深見小夜子のいかがお過ごしですか?

花柳 都子

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聖書のある部屋

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 さて、今日は〇月〇日。皆さん、いかがお過ごしでしょうか。ゴールデンウィークも近づいてきて、どこかへお出かけという方も多いのではないでしょうか。かくいう私はホテルに泊まることが、ここ最近多くなりました。というのも、仕事の一環といいますか、よく『缶詰になる』なんて耳にしますが、まさにそれです。家にいると何かと誘惑も多く仕事が進まない、そんな時にあらゆる一切合切を遮断して、自分だけの世界に閉じこもりたくなるのです。私の場合は強制されているというより、自主的なニュアンスが幾分強いですね。静かだし、何もないし、快適だし、いっそのことこのまま住んでしまいたいくらいです。
 ところで皆さん、ホテルに限らず、旅館などでもいいですが、宿泊するときのこだわりは何かありますか? 景色がいい、温泉がある、食事が美味しい、部屋やベッドが広い、アメニティが充実している、などなどこれだけは絶対に譲れないというこだわりがある方もいるかもしれません。え? 私? 私はですね、ほとんどこだわりがありません。どこでも寝られるタイプなので寝具にもこだわりませんし、大体なんでも美味しく食べられるので食事にもこだわりません。景色がいいに越したことはありませんが、外界から遮断されるからホテルが好きなのであって、カーテンが閉まっているほうが落ち着くという性質上、景色にもこだわりません。強いて言うなら、温泉がないほうが嬉しいですね。ホテルだと大浴場があるところもありますが、私は部屋の浴室のほうが好きです。誰にも気を遣わなくていいし、アメニティも広げ放題だし、忘れ物もしない。それらも理由の一つですが、何より私は温泉に入ると具合が悪くなってしまうんですね。さっきも言ったように、私はどこでも寝られるし、なんでも美味しいので、極端に言うと安かろう狭かろうでも何ら問題ありません。最低限、清潔感のあるところなら他のところは全く気にならないのです。ですから、自分が泊まる時もわざわざ温泉のある旅館を選ばないわけですね。となると、旅館に泊まる機会がほとんどない。その機会は、私の場合、会社の社員旅行に限られていたのです。そして、社員旅行といえば当然、お酒を飲みますよね。以前もお話したように、私はお酒に強いです。普段は一滴も摂取しない分、そういう時は浴びるように呑むんですね。私の中で温泉とお酒がセットになった状態でしか、温泉に入ることがなかったんです。お酒を呑んだことによって、眠いというのもありますし、社員旅行で動き回って気を遣って疲れているというのもあるかもしれません。いろいろ重なった結果、温泉にはいると具合が悪くなるという先入観のようなものが私の中に植え付けられてしまったのでしょう。なんだかぐらぐらするし、次の日の朝も他のみんなは朝風呂に行くのに、私はそんな気力すらなく布団に突っ伏しておりました。二日酔い? いえいえ、温泉にさえ入らなければけろっとしているのが常なので、やはり温泉とお酒の相性が私の体質に合っていないのでしょう。ですから、女友達と温泉に行こうという話になったり、一般論として男性が女性の好きな場所に誘おうと『温泉』を選んだりするのを考えると、なんだか憂鬱な気持ちになります。だったら、お酒を控えろと皆さんには思われるかもしれませんね。でも、温泉と同じくらい、旅館といったらお酒でしょう? 地酒も豊富だし、食事が美味しいのでお酒も美味しい。そうでなくとも、私は温泉でみんなの前で体を洗うという行為がいつまで経っても慣れないので、温泉にはやっぱりいいイメージがないんですよねぇ。というわけで、世の男性の皆さん、温泉が苦手な女子も中には存在します。誘う場所を選ぶ時は、「みんなが好きだから」ではなく、「あの子が好きだから」を大事にしてくださいね。
 さて、もっと実用的な話をしましょう。ホテルの部屋ひとつとっても、綺麗で広い以上に、コンセントの位置やお湯を沸かす道具の有無、それから荷物を置く場所などなど、案外不便だなぁと感じるところって結構ありますよね。会社員時代にも、一ヶ月近くホテル暮らしをしたことがあります。その間、いくつかのホテルに泊まりましたが、あるところは枕元にコンセントがなかったり、またあるところは湯沸かし器がなかったり、ランドリーが予約制だったり、姿見がなかったり、などなど、どこかいいところがあれば、どこか足りないところがあるものです。ホテルといえば、キッチンがないので、外食するかどこかで買ってきて部屋で食べるかですよね。私は大概後者になるんですが、いつだったか箸をもらい忘れてご飯が食べられなくて絶望したことがありました。そうしたら、テーブルに置いてあったホテル案内にお土産として箸を売っていると書いてあったんです。ラッキーと思いました。むしろ、箸の販売をしているホテル滞在中に箸を貰い忘れるなんて、タイミングが良すぎるとさえ感じたほどです。そんなふうに、ホテルも旅館も長所と短所がごちゃ混ぜになっているんですね。人間と同じく、というか、その人間が作った施設ですから当然かもしれませんが、完璧なところなんて一つもないんですよね。それこそ、お金をいくらかけたとて万人受けする部屋はおそらく作れないでしょう。好きも嫌いも千差万別です。その全てに応えることができるとしたら、一千人一万人の意見を全て取り入れることになり、逆にカオスな空間になることでしょう。それはそれでちょっと面白そうですね。それだけで物語がひとつできあがりそうです。
 ここまでお話した通り、私は総じて、自分だけの空間を大事にしたい人間なので、部屋も狭くていいし、温泉や大浴場がなくてもいい。でも、やっぱりホテルの部屋に入って鍵を差し込んで明かりがついた時のあの感覚、「おお、いい部屋じゃん」っていうあの感覚は、いつでも新鮮で楽しい気持ちになります。思っていたより部屋が広かったり、ちょっとだけ雰囲気がよく見えたり、ともすると同じようなホテルでも料金が少し高かったりすると、あれここってもしかしてビジネスホテルじゃなくてシティホテルなのかもなんて、テーブルの引き出しを開けてみるとそこには果たして聖書が厳かに佇んでいたりするのです。ホテルで働いたことのある先輩に、シティホテルとビジネスホテルの違いは? と聞いたところ、その一つに『部屋に聖書があるか否か』という答えが返ってきました。それから意識して部屋を調べているのですが、聖書が見つかると「ここってシティホテルなんだ~」と妙に感心してしまうようになりました。逆も然りですね。皆さんも気になった時はぜひ、確認してみてくださいね。
 さて、そろそろお別れの時間です。体験談は枚挙にいとまがありませんが、隣の部屋のドアが開いていて目に飛び込んできたベッドに、裸の男性の脚が伸びていた衝撃に勝るものは未だありません。あれは一体どういう状況だったんでしょう。季節は冬。扉を閉め忘れたのか、あえて開けていたのか。気になるところです。閉め忘れたのなら廊下の音がやけに大きくて気になると思いますし、逆に開けていたのだとしたらよほど部屋が暑かったんでしょうか。とにかく意味がわからず怖かったので、なんとか納得しようといろいろ模索してみたことを覚えています。足元しか見えなかったので、上はちゃんと着ているのかもと思ったところで、いやそんなわけないなと考え直しました。全裸よりむしろ変態さが増してしまいましたね。もしかするとあれは、自分だけの空間を楽しむだけに飽き足らず、周りを巻き込みたくなったある一人の男性の成れの果てだったのかもしれません。と言いつつ、いびきも聞こえたので、単に閉め忘れたというオチでしょうか。ともあれ、皆さんも独りの世界を楽しみたい時があると思います。そこがホテルじゃなくても、あなたはあなたの時間を大切に、そして誰かといる時間と同じように、楽しんで過ごしてくださいね。また来週お会いしましょう。深見小夜子でした。



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