SNSの使い方

花柳 都子

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新天の志

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 ──まるで自己啓発本だな。
 オンラインゲームのロード中にふと覗いたSNS。同級生や芸能人たちのキラキラな生活が所狭しと並ぶ。
 けれどそれらは今から始めるゲームの──紛うことなき虚構の世界よりよっぽど嘘くさく、退屈で、傲慢だ。
 自分はこんなにすごいところにいる、こんなに楽しいことをしてる、お前なんかと全然違う。
 そんなふうに言われている気分になる。
 特に、旅だの避暑だの遠征だのと、自分の手の届かないこと、足を運べない場所を自慢されると、無性に腹が立つ。
 ゲームのロードが終わった。
 SNSの画面を閉じる。
 ゲームの世界はいい。現実と違って、『存在しない世界』だとわかりきっている。
 どうせ手が届かないなら、いっそのこと存在そのものさえないほうが、諦めもつく。
 SNSのどこかにありそうな、ありふれた風景なんかじゃない。限られた、選ばれた人間しか見られない特別な光景でもない。
 ゲームを始めれば誰でも簡単に入り込める。けれど、現実には絶対に存在しない。
 リアルやSNSの別を問わず、人間関係自体が煩わしい自分にとって、そこはまさに楽園エデンという他ない。
 自分の人生において、二次元──それもアニメやバーチャルなど人間を感じさせるものより、ゲームなどの『中の人』を意識せずに済むコンテンツにのめり込んでいくのは必至だった。
 ファンタジーの世界も、レースの世界も、現実ではお目にかかれない最高の景色と爽快感が得られる。何より、ゲームのこと以外何も考えなくていい、無心になれる時間を過ごせる。
 人と関わるのが嫌でもっぱら一人専用のゲームを黙々とこなしていたが、ストーリーを進めてクリアするものが主流のため、クリアした後の周回や最適解の模索などをし尽くしてしまうと、途端に手持ち無沙汰になる。さらに、今となってはほとんどのゲームがオンラインを前提としていて、世界中の人たちがゲーム内のキャラクターを操り、協力または敵対しながらミッションをこなすというやつが思いの外多い。
 これから始めようとしているオンラインゲームもそうだ。
 一人プレイ用のモードもあるにはあるが、人数が多ければ多いほど楽しめる内容なのである。
 具体的には、マッチが開始されるとプレイヤーの数に応じて役職者と一般人に分かれる。プレイヤーはあらかじめ探偵に刑事、犯人や怪盗、医師や芸能人など様々な役職を自由に選ぶことができるが、役職者になるかどうかはそのフェーズの運次第である。役職者に選ばれた場合、その役職に合ったミッションが課せられ、一つの広い街でそれぞれがこなしていく。その際、一般人役のプレイヤーは協力または敵対を選択することができ、ゲーム内でその役職者に有利または不利な行動が可能になる。
 役職者には小さなミッションと大きなミッションがあり、大きなミッションは制限時間内に探偵なら『事件を解決する』、怪盗なら『お宝を盗む』などをクリアしなければならない。
 一般人たちの協力のもと、役職者同士でクリアを阻止することもできる。たとえば、役職者・犯人が役職者・芸能人や一般人たちに協力を求め、役職者・探偵の調査を邪魔する。役職者・芸能人の『演技』という名の振る舞いで撹乱できれば、自身の大きなミッションをクリアできる上に、相手を蹴落とすことができ、有利な状態でゲームを終えられる。するとボーナスポイントが入り、次回も役職者に選ばれやすくなる。
 一般人も協力か敵対を選べるので、役職者・犯人からの協力要請を断り、その一部始終を役職者・刑事に密告することもできる。ただし、役職者・犯人よりも役職者・刑事が不利であると思えば、役職者・犯人に協力するほうが得策である。
 一般人に課せられるのは行いの是非というより、どの役職者が最も有利にゲームを終えるか、その行方を見定めること。一般人は役職者と違い、行動そのものではなく、協力または敵対するかが重要になる。協力・敵対はそれぞれ役職者一人に限る。
 協力した役職者の合計ポイントが多ければ自分にもボーナスが加算される。敵対した役職者の合計ポイントが少なければ、同じくボーナスが加算される。ボーナスの加算によって一般人内で自分の合計ポイントが高くなれば、次回以降役職者に選ばれやすくなる。
 ルールは複雑だが、街のマップはたくさんあり、オンラインゲームとはいえ、全員がその時々で自分に課せられたキャラクターを演じるようなものなので、案外気軽にプレイできるところが話題を呼んだ。
 また、意思疎通に関して自由に言葉を選ぶことはできないが、YES・NOなど簡単なものや、協力・敵対などルール上の選択は、その都度画面に表示されて可能である。
 役職者には独自の調査や捜査、犯罪、演技などの項目があり、それを選ぶことでミッションをこなしていくことができる。
 一フェーズの制限時間は20分。長くも短くも思えるが、必ず20分で終わるので、時間の調整もしやすい。
 3フェーズ目を終えたところで、コントローラーの手を止めた。
 集中すること1時間。頭と目と指を休めようと、SNSを覗く。
 とある女子高生のSNSが目に入る。
 同級生の妹とかいう子だが、兄のほうは冴えないながら、彼女はなぜか社交的でSNSも華やか──いや彼女の場合はキラキラしているとは少し違うか。
 投稿自体は素朴で何でもない日常のことだったりするのだが、そこそこどの世代にもウケがいいらしく、インフルエンサーというほどではもちろんないが、フォロワー数はただの女子高生にしては多いほうだと言える。
 自分自身はフォローしている訳ではないのだが、フォローしている誰かの中に、彼女をフォローしている人間がいるのだろう。タイムラインに流れてくることが多い。
 別に興味はないが、たまに覗いてみると、あまり他人の投稿を引用しない彼女にしては珍しく、『千の選択編集部』などという旅雑誌のSNSアカウントが彼女のタイムラインに紛れ込んでいる。
 ──旅なんか金もかかるし、時間もかかるし、何より家以外の場所なんて落ち着かない。
 自分には無縁の世界だと思いながら、ふと閃いた。
 ──いや?
 特にがということではないのだけれど、日々の鬱屈した感情を吐き出す場所が欲しいと常々思っていた。
 ゲームは無心になれる、考えないようにすることはできるが、決してを忘れることはできない。ゲームに負け続けた時は、余計に蓄積されていく気がする。
 もっと刺激の強いが欲しい。自分が必ず勝てる
 ──そうだ。この『千の選択編集部』にしてもらおう。











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