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マイノリティあるある

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 さて、今日は〇月〇日。皆さん、いかがお過ごしでしょうか。突然ですが、皆さんは自分は変わっているなぁと思うことはありますか? 私はね、あんまり思ったことがないんです。大学生くらいまでは、自分はごくごく普通の『常識人』と信じていました。高校生の頃にね、友達になった子に私のことが「最初は怖かった」と言われたんです。出席番号順で一番後ろの席でしたし、通っていた中学校も離れていましたから、ちょっとした先入観みたいなものがあったのかもしれません。その時の私の答えは、「私で怖かったら、たぶん私と同じ中学の人はみんな怖いよ」と。まさに同じ中学出身の友達が同意してくれましたから、それほど誇張もしていないでしょう。そのくらい私は『普通』なんです。
 でも、大人になっていろんな年代の人と関わるようになると、「変わってるね」とか「そういうところ大人だよね」とか言われることのほうが多い気がします。その度に、案外、人と違う考え方や価値観を持っているものなんだなと思いますね。でも、私の中ではそれが『普通』で『当たり前』なので、変わっていると言われても「そうなの?」とか「どこが?」とか、そういう感覚で。いつもキョトンとしているんだと思います。
 皆さんも何か人と違うなぁとか、これって普通じゃないんだとか、自分のことなのに初めて気づいたなんて経験があるでしょう。身近なところで言うと方言もそうかもしれません。小さい頃から聞き慣れているから、大人になっても標準語のように使っていたら、「何それ?」なんて言われたり。
 こういうのをマイノリティと言うんでしょうか。間違ってるわけでも、逸脱しているわけでもない。だけど、他の人と少し違う。世の中、好きなものや性格に関しては寛容なのに、ひとたび意見や容姿になると厳しくなるのはどうしてなのでしょう。就職活動がいい例でしょうか。みんな決められた同じ格好をして、同じことを言って、そこから少しでもはみ出ると不採用なんて。私はなんて無意味なんだろうと思っていました。もちろん周囲に溶け込むことも必要かもしれません。一般的な、常識的な範囲から外れすぎないことも重要ではあるでしょう。けれど、だからと言ってみんながみんな全く同じ格好をしてテンプレートな志望動機を言って、それで個性を出せ? 私には無理難題だと思った記憶があります。志望動機って自分の言葉で伝えないとあまり意味がないと思うのですが、就職活動ではたいがいこう書いたほうが通るという定型文みたいなものがありますよね。それって結局、ただの暗記ゲーじゃないかと思うのは私だけなのでしょうか。
 それはともかく、学生の頃はそうやっていかに足並みを揃えられるかみたいな試練をたくさん課すくせに、個性を伸ばそうなんてことも言いますよね。けれど、大人になればなるほどより無個性を求められる。あれ、個性ってなんだっけ? 私、そんなもの持ってた時あったっけ? なんて方ももしかしたらいらっしゃるかもしれませんね。
 安心してください、きっと持ってますよ。今でもちゃんと。個性というのはいわば、マイノリティだと思うんです。これが好き、あれが好き、誰が何と言おうと私は好き。私はこうで在りたい、誰も認めてくれなくても、私は私! という部分を、皆さんきっと持っているはずです。
 私の周りで言うと、大体そういう人ばっかりなんですけどね。どんな作品も突き詰めれば作者の壮大な『意見』ですから。本当にざっくり大きく分ければ、マジョリティとマイノリティにはなるのでしょう。いかに多くの大衆を惹きつけられるか、またはいかにマイノリティの心を揺さぶれるかが、人気を呼ぶ鍵なのかもしれません。けれど、マジョリティの中にも誰にも思いつかない、唯一無二の部分が必ずあるわけです。だから、みんな面白いと思う。
 例によって私の持論ですが、マイノリティとは確かに、その分野では少数派なのでしょう。でも、あらゆる分野のマイノリティ同士を集めれば、きっと最終的にはマジョリティより多くなるはずですよね。マイノリティにはマイノリティにしかわからない共通点のようなものがあって、分野が違えど共感できる部分がある。私はそう思っています。マジョリティに属する皆さんだって、必ず何かマイノリティなところを一つくらいは持っているでしょう。そうやって人間はうまく共存していると思うのです。ですから、その人自身のマイノリティ部分、つまり『好み』をどんぴしゃで刺激する以上に、マイノリティに属する人たちみんなが共感できる、いわゆるマイノリティあるあるをうまく引き出せるコンテンツが、大優勝だと思うのです。今時に言うとね。その引き出し方がいかにさりげなく、いかに悟らせないかで運命が決まる。最近だと公式の設定がぶっ飛んでいればぶっ飛んでいるほど、そのマイノリティあるあるをうまく掴んでいるような気がします。
 それでもマジョリティ、大人気作には届かないのかもしれませんが、マイノリティだからと卑下することも悲観的になることもありません。いいじゃないですか、世の中にはこんなこと考える人もいるんだぁ、それくらいの感覚で。私には思いつかないからこそ、私のマイノリティに突き刺さってくるのです。人気になれば嬉しいけれど、マイノリティがある意味消えてしまうのも淋しいものです。なんてわがままなんでしょうね。でも、皆さんもあるでしょう? 人気になればなるほど、遠くに行ってしまう気がするなんて。逆に、マイノリティに極端に偏りすぎても同じです。ちょっとだけ哀愁を感じてしまいますよね。ほら。ね、気にすることはありません。みんなマジョリティとマイノリティをうまく使い分けて暮らしているんです。あなただけが変わっているのではないし、変わっていないのでもありません。
 そろそろお別れの時間です。これからも好きなものを好きでいたいという気持ち、大切にしてくださいね。人気じゃなくても、これって私だけ?と思っても。あなたはあなたです。胸を張って好きなものは好きと言いましょう。では、また来週。深見小夜子でした。



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