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地図を回す

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 さて、今日は〇月〇日。皆さん、いかがお過ごしでしょうか。私はつい先日、新宿を歩いていたら、観光客らしき人に道を聞かれました。先日に限らず、私はよく道を聞かれるのですが。なぜなんでしょうね。別に嫌ということではないけれど、私、実は方向音痴でして。それでなくても、明らかに私自身、観光客とわかる場面で聞かれることもあるのです。高校生の頃、大学のオープンキャンパスに友達と行った際、友達のお母さんも保護者として同伴してくれて、3・4人くらいのグループで話をしていたことがあったんです。そういえば、あれも新宿か池袋の駅だった気がします。当然、私に土地勘はなく、他に人も多い場所です。それなのに、海外の観光客の方と思われるふたり連れが私に話しかけてきたのです。友達のお母さんという大人もいたのに、談笑中だったはずなのに、「なぜ、私たち? なぜ、私?」と感じた記憶があります。
 まぁ土地勘があったとて、さっきも言ったように方向音痴なので、答えられないことも多いのですが。たとえば「駅はどこ?」と聞かれたとして、場所もわかるし、行き方もわかる。でも、いかんせん方角がわからないのです。東に進んで、とか、西に向かってとか。ですから、説明のしようがないんですね。道順を教えることはできますが、方角がわかる人にとっては右左で説明されるほうがわかりづらいものなのでしょうか。
 私はいつも不思議なのですが、地図があるわけでもないのに、初めて来た場所で、皆さんどうして北がわかるのでしょう? 私は自分の家を基準とするか、もしくは日本地図くらい大きなものでないと北はこっちと判断できません。自分が歩いている道上では全くと言っていいほど、方角を認識できないのです。地図を見ても九分九厘、道を間違えます。地図を見る時、私は自分が向いている方向に合うように、地図を回してしまうんですね。「なんで回すの?」なんて友達に言われたことがあります。だって、この後自分が右に行けばいいか左に行けばいいか、わからないじゃないですか。そう言うと、また「なんで? わかるよ」と返されるんですが・・・。「わからないよ」と毎回叫びたくなります。
 ともあれ、方向音痴の私は人生も方向音痴でして。どこに向かえばいいのかわからなくなることが、しょっちゅうあります。それこそ、人生設計図を地図のように回してしまうから迷子になってしまうのかもしれませんね。その時、私が向いている方向というのはあくまで“その時だけ“だというのに。真っ直ぐ立っていれば、いずれ周りが見えて進むべき方向がわかるはずなのに。せっかちな性格だということも作用しているのでしょうか。待っていられないんですね、それまで。はやく自分の立ち位置を確認しようと思って設計図を回して、焦って右に行ったら、実は後戻りしていた。なんてこともあるのでしょう。なんだかたくさん歩いているのに全く先が見えないわ、ということもよくあります。
 皆さんはいかがでしょう。『三歩進んで二歩下がる』ということわざもある通り、人生で迷ったり、進展がなかったりすることは、きっと誰にでもあります。その度に苛々したり哀しくなったりするのも、人間の性ですね。
 でも、よくよく振り返ってみると、たとえ一人きりでも本当に目的地に辿り着けなかったことは一度もありません。とてつもない時間がかかって、ものすごく遠回りでも、いつかは目的地にちゃんと到達するのです。焦ることはありません。と言っても、このまま永遠に彷徨ったらどうしようなんて、ついつい思ってしまうものですが。
 彷徨うといえば、物語もそうですね。私は一つの物語を書く時、なんとなくこういう終着点にしたいとか、こういう描写をしたい、とか何かしらの目標を決めて、そこめがけて言葉を紡いでいくのですが、書いているうちに全く違う景色になることもしばしばあります。
 よくドラマで、最初は一話完結だった話が、どんどん物語の主軸、いわば主人公の心の奥に深く入り込んでいくという展開がありますよね。序盤は主人公自身というよりも、主人公が体験した出来事そのものに視点が向きがちです。警察ものだとわかりやすいでしょうか。何か事件が起きて、警察官の主人公が一人であるいは仲間と共に解決していく。それが数話続いたかと思うと、5話目あたりから急に主人公自身の過去や闇に着目して、今までの話を無視して進んでいくというような。もちろん、序盤から一貫して主人公の心にもライトが当たっていれば、それほど急な展開でもないと思うのですが。一話完結の序盤は面白かったのに、クライマックスに行くにつれて、「この話ってどこに向かうんだろう?」みたいに思うことがたまにあるのです。私が短編好き、もしくは日常が好きというのも関係しているのかもしれません。主人公や登場人物たち全体において、クライマックスというのは基本的に、イレギュラーであり非日常です。だから盛り上がるといえばそうなのですが、それには日常というものが必要不可欠ですよね。日常があるから非日常があるわけで。私がピンと来ないのは、その日常と非日常が乖離しているような気がするから、なんだか話の展開についていけないわとなっているのでしょう。
 とはいえ、それは私の『主観』であって、最初から最後まで面白かったと言う人ももちろんいるでしょうし、そもそも警察ものが好きじゃないという方もいることでしょう。物語というのは難しいものです。このラジオでの私の話にも一貫性がなくて、つまらないと思っている人も多いかもしれませんね。
 言い訳をするつもりはありませんが、私にとってはこれが日常で、常に感じて考えていることなのです。だから、誰に何を言われようと、私の中では統一している話なんですね。それでも一貫していないと取られるのは、要は私の表現力や伝達力が乏しいということなのでしょう。奇しくも、地図を読めない私の道案内がわかりづらいのと同じように。
 さて、そろそろお別れの時間です。方向音痴でもそうじゃなくても、人生いろいろ、他人もいろいろです。自分の信じた道を迷わず選べて、真っ直ぐ突き進めれば最高ですね。また来週お会いしましょう。深見小夜子でした。



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