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正しき習わし
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さて、今日は〇月〇日。皆さん、いかがお過ごしでしょうか。突然ですが、皆さんは癖ってありますか? 自分では気がついていなくても、意外にいつの間にかああしてるこうしてるなんてことがありますよね。私はね、小さい頃から直らない癖がありまして、眠くなると自然と耳を触ってしまうことなんですね。誰にも迷惑をかけないし、作業中に頬杖をつきながら耳を触っていてもそれほど不自然ではないので、直すタイミングも特になかったんですよね。大人になってからはあまりしなくなりましたが、その癖が当たり前すぎて自分でも気がついていないだけかもしれません。直ったというよりは、良くも悪くも意識しなくなったというところでしょうか。あとは、そうですね。これも癖と言っていいかわかりませんが、私は人をあだ名やニックネームで呼ぶことがほとんどありません。小学生くらいの時は、田舎だったのでクラスもとい学年全員と距離が近かったからか、みんなあだ名で呼び合っていたと思います。あだ名というより、省略でしょうか。たとえば『はるか』ちゃんなら『はる』とか、『えみこ』ちゃんなら『えみ』とかね。中学生になると、ひとクラスしかなかった学年の人数が一気に増えるため、同じ小学校の友達とも疎遠になっていって、なんだか呼び方も変えたほうがいいのかしらなんて感じたりするものでしたが、部活動が始まると自然と呼び捨てになりましたね。呼び捨ても今の私は、昔からの知り合いでない限りしないのですが。特に年上の方には必ず敬称をつけますね。大学時代の友だちにふたつ年上の子がいるのですが、いまだに『さん』をつけて呼んでいます。決してよそよそしい感じではなく、あくまで『親しき中にも礼儀あり』のニュアンスで。なぜ、あだ名を使わないかと言うと、あだ名を使っている自分がむず痒くなってしまうんですね。恥ずかしいのもありますが、この子はそう呼ばれることをどう思っているんだろうとかね。考えれば考えるほど深みにはまるので、ならばいっそ考えないほうがいいじゃないかと。そんなことに時間と神経を使うくらいなら、無難に名前に敬称をつけて呼べばいいだけです。そのほうが楽だし、よっぽど相手にこう呼んで欲しいと懇願されなければ、はずれがありませんから。
さて、そんな私にはある習わしがありまして。『習わし』なんていうと大げさですが、私の習慣というか習性というか、とにもかくにも思わずこうしてしまうという行動があるんです。それは『落とし物に吸い寄せられること』。なんじゃそりゃと思われるかもしれませんが、なぜか落とし物に対しては私の体が敏感に反応するんですね。大学生の時、前を歩いていた女の子が落とした定期券を、私より俊敏そうな隣の友達より先に拾ったり、都会の駅のラッシュ時間、男性が落とした会社のIDパスらしきものを周りの人に手を踏まれそうになりながら拾ったり。どうしてでしょうね。ひとつ理由に心当たりがあるとすれば、学生時代バレーボール部だったので、ボールに限らず何かを落とすことは『悪』と植え付けられているのかもしれません。私はリベロでしたから、どんなボールも取れないといけなかったんですね。だから私の無意識下で『落とすこと』=トラウマになってしまっているのかも。変な習性ではありますが、『正しいことをしている』という実感はあります。落とし主に感謝もされるし、決して見返りを求めているわけではないけれど、気分がいいですよね。大学生のある時、私がイヤホンを落としたことがあったんです。何か落としたような気がする、と振り返ってみても特に気になるところはなく、歩き出そうとしたら、拾ってくれた上にわざわざ追いかけてきてくれた人がいたんです。定期券や会社のIDなんかより、なくしても問題なさそうなそんな小さなものまで拾ってもらえたのは、日頃の私の行いが良かったからかもしれません。
正しき習わしといえば、私は席を譲ることも多いです。電車で前に立った子が「座りたい」なんて言ったら迷わず立ちますね。ある時、私の目の前にご年配の女性と、赤ちゃんを抱えたお母さんが立ちました。正直に言うと、どちらに声をかけるか迷いました。でも、私の目に先に入ったのは赤ちゃんとお母さんのほうで、とりあえず咄嗟にそちらに声をかけたところ、「大丈夫です」と言われたんですね。とはいえ、私には譲るべき相手がもう一人いるので、そちらに視線を移したら、彼女が「じゃあ私が座ってもいいかしら?」と。嫌な感じは全くなかったですし、元からそのつもりだったので快く譲りました。そうしたら、その座った女性が「鞄持つわ」なんて言ってくれて。席を譲ったそのたった一瞬で、知らない人とも仲良くなれるなんて、私もこの世界も捨てたもんじゃないなと思いました。
とはいえ、私の中で正しい行いだからと言って、席を譲らないことが『いけないこと』というのは些か飛躍しているような気もします。私の行動はある意味、義務感のようなものです。私の中の私が、『やりなさい、早く』と命令してくるんですね。やらなかったらやらなかったで、あとでモヤモヤするのは目に見えています。気持ちよく一日を終わるためにも、従わざるを得ないといいますか。日頃から言葉を扱うためか、行動のみならず言動にも一家言あります。例を挙げると、皆さんもよく遭遇すると思うのですが、たとえば本屋さんに行ったとしますよね? 本屋さんでは基本、カバーをかけるかどうかと袋が欲しいかどうかを聞かれます。私はブックカバーを持っていますし、本一冊と袋のバランスがどうにも慣れなくて、どちらもいらないタイプです。『いらない』と言うと言葉が強いし、『大丈夫です』や『結構です』はおそらく『いらない』という意味で使う方が大多数でしょうが、どちらとも取れますよね。ですから、店員さんを迷わせないためにも、「そのままでいいです」と私は言うようにしています。そうしたら、ほとんどの人が「袋もカバーもいらないんだな」とちゃんとわかってくれますし、言い回しもシンプルで綺麗な気がするんです。コンビニやスーパーだったら、「袋いりますか?」と聞かれたら「持ってます」と答えればいい。誰だって否定されるより肯定されたほうが気持ちいいに決まっていますから。
私はあくまで自分の中の基準ではありますが、この『正しき習わし』はこれからも失いたくないと思っています。いつか巡り巡って自分に返ってくるとはあまり信じていません。だとしたらもう返ってきていてもいい頃なので。信じていても信じていなくても、これらは私の習慣・習性であって、『してしまうこと』と言ったほうがニュアンスとしては正しいかもしれません。
さて、そろそろお別れの時間です。皆さんはいかがでしょう? 癖は『直せ』と言われることが多いですが、『直さなくていい』『そのままで在りたい』と思う癖や習慣はありますか? 持っている人はぜひ、これからも続けてください。持っていなくても、やり続けたら慣れることもありますよね。『慣れる』とは『自然になる』ということですから、意識しなくてもいつかできるようになるかもしれません。一日一善なんて言葉がありますが、必ずしも世間一般的な善じゃなくてもあなたがあなたでいられる『正しさ』が見つかるといいですね。また来週お会いしましょう。深見小夜子でした。
さて、そんな私にはある習わしがありまして。『習わし』なんていうと大げさですが、私の習慣というか習性というか、とにもかくにも思わずこうしてしまうという行動があるんです。それは『落とし物に吸い寄せられること』。なんじゃそりゃと思われるかもしれませんが、なぜか落とし物に対しては私の体が敏感に反応するんですね。大学生の時、前を歩いていた女の子が落とした定期券を、私より俊敏そうな隣の友達より先に拾ったり、都会の駅のラッシュ時間、男性が落とした会社のIDパスらしきものを周りの人に手を踏まれそうになりながら拾ったり。どうしてでしょうね。ひとつ理由に心当たりがあるとすれば、学生時代バレーボール部だったので、ボールに限らず何かを落とすことは『悪』と植え付けられているのかもしれません。私はリベロでしたから、どんなボールも取れないといけなかったんですね。だから私の無意識下で『落とすこと』=トラウマになってしまっているのかも。変な習性ではありますが、『正しいことをしている』という実感はあります。落とし主に感謝もされるし、決して見返りを求めているわけではないけれど、気分がいいですよね。大学生のある時、私がイヤホンを落としたことがあったんです。何か落としたような気がする、と振り返ってみても特に気になるところはなく、歩き出そうとしたら、拾ってくれた上にわざわざ追いかけてきてくれた人がいたんです。定期券や会社のIDなんかより、なくしても問題なさそうなそんな小さなものまで拾ってもらえたのは、日頃の私の行いが良かったからかもしれません。
正しき習わしといえば、私は席を譲ることも多いです。電車で前に立った子が「座りたい」なんて言ったら迷わず立ちますね。ある時、私の目の前にご年配の女性と、赤ちゃんを抱えたお母さんが立ちました。正直に言うと、どちらに声をかけるか迷いました。でも、私の目に先に入ったのは赤ちゃんとお母さんのほうで、とりあえず咄嗟にそちらに声をかけたところ、「大丈夫です」と言われたんですね。とはいえ、私には譲るべき相手がもう一人いるので、そちらに視線を移したら、彼女が「じゃあ私が座ってもいいかしら?」と。嫌な感じは全くなかったですし、元からそのつもりだったので快く譲りました。そうしたら、その座った女性が「鞄持つわ」なんて言ってくれて。席を譲ったそのたった一瞬で、知らない人とも仲良くなれるなんて、私もこの世界も捨てたもんじゃないなと思いました。
とはいえ、私の中で正しい行いだからと言って、席を譲らないことが『いけないこと』というのは些か飛躍しているような気もします。私の行動はある意味、義務感のようなものです。私の中の私が、『やりなさい、早く』と命令してくるんですね。やらなかったらやらなかったで、あとでモヤモヤするのは目に見えています。気持ちよく一日を終わるためにも、従わざるを得ないといいますか。日頃から言葉を扱うためか、行動のみならず言動にも一家言あります。例を挙げると、皆さんもよく遭遇すると思うのですが、たとえば本屋さんに行ったとしますよね? 本屋さんでは基本、カバーをかけるかどうかと袋が欲しいかどうかを聞かれます。私はブックカバーを持っていますし、本一冊と袋のバランスがどうにも慣れなくて、どちらもいらないタイプです。『いらない』と言うと言葉が強いし、『大丈夫です』や『結構です』はおそらく『いらない』という意味で使う方が大多数でしょうが、どちらとも取れますよね。ですから、店員さんを迷わせないためにも、「そのままでいいです」と私は言うようにしています。そうしたら、ほとんどの人が「袋もカバーもいらないんだな」とちゃんとわかってくれますし、言い回しもシンプルで綺麗な気がするんです。コンビニやスーパーだったら、「袋いりますか?」と聞かれたら「持ってます」と答えればいい。誰だって否定されるより肯定されたほうが気持ちいいに決まっていますから。
私はあくまで自分の中の基準ではありますが、この『正しき習わし』はこれからも失いたくないと思っています。いつか巡り巡って自分に返ってくるとはあまり信じていません。だとしたらもう返ってきていてもいい頃なので。信じていても信じていなくても、これらは私の習慣・習性であって、『してしまうこと』と言ったほうがニュアンスとしては正しいかもしれません。
さて、そろそろお別れの時間です。皆さんはいかがでしょう? 癖は『直せ』と言われることが多いですが、『直さなくていい』『そのままで在りたい』と思う癖や習慣はありますか? 持っている人はぜひ、これからも続けてください。持っていなくても、やり続けたら慣れることもありますよね。『慣れる』とは『自然になる』ということですから、意識しなくてもいつかできるようになるかもしれません。一日一善なんて言葉がありますが、必ずしも世間一般的な善じゃなくてもあなたがあなたでいられる『正しさ』が見つかるといいですね。また来週お会いしましょう。深見小夜子でした。
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