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ゲーム脳

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 さて、今日は〇月〇日。皆さん、いかがお過ごしでしょうか。この時期、学生さんは春休みですよね。今時の子たちは何をして過ごすのでしょうか。私は友達とカラオケに行ったり、家で本を読んだりしていたと思いますが。当時はそれほどゲームもしませんでしたし、そもそもスマートフォンがありませんでしたからね、そういえば。動画を観ようにも、なかなか今のように長時間楽しめる環境ではありませんでした。現代は暇つぶしもよりどりみどりですね。動画なんて一日中観ていられるし、時間を忘れるほど夢中になれるゲームもたくさん。映画もドラマもアニメも見放題、とにもかくにも推し活に勤しむなんて方もいらっしゃることでしょう。
 私ぐらいの年代だと、スマートフォンの普及やおうち時間の長さに伴って、大人になってから新たな趣味を見つけたという方も多いかもしれません。かくいう私も、本が好きでゲームは流行り物だけという幼少時代を過ごしてきたにも関わらず、大人になってアプリゲームをはじめ、さらにはテレビゲームにも手を出し、果てはゲーム内課金までする始末。でも後悔はしていませんよ。だって好きなことですから。そりゃ自分の身の丈に合わない課金は大変ですけど、管理できる範囲内なら構わないと思うのです。
 それはさておき、テレビゲームを始めるきっかけになったのは、脚本が素晴らしいゲームがあると教えていただいたからなんですね。私は昔から、分岐するストーリーが大好きだったんです。小説にもありますよね。たとえば『別れ道に到達、右に進むなら25ページ、左に進むなら35ページ』みたいな。探そうと思って探せるジャンルでもないのですが、絶対に読み返したくなる、いわば周回したくなる本です。プレイヤーによって進む道は変わるはずなのに、最終的にはどこを通っても齟齬なく終わる。そんなストーリー展開のためには、途方もない辻褄合わせが必要なんです。辻褄合わせというと無理やり捻じ曲げて合わせようとしている感じがしますが、その捻じ曲げ具合が真っ直ぐであればあるほど綺麗なストーリーになるんですよね。
 ゲームというのは、自らキャラクターを操るからかもしれませんが、映画やドラマ、書物以上に物語に入り込みやすく、プレイ中は自然と高揚しますよね。「あぁ、こっちの選択肢を選びたいけれど、そっちも捨て難いわ・・・周回したら必ず別のほうを選ぶんだから!」なんて考える時間が一番楽しいですね。
 最近ですとオンラインの対戦ゲームも多いですし、アクションやRPGも昔に比べて、はるかに3次元に近づいてきたような気がします。動きの滑らかさや表情はもちろん、登場する街やフィールドも驚くほど鮮明です。先日、方向音痴の話をしたと思いますが、マップを駆使するゲームも多いですよね。私が小学生時代から続くシリーズもののゲームも、以前に比べてマップの精度が格段に上がりました。それゆえ、私はゲームの中でも迷子になってしまうのですが。道に迷い、選択肢に迷い、決断に迷う。最後の最後、究極の選択を前に、私は結局、悲劇を選んでしまうことのほうが多い気がします。
 映画やドラマもそうですが、近年はどんでん返しや一筋縄ではいかないストーリーが増えましたね。懐かしくなって昔のドラマを見返すと、「あれ、この人裏切ったりしないの? この人、実は生きてるなんてことないの?」みたいな、拍子抜けする作品も多くあります。脚本や演出がどうこうと言うより、時代の流れなのでしょう。ネットが普及したことで、私たちが生活するフィールドはゲームのごとく広がりました。ネットやスマホを取り入れることで、物語の幅も無限大に広がったのです。ですから、ネットの中と同じように本当の顔が見えない分、「善人が実は悪人で、悪人が実は善人で」というような一見すると気づかないキャラクター設定が、今では主流のような気がします。わかりやすく善と悪に分けられる世の中でもないから、ことさら話題を呼びやすいのでしょう。
 皆さんはお気に入りのゲームはありますか? 身近なところで言うと、どこでもできるアプリゲームでしょうか。私はゲーム慣れしていないもので、最初の頃はかなり苦労しました。システムがあまりにもわからなくて、断念したゲームも数知れずあります。その中でも比較的わかりやすいコンテンツから始め、長く続けることで、ようやく他のコンテンツもシステムが理解できるようになりました。
 テレビゲームも同じですね。ストーリー重視の作品でも、アクションが付随していることがありますよね。私はとにかくアクションが苦手だったのですが、オンラインゲームで培った視点移動を応用すると、案外すんなりとできるようになりました。そう、重要なのは体の動きやスピードではなく、視点だったんですね。相手がNPCでも他のプレイヤーでも、いかにうまく姿を捉えられるかが上達のコツだったんです。ゲーム上手な人は、マップを読む力もそうですが、この視点移動や、システム理解が、おそらく考えなくても感覚でできるんですね。初見でもなんとなく操作できてしまうのは、一つの作品に限らず、ゲームという大きな枠組みでの世界をずっと長く見続けてきたからだと思います。
 きっと人生も同じなのでしょう。『ゲームなんて』と言われる親御さんも多いと思います。もちろん目も悪くなるし、健康にもあんまりよくないですし、心配ですよね。そう、心配してくれているんですよ。ですから、一概にゲーム禁止を否定するつもりはありません。何も手につかないほど夢中になるのは、どの分野でもあまり良いことではないでしょう。現代には『社畜』や『仕事中毒』なんて言葉もあります。たとえそれが仕事であっても、適度な息抜きや発散は必要です。現代には大人が楽しめるコンテンツも溢れています。子どもと一緒に観ていたら、あるいはプレイしていたら、親御さんのほうが夢中になってしまったなんてこともあるはず。
 私はね、ゲームも人生と似ているなと思うんですよ。登場人物たちの人生を追体験できるから、という理由だけではありません。人生何事も“慣れ“ですし、世界を見通す視点の重要さもそうです。ゲームをすることでしか得られない知識や、そうでなくても「こんな考え方があるんだ」という発見もあります。
 さて、そろそろお別れの時間ですね。私はゲーム上手な人のことを密かに『ゲーム脳』と呼んでいるのですが、『人生脳』なんて呼ばれる人がいたら、すらすら人生を進んでいけるんだろうなぁなんて栓のないことを考えてみたりします。いわば『人生』のプロ。でもね、それってあり得ないことだとも思うんですよ。だって、誰もが人生一度きりなのですから。慣れもないし、理解すべきシステムもありません。あれだけ必要不可欠と言っていた視点操作でさえも、探り探りで進んでいるのはきっとみんな同じです。それなら『いかに楽しむか』がゲームと人生に共通している真理だと、私は信じています。また来週お会いしましょう。深見小夜子でした。



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