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ぽてぽてという足音

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 さて、今日は〇月〇日。皆さん、いかがお過ごしでしょうか。最近、雨の日が多いなぁと感じる今日この頃。桜もあっという間に散ってしまって、何だか毎日が忙しなくて情緒を感じる暇もありません。ところで、皆さんは雨が好きですか? それとも嫌いですか? 私はね、どちらかといえば好きです。どちらかといえばというのは、自分から話を振っておいて何ですが、普段好き嫌いの基準で雨を考えることがないからですね。それはともかく、雨というのは自然現象ですが、詩や俳句、小説などでよく情緒的な言い回しをする時にも登場しますよね。たとえば、『神の恵み』とか、『天の涙』とかね。人間の創造、つくる方の創造の話ですから、正しいとか間違っているとかの基準で考えるのは野暮な話で。人間の目線で言うと、上から落ちるというのはやはり涙を連想させますし、総じて雨が降る日の空は雲に覆われて暗いですから、私たちの心も沈みがちです。でも、さっきも言ったように農家の方や水が貴重な場所では雨は恵みにもなります。私も車が少し汚れていたりすると、雨が降ってくれないかなぁなんて思うことがあります。雨というのは、いえ、雨に限らずこの世に起こる全ての事象は、受け取る側の状況や心情によって、プラスにもマイナスにも働くものです。
 雨と言えば、私は雨の音が好きですね。たとえば無数の雨粒がガラスや傘を叩く、パタパタという音。私たちが普段暮らす世界は環境音に満ち溢れていますが、時にはそれをも凌駕する轟音になることもあります。雨は言い換えれば水ですが、生活の中に当たり前のように存在しているわりに、私たちは無限に集合した水の恐ろしさを忘れてしまいがちです。自然というのは人間ごときが手を出してはいけない、足を踏み入れてはいけない、絶対領域なのでしょう。そう、まさに神の統べる『世界』といった具合に。もしも神様がいるとして、そしてもしも神様が自由自在に自然を操ることができるとして、雨は私たちに与えられた試練のようにも思えます。自分の中のうまくいかない感情を、心に雨が降るなんて例えるように、乗り越えなければならない宿命なのかもしれません。でもね、私はこうも思います。神様というのは元々人間で、自分に叶えられなかったことを私たち後世の人々に叶えさせようとしてくれているのだとどこかで聞いたことがあります。『神の恵み』という言葉はそこから来ているのかもしれませんね。お母さんが作ってくれるカレーが美味しいのも、桜の花が綺麗に咲くのも、全て雨のおかげですから真相はともかく頷けますよね。それとは別に、これは私の想像の話ですが。この場合はつくるというより、思うほうの想像がニュアンスとしては近いでしょうか。私はね、地上に雨が降っている間は神様たちが歌えや踊れの宴を開いているのだと思っています。雨音はいつか地上のどこかに当たって様々な音を立てます。その無数の雨粒をBGMに踊り狂っているのかもしれません。どうでしょう、少し雨が楽しくなりませんか?
 さて、音の話をしましたが、皆さんは好きな音ってありますか? 私はヒールが地面を打つカツカツ、そうコツコツではなく、カツカツという足音ですね。それから例に挙げた雨音もそうですし、紙を捲る時のサラリという音も好きです。私の音の表現は些か変わっているかもしれませんが、皆さんもきっと音の感じ方は人それぞれでしょう。これは私の独特の趣味というか、特技というか、一種の職業病ですが、実際には音が出ていない行動に擬音語、いえ、言葉としては擬態語が正しいのでしょうね。擬態語をつける癖があります。たとえば、『信号がパカパカする』なんかがいい例ですね。いつかも話したように、私は歩行者用の信号が赤に変わる前に渡り終えたい主義です。ですから、横断歩道に差し掛かる前に信号がパカパカし始めた時、向こうの歩道までの距離を見極めて無理そうだと思ったらたとえ赤に変わり切っていなくても諦めて立ち止まります。なんと心に余裕があるのでしょう。そんな自分に満足しながら、一番前で信号を待つ時間に優越感を感じるのです。ともあれ、パカパカという擬態語が方言なのかわかりませんが、歩行者用信号が赤に変わる直前に一緒に歩いていた友達を「パカパカしてる!」と急かしたら「何それ?」なんて言われたことがあります。皆さんも普段使わないですか? 他にもある足音を『ぽてぽて』なんて表現することもありますね。皆さんはこう聞いてどんな状態を想像しますか? (少し間を置いて)では、答え合わせをしましょう。私のイメージする『ぽてぽて』という足音は、少し気怠げな、ちょっと歩みの遅い、ともするとあくびをしながら歩いている、そんな印象です。どうでしょう。違ったと答える人も多いかもしれませんね。感じ方はそれぞれ皆さんの主観によるものですから、あなたが感じたその印象があなたにとっての『正解』です。このラジオ宛に頂いている感想は全て拝見しているので、もしよかったらあなたの感想を教えてくださいね。作家の端くれとしては、「違った」と答える方がいると嬉しくもあり、同時に悔しくもあるものです。つくづく難儀な性格だと私自身思いますが。もう少し時間がありますから、もう一問いきましょうか。ゴホン。隣にいる恋人が『ふっ』と笑った。これはどうでしょう? (少し間を置いて)実を言うと、これには『答え合わせ』が存在しません。というのも、この一文だけでは答えが無限にあるからです。たとえば、想像した恋人が女性か男性かでも違うでしょう。『ふっ』という笑い方は、思わず頬を緩めたようにも、ほんの少し嘲笑を含むもののそれさえも愛おしいといった盲目の愛にも、そして口角を上げるだけの優しげな慈愛の笑みのようにも感じられます。小説を読む方はなんとなくわかると思いますが、物語はそのワンシーンだけで成立するものではありません。話の繋がりが、文章の流れがあっての、ひとつひとつの台詞なのです。どれが欠けても、また、何が付け足されても180度印象が変わってしまうことだってあります。それは私たちが普段生活する空間でも同じです。そんなつもりはなかったのに、相手を怒らせてしまったなんてことにも心当たりがあるでしょう。言葉足らずや饒舌なんて言葉がある通り、話し方がいかに重要かがわかりますね。私はよく笑わせるつもりがないのに人に笑われることがあります。それこそさっきの『ふっ』という笑い方と表現するのが正しいかもしれません。イメージとしては嘲笑というより、思わずこぼれてしまったという意味合いが強いでしょうか。友人にその話をしたところ、私は「たまに国語辞典みたいな話し方をする」そうで。数年前、会社の先輩との会話の中で「久方ぶりに」なんて何気なく口にしたら、ふたりで大爆笑に至ったことがあります。先輩曰く「久方ぶりに」という表現を「久方ぶりに」聞いたそうで。そう考えると、私の培ってきた表現力もなんだか捨てたもんじゃないなと思います。
 そろそろお別れの時間です。今日はオノマトペの話をしましたが、この『オノマトペ』という響き自体が私には擬音語や擬態語の一つに思えて仕方ありません。なんだか『ドキドキ』『ワクワク』みたいな耳馴染みのいい絶妙な並びをしているように感じるのです。皆さんは普段の生活でドキドキワクワクすること、ありますか? 何もないなんて方は少し周りの音に耳を傾けてみるのも、一興かもしれませんね。また来週お会いしましょう。深見小夜子でした。



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