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遅くなる前に帰りなさい

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 さて、今日は〇月〇日。皆さん、いかがお過ごしでしょうか。日も長くなって夕方でもまだ明るいので、時間の感覚が狂ってしまいますよね。大事な用事を後回しにしてしまったり、まだ開いていると思って行ったお店が閉店間際だったり、ということもあるのではないでしょうか。私は小心者なのでそういう時は潔く『私が悪かった』と諦めてしまうのですが、結局、困るのは自分なんですよね。
 それとは逆に、ちょっと寄り道してもいいかな~なんて仕事帰りにふらっとお茶しに行ったり、好きなものを見に行ったりする方もいらっしゃることでしょう。
 かくいう私も、そういう日はやっぱりなんとなく本屋さんに足を運んでしまいます。新刊が出たからとか、気になる作品があるからとか、そういう特定の目的がなくても、好きなものってのんびり眺めるだけでわくわくするものです。目に留まったものを片っ端から手に取って、ピンと来たら買ってしまう。おそらく人生で最も多くの作品に出会った大学生の頃、好きな作家さんが早筆なこともあって、「一生かかっても読み切れるだろうか?」なんて心配を本気でしたこともありました。
 大人になって仕事をして、自由な時間が取りづらくなるとだんだん好きなことも我慢せざるを得なくなりますが、たまにはいいかな、なんて羽目を外すのも悪くありませんよね。むしろ、学生の頃には経験できなかった大人ならではの楽しみ方もありますよね。推しのイベントや、外食に海外旅行、それさえも制限された期間が長かったですが、徐々に解禁されて何の気兼ねもなくまた元の生活に戻れる日が待ち遠しいですね。
 ところで皆さん、恋愛シミュレーションゲームなるものをプレイしたことがありますか? 男性女性問わず、今は育成ゲームもアプリでできる時代ですから一度は見たこと聞いたことがあるよという方も多いと思います。実はまだ情報解禁ほやほやなのですが、私もあるアプリゲームの、メインストーリーの脚本を担当させていただきました。どういった内容かって? それはですね、まだ秘密です。勿体ぶっているわけでもないのですが、明日、公式サイトで発表があるので、詳しくは来週お話しましょう。
 そのアプリゲームのシナリオを書くにあたって、同じ会社の別のゲームをプレイしたんですよね。それがさっきお聞きした恋愛シミュレーションゲームです。イケメンの男の子たちがボイス付きで私とお話してくれる、そんなゲームなのですが。これがまた面白いんですよねぇ。なんでこの選択肢を選んでバッドエンドにいっちゃうの~なんてね。まぁあんまり詳しく感想を言うとネタばらしになっちゃうので、自重しておきます。
 さて、恋愛シミュレーションゲームといえば、親密度が上がっていくにつれて、積極的なセリフや色っぽい声が聞けたりするものですが、その中で皆さんがドキッとする言葉は何ですか? 私はですね、「遅くならないうちに帰りな」です。大体このセリフは「今日はもう遅いから泊まっていく?」との二択になると思うのですが、私は断然前者です。もちろん2人の関係にもよると思いますよ。長いこと交際していたら後者のセリフのほうが自然なのかもしれません。でも、やっぱり「帰ったほうがいい」と言ってくれる人は「ちゃんと私のことを大事に考えてくれているんだな」と嬉しくなるのです。そしてその後に続くのは大概「送っていくから」ですよね。
 なんでしょうね。「泊まっていく?」だと本人にたとえその気がなくとも、下心が含まれているように聞こえてしまうんですよね。丸見えの下心もドキドキはしますよ、もちろん。「私のことそんなに好きなの?」みたいな。逆に「帰りな」っていうのはちょっと冷たい態度というか、「私に興味がないのかも」なんて思わせるじゃないですか。でも、家まで送ってくれる道中で名残惜しい素振りとか、私が家に入るまで見送ってくれるとか、そういう小さなところでキュンとさせてくるギャップがたまらないんですよねぇ。
 あぁ、柄にもなく興奮してしまいましたが、皆さんはいかがでしょう? 他にも理由があって、ある種私の職業病のようなものかもしれませんが、「泊まっていく?」だとどうしても2人だけの世界で話が終始して、舞台も部屋一択になってしまいますよね。でも、「送っていくから帰りな」だとあともう一悶着起こせるなって考えてしまうんです。たとえば、送っていく道中でチンピラに襲われるとか、ちょっとだけ寄り道して夜景を観ていくとか。結局遅くなっちゃうんだけど、彼の本音が聞けたし、最後まで送り届けてくれるその気遣いが、やっぱり素敵よねなんて一人で思い返すこともできる。何事も、話の盛り上がりが作れそうな展開を優先してしまいがちなんですね。
 それはともかく、よく「駅まで送る」なんて言いますが、女の子の自宅の最寄り駅から先は女の子が一人で帰るんですよね? それってなんだか、送る意味あるのかしら、なんて思ってしまうのは私だけでしょうか。それだったらいっそ泊めてくれればいいのに、と。さっきと言っていることが矛盾しているかもしれませんが、私のキュンとくるポイントは再三申し上げている通り「私を大事に思ってくれているか否か」です。「まだそんなに遅くないし、一人で帰れるよ」って私が言うと「だめ。心配だから家まで送る」なんてちょっと拗ねた顔で返されて。「でも、ここからじゃちょっと遠いから、〇〇くんがここまで帰る頃には真夜中になっちゃうよ」「じゃあ泊まっていって!」「えっ(キュン)」みたいなね。ありきたり? 恋愛なんて結局ありきたりが一番なんですよ。だってありきたりの展開って、実はあんまり現実にはないでしょ? 現実逃避できるから、恋愛シミュレーションに限らず、ゲームは楽しいんです。現実を思い出す要素が一つでもあると、人間、現実逃避には集中できないものです。ゲームの中ではちょっとくらいわがままだっていいじゃないですか。こんな選択肢あり得ないでしょなんて笑いながらそれを選ぶのもまたゲームにしかできません。
 私が脚本を担当したゲームは、恋愛シミュレーションがメインではありませんが、皆さんが選択肢を選べる場面も多くあります。どれが正解か、は関係ありません。あなたの回答が全て『正解』です。ストーリーを楽しむために世界観を壊さない選択肢を選ぶもよし、あえてあり得ない選択肢を選んでいろんな結末を回収するもよし。それがあなただけの「ゲームの楽しみ方」ですから。
 私自身もゲームをするのでよく思うのです。一回プレイしただけでは選ばない選択肢がもちろん無数にあって、その中にはきっとかすりもしていないルートだってあることでしょう。その存在にすら気づかないまま、ゲームを終えてしまう人が大多数のはず。私たちはいわば一つの視点しか捉えられていないのに、製作陣はこの何倍、何十倍もの視点を用意して、私たちを楽しませようとしてくれている。これぞエンターテイメントだなと感動するのです。
 そろそろお別れの時間です。ゲームをする人もしない人も、本を読む人も読まない人も、あなたの人生はゲームや本と違って、あなただけの視点で、一度しか体験できません。リセットは効かないし、巻き戻しもできない。だからこそ、正解や不正解ではなく、『私やあなたが』後悔しない道を選びたいものですよね。では、また来週お会いしましょう。深見小夜子でした。




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