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生きてればどうにかなる
しおりを挟むさて、今日は〇月〇日。皆さん、いかがお過ごしでしょうか。先日、テレビで久しぶりに動物特集なるものを観ました。やっぱりいいですよね、可愛いし、自由だし、時に羨ましくさえあります。だって、何もしなくたって、いっぱい撫でて、いっぱい愛でてもらえるんですよ? 私たちがどれだけ頑張って生きても、褒めてももらえないことだってあるのに、です。あぁ私もワンちゃんや猫ちゃんになりたいなぁなんて、思ってしまうのも無理はありませんよね? 以前それを何気なく口にしたら、聞いていた先輩から「でも猫は猫で人間に付き合うの嫌だなぁとか思ってるんだよ」とブーメランが返ってきました。確かにそうです。撫でられる、愛でられるがワンちゃんや猫ちゃんにとっては、そうとは思えないかもしれませんものね。人間っていうのはつくづく自分勝手です。仕草や鳴き声などで、ある程度ワンちゃん猫ちゃんの感情はわかるそうですが、本当に嬉しいかどうかは実際に聞いてみないとわかりません。でも、聞けないからこそ私たち人間と動物たちは一緒に暮らせるのだとも思うのです。ともすれば動物たちにとっては、『ご主人様』に従わざるを得ず、負担を強いているのかもしれません。けれど、撫でられて気持ちよさそうにしていたり、一緒に遊んでくれたりすると、人間というのは非常に単純で、もっともっと可愛がってあげたくなるんですよね。赤ちゃんや動物が、いつの世も癒しとなってくれるのは、きっと難しいことを考えなくていいからです。どちらも「お腹がすいた」とか「さみしい」とかそんなシンプルな感情のみで生きていますから、私たちも同じく複雑な思考回路を投げ出して、共感でもって寄り添うことができるんでしょう。たとえ記憶はなくとも、幼い頃に誰もが通った道ですから、無意識にその時の感情を呼び起こしているというのもあるかもしれません。
「生まれてきてくれてありがとう」なんて何年、いや、もう何十年と聞いていません。赤ちゃんの時は、寝て泣いて食べていれば、ただそれだけで喜んでもらえる。生きていることを、自分の存在を、必ず誰かが見ていてくれる。そんなふうに生まれただけで涙を流してもらえた私たちは、大人になるにつれて『生きる』意味を見失っていくのです。本当は生きているだけで褒められていいはずなのに、何かを為さないと生きていることすら認めてもらえなくなっていく。それが大人になることだと言えば、そうなのかもしれません。けれど、大人だって毎日どうしていいかわからなくて、時には涙を堪えながら生きているのです。誰にも褒めてもらえない、誰にも気づいてもらえない。そうやってたったひとりで、誰かや何かと闘っている人は、思いの外多いことでしょう。
よく「生きていればどうにかなる」という言葉を耳にします。そりゃどうにかはなると思いますよ、生きているんですし。でもね、「生きているのが辛い」という人は、本当に「今この瞬間だけ」が辛いんでしょうか。それが解決したら、どうにか生きたいという気力がまた湧いてくるんでしょうか。私はね、そのどうにかなるまでの過程が何より辛いと思うんですよ。そもそも根本的に考え方が違って、どうにもならないから生きたくなくなるのではなく、どうにかなるのを待てないから生きることをやめたくなるんですよね。ああしたらいい、こうしたらいい、なんて他人は言いますが、もちろん実際そうなんでしょうが、そんな気力や体力が残っているのなら、たぶんもうやっているのです。それこそ、そういう成功体験のある人が「生きていればどうにかなる」などと言うのでしょう。それはきっとあなたが「生きててよかった」という希望を持てたからに他なりません。でも、あなたのように誰もがその先の未来を信じられるわけではないのです。未来は明るいとは限りません。「どうにかなる」は一聞するとポジティブな言葉に思えますが、決して絶望とは無縁だと約束してくれるわけではありませんよね。一筋の希望があるとしたら、その何千倍もの絶望が待ち受けているのです。だって、光の周りには闇があるでしょう? だから光が明るく見えるのですから。一度、その闇へ足を踏み入れたら最後、もう戻ってこられなくなります。そうなる前に、その絶望を知る前に「もういいや」という気持ちになってしまうのは、いかにも人間らしい思考なのではないでしょうか。わかりますよ、今皆さんが言いたいこと。「そこで諦めたら試合終了」ですよね。もちろん、私もそうだと思います。未来に待ち受けるのが希望だけとは限らないように、絶望だけとも限りません。けれど、私はどうしても絶望を先に捉えてしまうのです。昔、どん底だった私にこう言った人がいました。「今がどん底なら、もう上がるだけだよ」と。皆さんも多かれ少なかれ、聞いたことのある台詞でしょう。それからどれだけの月日が経ったでしょう。いつになったら、私の人生、上昇気流に乗れるんだろうなんてずっと考えていた時期があります。それこそ、つい最近まで。私の人生のグラフはずっと低空飛行を続けていました。あの子はあんなに高いところをずっとずっと飛んでいるというのに。いえ、より正確に言いましょう。私には高いところをずっと飛んでいるように見えるのに、どうして私だけこんなに幸せじゃないんだろうなんて、悲劇のヒロインぶってみたりするのです。だって、そうでもしないと耐えられないから。私だけが不幸なのだとでも思わなければ、私の絶望だらけの人生に納得がいかないからです。
上昇気流に乗りかける夢を何度見て、何度裏切られたことでしょう。それもこれも私の努力が足りないんだなんて卑下してみても、ただただ自分が惨めになるだけです。「生きていればどうにかなる」という言葉には、今よりほんの少しだけ幸せというニュアンスも含まれているように感じます。でも、そもそも幸せをこれっぽっちも感じていない私に、その言葉は通用しません。
世に蔓延る凶悪な事件の被害者以上に、加害者の気持ちがわかってしまうような気がするのは、私もそちらに近いということでしょうか。要注意人物とみなされてしまうでしょうか。私には他人を傷つける気持ちは全くわかりません。けれど、行き着くところまで行き着いてしまったんだなということはなんとなくわかってしまいます。要は、破壊のベクトルが内に向かうか、外に向かうかの違いなのでしょう。私は内に向かうタイプですが、加害者には加害者なりの絶望があって、それで心が埋まってしまったのだと、加害者への強い拒絶反応と共にどこか客観的に考える自分も存在するのです。勝手な想像といえばそれまでですが、人間としても、小説家としても、わからないよりは少しだけ、自分に深みが出るような気がするものです。
そろそろお別れの時間です。「生きていればどうにかなる」と思えるあなたは、とても幸せなのだと思います。どうかその幸せを手放さないでください。どうかそんな素敵な日々をこれからも忘れないでください。私もいつかそんなふうに考えられる人生にしていきたいと思っています。そして何より、私と同じように「生きていてもどうにもならない」と感じるあなたへ。わかりますよ、ちゃんと。あなたの気持ち、痛いほどに。投げ出したくなることも、逃げ出したくなることもあります。でも、やっぱり最終的には「生きていればどうにかなる」と私が私に言い聞かせているのです。矛盾しているかもしれませんが、人間みんなそんなものですよね。また来週お会いしましょう。深見小夜子でした。
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