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気と常識はつかいよう

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 さて、今日は〇月〇日。皆さん、いかがお過ごしでしょうか。
 つい先日、スーパーで買い物中にお菓子コーナーに立ち寄ったら、まだ小学生未満の小さなお子さんとお母さんが並んで歩いていました。すれ違う瞬間に聞こえたのは、お母さんの「じゃあ今日はお菓子買わないでいい?」──その声音はとても優しく、おそらくお子さんの意思を尊重した結果出た言葉と思われます。証拠に「えらいえらい」とおざなりでも過剰でもない、とても自然な声で褒めていました。……え? 私? ……いやまぁこんもりお菓子買いましたけれども??
 それはともかく、以前ゲームなども扱う古本屋さんで、たまたまゲームソフト売り場を通った際に、小学校低学年くらいのお子さんが小走りにやってきて、お父さんに「これ欲しい」とゲームソフトを見せておりました。少し遠慮がちな、小さな声でしたが、怯えているという感じではありません。するとお父さんが苦笑いしながら「もっと高いの買っていいのに」なんで恥ずかしそうに答えておりました。親御さんにとっては複雑な気分かもしれませんが、素敵なお子さんだなと思います。
 きっと親御さんに「何でも好きなもの買っていいよ」と言われてきたのでしょう。もしかしたら、「新品じゃなくてごめんね」なんてことも言われたかもしれない。でも、「買わない」、「お店に行かない」ではなく、親御さんの「買ってあげたい」意思を尊重し、「できるだけ安いゲームを買う」という選択は、それこそなかなかできるものではないなと。だって、目の前に欲しい物があれば欲に目が眩むものです。大人でも──いえ、手が届くと知っている大人だからこそかもしれませんね。
 お子さんたち本人は、「ママに褒めてもらえる」とか、「パパを困らせたくない」とか、それほど難しいことを考えているつもりはないのでしょうが、そういう単純な感情こそ気遣いの第一歩だと思います。
 ところで、うーん……ちょっと人によっては「おや」と感じる話かもしれませんが、昔、知人が彼女の女友達とお泊まり会をした時に、部屋でカップラーメンを食べたんたそうです。その女友達が、食べ終えたカップラーメンの残った汁をなんと、トイレに流したそうで。それも、なんの躊躇いもなく、断りもなくです。きっとお友達にとってはそれが普通で当たり前のことなんでしょう。
 すると、私と一緒にその話を聞いていた先輩が、「あぁそれ私もやる」と言い出して。知人も先輩もお子さんのいる主婦ですが、知人曰く「普通、あみあみ──ネットですね、詰まらないようにする為の──あみあみしてる流しに捨てるでしょ!?」と。先輩曰く「それはちゃんとした生活してるからよ。共同住宅の流しって排水溝が狭いからすぐに詰まっちゃう。けど、トイレは一番水圧が高いから! 食事と結びつけちゃうから嫌なだけよ!」なんて。ごめんなさいね、こういう話苦手な方もいると思うんだけど。
 まぁかくいう私はトイレに流すなんて考えたこともなかったので、どちらの話も「へえ」くらいに笑って聞いていたのですが、大体の人の感覚なら「人んちではやらないかもなぁ……」という感想です。
 先輩からすると、「排水溝が詰まらないようにする為の一種の気遣いなんじゃない?」とのこと。
 物はいいようとはよく言いますが、そう言われればそうかもなとちょっと頷いてしまいました。
 とはいえ、私個人的には知人の女友達は普段自分がしていることを特になんの疑問も持たずに、いつも自宅にいるような感覚で習慣のようにやってしまっただけと思います。自分にとってそれが普通で当たり前だから、知人に怒られるとは夢にも思わなかったでしょう。
 気遣いの形もそれぞれなら、常識の認識も人それぞれです。
 方言もそうで、自分が今まで使ってきた言葉が通じなかった時、積み上げてきたアイデンティティをほんの少し喪失するようで寂しくなるものです。大概それより恥ずかしさが先に来るんですけど。「あ、これ、標準語じゃなかったんだぁ」なんて。
 とはいえ、たとえ方向が間違っていても「この人なりの気遣いなんだな」とわかると、強くは言い返せなくなりますよね。だからといって純粋に「ありがとう」とも言えないところが難点なんですけど。
 たまに旦那さんが普段しない掃除や料理をして、「どんなもんだい」となっていると、「いやいや、それ私は毎日やってんのよ……」とお小言を言いたくなることもしばしば。でも、彼は彼なりに自由な時間を作ってくれようとしたなら、「まぁ今回はありがとうでいいか」と微笑ましい気持ちにもなります。
 『気遣い』も『常識』も一聞すると耳心地が良く、『当然』であり『正解』に思えます。でも、必ずしもそうじゃないですよね。「気遣ってやってんだから、素直になれよ!」なんて、「素直じゃないのはそっちだろ!」と言い返したくなるような気遣われ方をされたら、それはもう『気遣い』ではありません。前にもお話しましたが、本当に『気遣い』のできる人は、相手に『気を遣ってもらっている』と認識すらさせません。
 『常識』もそうです。多くの人がそれを当たり前と思っていても、それが全て『正解』とは限りません。多くの人が間違っていることだってありますよね。正そうとすれば反感を買い、はみ出そうものならアバンギャルドと変人扱い。とはいえ、もちろん正しいものだってたくさんありますね。『マナー』や『礼儀』だってその一つでしょう。常識を知っていて逸脱するのと、全く知らないでやらかしてしまうのと、それだけでも事の印象は大きく違います。
 そろそろお別れの時間です。
 『気遣い』も『常識』もあればいいものだけれど、必ずしもなくたって私たちは生きていけると思いませんか。でも、一度そういう世界を想像してみると、「あれ? なんだか空疎だな」「無味乾燥だな」「寂しいな」と私は感じます。
 温かみがないというか、熱がないというか。
 『気遣い』は相手と私の心に温もりを、そしてその『相手と私』があちらにもこちらにもいれば、その温もりはやがて大きな熱になる。
 『常識』はある種、私たちに一体感という熱を与えているかのように思えます。でもそれは、はぐれ者を許さないとも取れてしまう。一人一人がほんの少し寛容に、それでいて全てを失わない程度に、そうそれこそ温もりくらいの温度でいられたら、もう少し、あと少しだけ、生きやすい世の中になるのかもしれないなんて、そう思います。
 『気遣い』だって『常識』だって、つかいすぎれば疲れやすくなります。一人の時間、一人の空間なら、誰に気を遣わなくても、世の中の常識に無理やり合わせなくても、自由に過ごしていいじゃありませんか。
 ──そうはいかないのが、私たち人間だったりもするのですが。なんたって、私たちはしがらみに囚われる生き物ですから。それに、いくら自由といっても、何をしても許される世界ではありません。
 とはいえ、そんな難しい話ではなく、時には休憩が必要ですよね、っていう私の心の声です。
 皆さんもどうか毎日を無理せず、素敵な日々を過ごしてくださいね。
 では、また来週お会いしましょう。眠れない夜のお供に、深見小夜子でした。



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