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せいりのはなし

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 さて、今日は〇月〇日。皆さん、いかがお過ごしでしょうか。全国的に雨模様で、ちょっと肌寒いなぁと感じた方も多かったかもしれませんね。春雨と言えば食べ物のほうが思わず浮かびますが、こうして年度末の雨を見ていると、この年にあった嫌なことを流し去ってくれそうで、なんだかありがたくも思えますよね。人というのはなぜか、この年にあったいいことも流れていくのでは? なんてことは都合よく考えないようにしてしまうものですが、これって『ため息』とも似てると思いませんか?
 『ため息を吐くと幸せが逃げる』なんて言い方をよくしますが、どうして『不幸も逃げてくれる』とは言わないんでしょう。心を落ち着かせるために吐くのがため息なのに、と。まぁ、本人はともかく周りの聞いている人のほうが暗い気持ちになるから、という理由なのかもしれません。『ため息』が聞こえると、あぁこの人はいま苦しいんだ、幸せじゃないんだ、と思ってしまいますもんね。
 とはいえ、皆さんも経験があるかと思います。嬉しいことがあった時も『ため息』って吐きますよね? たとえば、推しの素敵な姿を見た時とか。『はあぁ、素敵~』なんていう方も多いのでは?
 結局のところ、いいことも悪いことも人それぞれですし、人は信じたいものしか見ないので、あなたはあなた、私は私、といつも言い聞かせています。人と違ってもいいじゃないですか。私はこう思う、私は疑問に思う。みんなが同じ意見だったら、世の中きっと退屈ですから。あくまでも『自分』に都合のいい展開で私はいいと思っています。だってそれが、『私の人生』であり、『あなたの人生』なんですから。
 ところで、『ため息』といえば体の調子が悪いなぁなんて時にも思わず出てしまいますが、女性の方は特に思い当たることも多いのではないでしょうか。というのも、実はこのラジオ宛に相談のメールが届いていたんです。『匿名希望』さんからです。本来の意味の匿名希望なのか、それを逆手に取った匿名希望というお名前なのかはまぁ触れないでおきましょう。男性の方ですね。
 『深見小夜子さん、こんにちは。いつも興味深く拝聴しています。今回はご相談したいことがあってメールしました。無作法などありましたらすみません。僕には付き合って半年になる恋人がいます。普段は明るく、サバサバハキハキとした女の子なのですが、たまに怒りっぽくなったり、急に泣き出したりすることがあります。喧嘩する時もあるのですが、いつもなら「そんなに怒らないでよ」とか「なんでそんなに怒ってるの?」って言うと「ごめんごめん」なんておさまったりするんです。でも、この間、苛々してる彼女に「なんでそんな苛々してるの?」と言ったら今度は泣き出してしまいました。そんなにきつく言った覚えもないし、慰めようとすると「一人にして」と突っぱねられました。僕はどうしたら良かったんでしょうか。教えてください』
 匿名希望さん、メールありがとうございます。
 女性の方ならお分かりになるでしょう。ということで、今日はそのお話をしたいと思います。そう、『生理』の話ですね。どれくらいいらっしゃるかわかりませんが、男性の方も聞いておいて損はないと思います。今さらお母さんやお姉ちゃんには聞けない、かと言って恋人にはもっと聞けないことだと思います。とはいえ、私ももちろん専門家ではないので、主に『生理中の心の話』をしましょう。
 さて、『生理』と言うと女性は恥ずかしいとか辛いとか、痛いとか、そういうことを思い出すのではないでしょうか。妊娠出産もそうですが、生理というのも人それぞれで生理痛がある人ない人、あっても軽い人に重い人、もっと言うとPMSと呼ばれる月経前症候群というものがある人もいます。私自身は生理痛もありますし、PMSも重いほうかと思います。
 まず、生理痛。頭痛腹痛はもちろん、お腹の調子が悪くて下痢になることもありますし、ひどい時には貧血で、座っていても立ちくらみのように世界がぐらぐらと揺れることがあります。聞いていて気持ち良くはない話かもしれませんが、女性は多かれ少なかれ、こんな現実と毎月闘っているのです。
 PMSと呼ばれるものは、それこそ症状は人それぞれですが、私は過度な眠気と食欲、あとは漠然とした不安感ですね。ある時、特に辛いことや悲しいことがあるわけではないのに、どうしようもなく不安で泣きたくて、でもどうしてなのかわからないから誰にも言えない、そんなことがありました。大げさに聞こえるかもしれませんが、『そこはかとない悲しみに囚われる』、そんな感覚です。実はそれもPMSの症状だと知った時には納得したと同時に、体だけじゃなく心まで操られてしまうんだなぁなんて怖くもなりました。こんな調子で、本当にもっともっと苦しくて辛い時、一体私の心はどうなってしまうんだろうなんて本気で考えたことも。
 PMSはその名の通り、生理前に来るので「あぁこれから生理が来るなぁ」なんて憂鬱になったりもしますね。PMSも生理痛も薬で症状を抑えられるのですが、それだって人それぞれです。あまりにも症状が重いようなら婦人科の検診が必要なこともあります。
 先ほどのメールにありましたが、『怒りっぽい』や、『急に泣き出す』などはおそらく生理の諸症状のひとつかと思います。一概にそれだけのせいとは言い切れませんが、定期的なサイクルで特に情緒不安定な時期があるとしたら、関係しているかもしれません。
 そんな時、女性がどうして欲しいか。それもたぶん人それぞれです。ただそっと隣にいて欲しい人もいれば、ひとりになりたい人もいるかもしれません。もしも聞けるような関係なら、生理でない、状態が落ち着いている時に話し合ってみてはいかがでしょう。きっと、多くの男性はなんとなく有耶無耶にしながら付き合っているのだと思いますが、直接聞いてみるのもひとつの手段です。少なくとも私は嬉しいですよ。私のことをちゃんと考えてくれようとしているんだな、と。
 何も「痛みを知れ」とか「生理だから多めにみてくれ」とかそういうことを言いたいのではないんです。ただ知っていて欲しいだけなんです。こういうこともあるんだよって。いつも通りでいいです。女性が身体の中で闘っているのをそっと見守ってください。時には辛く当たったり、泣いてしまったりすることもあるかもしれません。そんな時、もちろん優しくしてくれたら嬉しいです。でも、無理に合わせようとしなくて大丈夫。わからなくていいんです。わかろうとしてくれるだけで、気持ちはきっと届きますから。
 メールをくれた匿名希望さん。今回のご相談、あなたが恋人の女性のことを大切に想っている証拠だと思います。今度は直接、伝えてあげてください。そして可能なら聞いてみてください。どんな症状があるのか、どういう心の状態なのか。一緒に悩んで考えて、ふたりの向き合い方をぜひ見つけてください。女性は一生のほとんどを『生理』と付き合っていかなければなりません。男性にももちろん無関係なことではありませんからね。一番女性にとって傷つくのは、『無関心であること』だと思います。それはきっと男性だって同じはず。
 生理に限らず、妊娠出産、家事、育児。女性だけでは乗り越えられないことがたくさんあります。そういう時、せめて『傍観者』にはならないでください。『補助者』でもありません。ぜひ『当事者』『協力者』として『一緒に』同じ立ち位置で乗り越えていってください。そのためにも、日々いろんなことを分かち合いましょう。痛みや苦しみだけじゃなく、喜びやちょっとした幸せも全部。男性にしかわからないこと、女性だけが知っていること、恥ずかしがらずに伝え合えば、いつかお互いに良かったと思えるはず。
 無理にとは言いません。でも、決して忘れないでください。あなたのそばに無理している人がいるかもしれないことを。今も闘っている人がいるかもしれないことを。
 さて、そろそろお別れの時間です。人生とは嫌なこと苦しいことともたくさん出会います。でも、それだってきっとあなただけじゃありませんよ。みんな多かれ少なかれ闇を抱えて生きている。闇の深さは人それぞれ違っても、きっと色は同じです。大丈夫、あなただけじゃないですよ。それではまた来週お会いしましょう。深見小夜子でした。




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