである。
 友達いなかったのか? というツッコミを入れる皆様は多いと思うが、研究一筋だった彼にはそういう色事に長けた友人はいないのだ。
 ブレンバリ教授の名誉のために説明するが、エルノ・ブレンバリ教授は決して不細工ではない、肩までのストレートの銀髪とオーキッドの瞳をもつ、黙っていればイケメンなのである。繰り返す、黙っていればイケメンなのである。

 ヘルマンはブレンバリ教授が口説きたい相手を聞けなかったので、しかもプレゼントした物が何だったかも知らなかったので、当たり障りなく「将を射んと欲すれば先ず馬を射よ」的なアドバイスをした。
 しかしブレンバリ教授が実行に移す前にへルマンが「溜まった仕事をしてからでないと、助手全員でストライキを起こす」と脅したので、ブレンバリ教授は仕方なく仕事に集中する事となった。


◇◆◇◆


 ブレンバリ教授のプレゼント作戦が沈静化し、エンマに頼んで教授からもらったプレゼントをすべて返し終えた頃、リスベスは学院長に一人呼び出された。

「学院長、お呼びと伺いましたが」

 老年に差し掛かろうとするお歳にかかわらず、筋肉の程良くついたがっしりした体格の学院長が破顔する。
「ヴァートレン師、お疲れ様。忙しい時にすまないね」応接セットを手で指し示すと自らも座って足を組む。

「いえ、……失礼します」リスベスが長椅子に落ち着いたのを確認すると学園長が足を組み直し話始める。

「ヴァートレン師に仕事を頼みたいんだ」

「はあ」

「君は新しい侯爵家が創設されたのを知っているかい?」

「ええ、噂程度には」

「そうか、ではその侯爵が魔力が強く呪術系の魔術に造詣が深い、という話は?」

「すみません、そこまでは存じ上げません」

「呪術系のレベルはどのくらいだった?」

「卒業時A+の判定をいただきました」

「それは都合の良い」

「都合の良いとは?」

「その侯爵が博士論文を書くのを手伝って欲しいんだ」

「えっ、私がですか?」

 リスベスの眉が顰められ眉間に皺がよる。嫌がっているのがまるわかりだ。
 その反応を見て学長の片眉が上がり意外だというような顔になる。

「君の家は侯爵家で、この学院で研究室持ちの講師は君だけだって理解している?」

「はい」

「そういうことだよ、よろしくね」

「…………はい」

「正式通達は週明けだよ、その間の講義は休講になるけど、侯爵から報酬が出るらしいよ」

「……それはありがたいですね」

「それから、ブレンバリ教授とはどう?」

「どう……とは?」

「どこまで行ったの?」

「どこまで……本校舎の学食ぐらいですかね?」

「学食?」

「ええ、今日のお茶の時間に新作スイーツをブレンバリ教授とヘルマン君達と皆で食べに行きました」

「はぁ、ヘタレと鈍感か……」

「はい?」

「いや、こっちの話。じゃ、準備よろしくね。戻っていいよ」

「はい、かしこまりました」


◇◆◇◆

 教師の職階は平成十九年以降の教育法に遵守しました。

 ブレンバリ教授はイケメンなんですよ~イメージはACCAのグロッシュラー長官のはずだったのですが……私の表現力のなさのせいでただのヘタレ。夢で怒られそうで怖い。
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