深見小夜子のいかがお過ごしですか?2

花柳 都子

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納得できないに納得できない

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 さて、今日は〇月〇日。皆さん、いかがお過ごしでしょうか。
 最近お気に入りの曲があって、仕事中以外の時間に聴いているのですが、何かしなければならないこと、例えば食器を洗うとか、掃除をするとか、そういう時間になんとはなしに流していると、不思議と覚えようとしていなくても自然に歌詞を覚えて、いつの間にか口ずさんでいたりするんですよね。そういう教材もありますから、なるほど理に適っているのでしょうね。
 音楽といえば、昔、好きなアーティストの楽曲に全て英歌詞の曲があったんです。拙いながら、辞書と睨めっこしつつ和訳してみると、切ない女性の心を歌ったような歌詞でした。それ以外にも、歌詞に出てくる、日常会話ではおそらく使わないような単語を調べまくったこともありました。
 当時、高校生でしたが、学校の方針で英語検定を受けた時期でして、初めて筆記だけではなく口頭試験みたいなものを経験した記憶があります。
 その時、質問の意図に合った解答ではあったはずですが、日常会話ではおそらく使わないような、歌詞で覚えた単語を織り交ぜたことをはっきり覚えています。それが功を奏したのかはわかりませんが、その英語検定には合格していました。
 とはいえ、私の英語レベルとしては、話せはしませんが、ゆっくりであれば相手が何を言っているか多少わかるかなといった程度のものです。ただ、それに答えるとか、会話を続けるとかそういうことは難しいでしょう。
 知人に会社を突然辞めて、海外に渡った女性がいますが、すごいなと思います。今でも。かれこれ10年近く前でしょうか。あの頃はたった数歳の差でそんな決断ができることを羨ましく、そして格好よく思いましたね。その方の英語力はわかりませんが、未知の世界に行くということは計り知れない勇気とそして大きな希望があってこそなのでしょう。
 私は一度も経験したことのない世界には臆病で、けれど一度経験したことなら一人でもできるようになるくらい順応性が高く、まぁもっと言えば単純な人間なのですが、皆さんはいかがでしょう。
 例えば、気になっていた喫茶店。同世代の人は少ないし、見た感じ入りやすい雰囲気でもない。でも、友人や知人と一緒に、もしくは仕事などで訪れた後なら、自分一人でも入れそう!と思ったら、実行に移す人は少なくないのではないでしょうか。あとは女性一人のラーメン屋とか、男性のスイーツ店なんかもそうかもしれませんね。私にとっては旅行なんかもそれに該当するのですが、さすがに海外となると話が違いますね。
 とはいえ、海外に移住なんてどでかい話ではなくても、環境を変えたい、誰も私を知らない場所に行きたい、と思うことは珍しいことではないはず。何もかも投げ出したくなることは誰にでもあるし、実行するかどうかはともかく、とりあえずこの一日は趣味に逃避するなんて人も多いでしょう。
 音楽も小説も、趣味に該当しそうなものは大半が『自分が見て聴いて楽しいもの』です。いわゆる自己満足というやつですね。それはたぶん歌う側、演奏する側、そして書く側も同じ。結局は自分の中で完結しているのですから。
 どんなに有名なアーティストでも作家でも、そのスタートはまず『自分が楽しい』からでしょう。
 だからこそ多くの人の共感を得ることができる。
 「これこれこういうことを伝えたい」という意志や野望はもちろん大切ですが、その沼にハマってしまうことももちろんあります。そもそも「伝えたい」「感動を与えたい」などと思っている時点で、邪念に満ちていて、楽しめていない気がするからです。
 でも、先に進めば進むほど、いろんな意見が目に入れば入るほど、自分の道が正解なのかどうか自信がなくなっていく。信じたい気持ちが先行して、本当に「伝えたい」ことも「自分が思う感動」も見失ってしまうことだってある。まさに本末転倒というやつです。
 ですから、仕事にしても趣味にしても、『信念』に忠実な人は真っ直ぐで眩しく見えるのでしょう。
 『作り手側楽しい』から『作り手側楽しい』に変わった時、主体が自分──作り手側──ではなく、相手──受け手側──になり、趣味が仕事になるのでしょう。
 でも、仕事になった途端、当然やりたくないことも増えます。面倒な手続きに、煩わしい事務作業、悪い意味での忖度にさえ巻き込まれてしまうかもしれません。商業用の、自分ではない自分──納得できない作品──を求められる可能性だってあります。
 それでも多くの人が共感し、多くの人が自分と同じものを愛してくれることも事実。それを守るためには瑣末なことに目を瞑らなければならない瞬間もあります。
 納得できないことには納得できない、と声を上げられれば一番良いのでしょう。皆さんもきっとそうです。毎日、納得できない仕事ばかりしているという方もいらっしゃるかもしれません。それでも生きていくためには、避けて通れないという人もいます。
 『嫌ならやめれば良い』と口で言うのは簡単ですが、そうできない事情も環境もある。
 だからと言って、納得できないことが納得できないこととは限りませんし、逆に納得できないことを、あなたは無理やり納得し続けてきたのかもしれません。
 納得というのは元来、人それぞれ違うものです。
 折り合いをつけるにも、境界線はみんな違う。
 私の中で納得できない事案に対して、誰かに意見を求めたり道筋を示してもらったりするのは、それこそ私の中で納得がいかないんです。だって、どんな答えをもらったとしても、どんなに慰めて同情──もはや共感とは言えない──してもらったとしても、きっと結局は自分が納得できなければなんの意味もないからです。
 最終的に、自分がどうしたいかを決められるのは自分だけです。
 公に抗議する術がなく、どうしても納得がいかなければ、私はその納得できないことから離れる道を選ぶでしょう。納得できないことを続けられるほど、私は大人ではないのかもしれません。それでも自分が息も出来ないくらい苦しくなることと引き換えには、到底できません。でも、もしかしたら、自分の好きなこととは引き換えにしているかもしれない。自分の好きなこともできている、だから仕方のないことだ、と──。
 その境界も人それぞれです。どれだけ好きなことでも、それを嫌いになるほど納得できないことがあればもう離れるしかないでしょう。
 そろそろお別れの時間です。
 最近は音楽や小説と同じように、SNSなどもあげられますよね。自己満足のための行為が、共感や賞賛を得やすい時代でもあります。
 でもそこには『私が楽しいこと』が存在していて欲しいと思いますし、その『楽しいこと』が多くの人にとっても『楽しいこと』であって欲しいのです。
 負の感情も時には吐き出したくなる時もある。SNSとはそれこそ『自己満足』の世界であって、誰に何をとやかく言われる筋合いではないのかもしれません。でも、同時に全世界の誰もが見られるツールだと忘れてはいけないのです。
 鍵をかけているから、とか、どうせ近しい友達しか見ないから、とかそういうのは関係ありません。声に出して言えないことは、少なくともSNSで発信すべきではないと個人的には思います。一時の興奮に任せて、配慮を忘れてしまうようならそれは、見知らぬ誰かを傷つける可能性も、ひいてはあなた自身をも傷つける可能性だってあるからです。
 昔は運動会で順位を決めるのが当たり前でした。でも今は──現在も現実としてあるのでしょうか、お手手繋いでみんなでゴール、という風潮があります。
 私は順位をつけてもいいと思うのですが、仮に推しに人気以外の何らかの順位をつけるとなった時、「どうしてみんな一位じゃいけないの?争うなんて悲しい」という意見が出ることも承知しています。ですから、そういう意見が出ないように、お手手繋いでみんなでゴールのほうが平和的に思えてしまう。
 皆さんの中にも、大衆の風潮に合わせて、なんとかうまく折り合いをつけている方がきっと多くいらっしゃることでしょう。
 SNSでは他の人の意見が目に入ってしまうから尚更です。
 運動会で順位を決められないのなら、いっそ運動会という争いの種がなくなればいいのになんて思うことも一度や二度ではありません。でもそれにしては運動会というのは、大きな行事で、なくすという話になるとそれはちょっと違うとも思います。
 難しいですよね。
 全てが平和にる日はおそらく来ないのでしょう。
 それでも、より多くの人が幸せでいられる世界を私は夢見ています。
 また来週お会いしましょう。眠れない夜のお供に、深見小夜子でした。



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