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見にくい時計の子
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さて、今日は〇月〇日。皆さん、いかがお過ごしでしょうか。
ついさっき、打ち合わせの場で長らく座っていた椅子から立ち上がった時、椅子にハンカチが落ちたんですよね。でも、その日使うハンカチはポケットではなく鞄に入れているし、でも、間違いなく自分のものなんですよ。見覚えがありますから。
推測するに、時間がなく、乾燥まで一気に終えてしまった洗濯物の中で、静電気が発生しやすい服に絡まってついてきてしまったようでした。それに気づかず、私はその服を着て、打ち合わせにやってきてしまった。
私がまず思ったことは──「パンツじゃなくてよかった」。
ネットに入れて洗っても、洗濯機に入れた時に急いでいたのか、ネットのファスナーが開いていて、洗濯中に他の衣類に紛れ込んでしまうことがあります。終わって洗濯機を覗いて「あれ?ネットの中のものが少ないな?」なんて。
それは私がズボラな性格なだけかもしれませんが、皆さんも似たような経験はあるのではないでしょうか。
例えば、男性ならチャックが開いていたとか、女性ならスカートの一端をタイツの中に巻き込んでそのまま外に出ちゃったとか。
後で顔から火が出るほど恥ずかしい思いをしたことは、人生一度や二度くらいあるものです。
髪型や服装、メイクの失敗だってあるかもしれませんね。私はありがたいことに「おしゃれだね」と言ってもらえることがわりと多いのですが、大まかな形──シルエットと、色の組み合わせ以外にはあまり気を遣っていないと思います。
身長が低い分、お店に売られている服を普通に着るとバランスがおかしいこともしばしばあるので、多少の工夫はしているかもしれません。あまりダボッと見えすぎないように、とか。ラフな格好をしすぎると子供っぽく見えるので、できるだけクラシカルな格好をしようとか。
服装やメイクはともかく、「憧れのあの人と同じ髪型にしたらなんだか周りに笑われちゃうの!」なんてこともあるのではないでしょうか。私は中学生の頃、おかっぱ頭を経験しましたが、まぁ今でもショートのほうが好きなので、トラウマというほどではないですね。
似合う似合わないもありますが、やっぱり自分がこうしたい!と望んだものは、どんなものでも、誰が何と言おうと、テンションが上がるものです。
私は腕時計──特にアナログ時計が好きなのですが、元々持っているお気に入りの時計の他に、仕事でも私生活でも使える時計が欲しい、でもその好きなメーカーにこれ!というものがない。そんな時、たまたま出かけたショッピングモールで、同じメーカーの色も形も文字盤もとても可愛い、私好みの時計を見つけたんです。海外のメーカーなので、あまり置いているお店を見かけなかった為、興奮してしまい、レジ横に飾られていたその時計から目が離せなくなってしまいました。
レジにいるお姉さんがそのことに気がついてくれて、私は思わずその時していたお気に入りの腕時計をお姉さんに見せつけてしまいました。
すると、お姉さんは「このデザイン見たことない!」とふたりで大盛り上がり。結局、一度は財布と相談したものの、その時計のことが頭から離れなくなって、お店に戻り、無事に購入しました。
何年か前のことになりますが、今でも大切に毎日のように身につけています。元々持っているお気に入りの時計も、ここぞという時に勝負下着のように装着していくことがあります。
さて、時計といえば、私たちは毎日、毎秒、時間を気にしながら生きているのに、時計というものを気にすることってあんまりないですよね。なんだか、この角度からだとどの時計も見にくいわ──なんて思うくらいでしょうか。
よく劇場や映画館などで、前列の人が前屈みになっていると「あなた見にくいわよ!」と叫び出したくなることがありますが、私はこの「見にくい」を醜悪の醜──醜いと変換してしまいがちです。ですから、あえて「見づらい」と言い方を変えているのですが、相手のことを考えない自分本意な行動は、相手からすればそれこそ「見苦しい」と一蹴されるかもしれません。
同音異義語と言いますが、誤解を与えそうな表現を変えるだけでも全然コミュニケーションって違ってくると思うんです。
『醜い』──醜悪の醜のほうですが──なんて、日常生活じゃ使わないよと思いますよね。でも、自分が使う使わないではなく、相手がそう感じるか否かだと思うんです。
相手にそう感じさせる恐れが一ミリでもあるなら、私はそれを避けたいと思うし、相手だって「自分が考えすぎなんだよね」とモヤッとする時間は少ないに越したことはないはずです。
実際は、たとえ同音異義語でも、『醜い』なんて言葉を使ったら、自分自身が『醜い』人間、相手のことを考えられない人間だと感じてしまう私が、一番考えすぎなのでしょうが。
ともあれ、そうやって悩む時間がまず無駄なので、私は悩まなくて済むように、できる限りその悩みの種を取り除いておこうという精神で生きているのです。
例えば、SNSもそう。散々、私は遠ざかって何年も経つと言っていますが、友達同士での会話ならともかく、誰が見るともわからない投稿に関しては、私はたった50文字前後の言葉に対しても、「どういう印象を与えるか」、「どういう人がこれを好意的に見て、どういう人には否定的に見られるだろうか」「もっと素敵な言い回しはないだろうか」──と悩んでいるうちに10分20分、あっという間に30分経過するのです。
私は私の主観でしか物事を見られないのに、相手がどう思うかどう感じるか、どれだけの人がこの投稿に傷つく可能性があるかを延々と考え続けてしまうのです。きっと永遠に答えは出ないでしょう。どれだけ客観的に物事を見ているつもりでも、そこには必ず私の意思が反映される。結局、私は私の心しかわからないのですから、考えるだけ時間の無駄です。
だからと言って、私がわからない心を、私が気づくことのできない声を、無視することはできません。
ですから、私はSNSをしていないのです。
そんなふうに悩む時間があったら、自分の作品により多く向き合いたい。
そんなふうに私の心を主張したいなら、作品を通して伝えたい。
SNSのたった50文字よりも、ずっと長く、ずっと美しく、ずっと楽しく、伝えられる。
言葉を尽くすだけでは変わらないかもしれないけれど、短い言葉で簡潔に伝えられたらいいのだけれど、それでも私にはそれがうまくできそうにはないから。
削ぎ落として削ぎ落とし続けたら、言葉足らずで伝わるものも伝わらなくなる。文章を切り取るなんて、国語や現代文で「主人公の心情を表す文章を抜き出しなさい」と小学生の頃から経験している私たちですが、物語全体の中から実際にそこだけを抜き出されても、本来の意図が正しく伝わる可能性は限りなくゼロに近いことでしょう。
それだけ、『流れ』というのは大事ということですね。
経緯がなければ結果はありません。
過去がなければ未来がないのと同じです。
時間は有限。
だからこそ、自分自身とより長く、より深く向き合いたいし、自分自身を蔑ろにしたくないと思う。
その為にはまず、相手を思いやること。全てを正しく理解できなくても、せめて相手の立場に立って、相手の心を考えること。
あまり信心深くもなく、ほとんどのことは楽観的に捉える私の、唯一、信念と言えるかもしれません。
そろそろお別れの時間です。
どんなに気を配っても、きっと知らず人を傷つけてしまっていることもあるのでしょう。
自分のことだからこそ私はそれが我慢ならないし、自分自身気づきようもないのでなおさらです。
私には傷つけてしまう可能性のある場所を、自ら減らすくらいしかできません。
私が昔SNSで紡いだ言葉たち、ほとんどは覚えていません。でも、それだけ無心に無意識に垂れ流していたのだとしたら、これほど怖いこともありません。時間が経てば忘れられるのではなく、時間が経てば経つほど、私は人を傷つけたことがなかっただろうかと何度も振り返ってしまいます。
SNSをやっていた頃は、それが毎日数十分ずつであれ、頻繁にやってきて、心も体も疲弊して、もう何もかも投げ出したくなって、私生活もうまくいかないことが増えて、私は不特定多数が見られるSNSでの投稿をやめました。
すっきりしました。心が軽くなりました。
やっぱり私には向いていなかったのだと思います。丁寧に一語一語熟考しながら、物語を紡ぐほうが私には合っている。
人には向き不向きがあります。私は自分自身を見失いそうだったあの頃より、今のほうがちゃんと自分と向き合えている実感があります。
皆さんにも心から楽しいと思える時間が、1秒でも一瞬でも長くあって欲しい──。
皆さんの大切な、かけがえのない『時間』のほんの少しでも私のラジオを聴いてくれてありがとう。
また来週お会いしましょう。眠れない夜のお供に、深見小夜子でした。
ついさっき、打ち合わせの場で長らく座っていた椅子から立ち上がった時、椅子にハンカチが落ちたんですよね。でも、その日使うハンカチはポケットではなく鞄に入れているし、でも、間違いなく自分のものなんですよ。見覚えがありますから。
推測するに、時間がなく、乾燥まで一気に終えてしまった洗濯物の中で、静電気が発生しやすい服に絡まってついてきてしまったようでした。それに気づかず、私はその服を着て、打ち合わせにやってきてしまった。
私がまず思ったことは──「パンツじゃなくてよかった」。
ネットに入れて洗っても、洗濯機に入れた時に急いでいたのか、ネットのファスナーが開いていて、洗濯中に他の衣類に紛れ込んでしまうことがあります。終わって洗濯機を覗いて「あれ?ネットの中のものが少ないな?」なんて。
それは私がズボラな性格なだけかもしれませんが、皆さんも似たような経験はあるのではないでしょうか。
例えば、男性ならチャックが開いていたとか、女性ならスカートの一端をタイツの中に巻き込んでそのまま外に出ちゃったとか。
後で顔から火が出るほど恥ずかしい思いをしたことは、人生一度や二度くらいあるものです。
髪型や服装、メイクの失敗だってあるかもしれませんね。私はありがたいことに「おしゃれだね」と言ってもらえることがわりと多いのですが、大まかな形──シルエットと、色の組み合わせ以外にはあまり気を遣っていないと思います。
身長が低い分、お店に売られている服を普通に着るとバランスがおかしいこともしばしばあるので、多少の工夫はしているかもしれません。あまりダボッと見えすぎないように、とか。ラフな格好をしすぎると子供っぽく見えるので、できるだけクラシカルな格好をしようとか。
服装やメイクはともかく、「憧れのあの人と同じ髪型にしたらなんだか周りに笑われちゃうの!」なんてこともあるのではないでしょうか。私は中学生の頃、おかっぱ頭を経験しましたが、まぁ今でもショートのほうが好きなので、トラウマというほどではないですね。
似合う似合わないもありますが、やっぱり自分がこうしたい!と望んだものは、どんなものでも、誰が何と言おうと、テンションが上がるものです。
私は腕時計──特にアナログ時計が好きなのですが、元々持っているお気に入りの時計の他に、仕事でも私生活でも使える時計が欲しい、でもその好きなメーカーにこれ!というものがない。そんな時、たまたま出かけたショッピングモールで、同じメーカーの色も形も文字盤もとても可愛い、私好みの時計を見つけたんです。海外のメーカーなので、あまり置いているお店を見かけなかった為、興奮してしまい、レジ横に飾られていたその時計から目が離せなくなってしまいました。
レジにいるお姉さんがそのことに気がついてくれて、私は思わずその時していたお気に入りの腕時計をお姉さんに見せつけてしまいました。
すると、お姉さんは「このデザイン見たことない!」とふたりで大盛り上がり。結局、一度は財布と相談したものの、その時計のことが頭から離れなくなって、お店に戻り、無事に購入しました。
何年か前のことになりますが、今でも大切に毎日のように身につけています。元々持っているお気に入りの時計も、ここぞという時に勝負下着のように装着していくことがあります。
さて、時計といえば、私たちは毎日、毎秒、時間を気にしながら生きているのに、時計というものを気にすることってあんまりないですよね。なんだか、この角度からだとどの時計も見にくいわ──なんて思うくらいでしょうか。
よく劇場や映画館などで、前列の人が前屈みになっていると「あなた見にくいわよ!」と叫び出したくなることがありますが、私はこの「見にくい」を醜悪の醜──醜いと変換してしまいがちです。ですから、あえて「見づらい」と言い方を変えているのですが、相手のことを考えない自分本意な行動は、相手からすればそれこそ「見苦しい」と一蹴されるかもしれません。
同音異義語と言いますが、誤解を与えそうな表現を変えるだけでも全然コミュニケーションって違ってくると思うんです。
『醜い』──醜悪の醜のほうですが──なんて、日常生活じゃ使わないよと思いますよね。でも、自分が使う使わないではなく、相手がそう感じるか否かだと思うんです。
相手にそう感じさせる恐れが一ミリでもあるなら、私はそれを避けたいと思うし、相手だって「自分が考えすぎなんだよね」とモヤッとする時間は少ないに越したことはないはずです。
実際は、たとえ同音異義語でも、『醜い』なんて言葉を使ったら、自分自身が『醜い』人間、相手のことを考えられない人間だと感じてしまう私が、一番考えすぎなのでしょうが。
ともあれ、そうやって悩む時間がまず無駄なので、私は悩まなくて済むように、できる限りその悩みの種を取り除いておこうという精神で生きているのです。
例えば、SNSもそう。散々、私は遠ざかって何年も経つと言っていますが、友達同士での会話ならともかく、誰が見るともわからない投稿に関しては、私はたった50文字前後の言葉に対しても、「どういう印象を与えるか」、「どういう人がこれを好意的に見て、どういう人には否定的に見られるだろうか」「もっと素敵な言い回しはないだろうか」──と悩んでいるうちに10分20分、あっという間に30分経過するのです。
私は私の主観でしか物事を見られないのに、相手がどう思うかどう感じるか、どれだけの人がこの投稿に傷つく可能性があるかを延々と考え続けてしまうのです。きっと永遠に答えは出ないでしょう。どれだけ客観的に物事を見ているつもりでも、そこには必ず私の意思が反映される。結局、私は私の心しかわからないのですから、考えるだけ時間の無駄です。
だからと言って、私がわからない心を、私が気づくことのできない声を、無視することはできません。
ですから、私はSNSをしていないのです。
そんなふうに悩む時間があったら、自分の作品により多く向き合いたい。
そんなふうに私の心を主張したいなら、作品を通して伝えたい。
SNSのたった50文字よりも、ずっと長く、ずっと美しく、ずっと楽しく、伝えられる。
言葉を尽くすだけでは変わらないかもしれないけれど、短い言葉で簡潔に伝えられたらいいのだけれど、それでも私にはそれがうまくできそうにはないから。
削ぎ落として削ぎ落とし続けたら、言葉足らずで伝わるものも伝わらなくなる。文章を切り取るなんて、国語や現代文で「主人公の心情を表す文章を抜き出しなさい」と小学生の頃から経験している私たちですが、物語全体の中から実際にそこだけを抜き出されても、本来の意図が正しく伝わる可能性は限りなくゼロに近いことでしょう。
それだけ、『流れ』というのは大事ということですね。
経緯がなければ結果はありません。
過去がなければ未来がないのと同じです。
時間は有限。
だからこそ、自分自身とより長く、より深く向き合いたいし、自分自身を蔑ろにしたくないと思う。
その為にはまず、相手を思いやること。全てを正しく理解できなくても、せめて相手の立場に立って、相手の心を考えること。
あまり信心深くもなく、ほとんどのことは楽観的に捉える私の、唯一、信念と言えるかもしれません。
そろそろお別れの時間です。
どんなに気を配っても、きっと知らず人を傷つけてしまっていることもあるのでしょう。
自分のことだからこそ私はそれが我慢ならないし、自分自身気づきようもないのでなおさらです。
私には傷つけてしまう可能性のある場所を、自ら減らすくらいしかできません。
私が昔SNSで紡いだ言葉たち、ほとんどは覚えていません。でも、それだけ無心に無意識に垂れ流していたのだとしたら、これほど怖いこともありません。時間が経てば忘れられるのではなく、時間が経てば経つほど、私は人を傷つけたことがなかっただろうかと何度も振り返ってしまいます。
SNSをやっていた頃は、それが毎日数十分ずつであれ、頻繁にやってきて、心も体も疲弊して、もう何もかも投げ出したくなって、私生活もうまくいかないことが増えて、私は不特定多数が見られるSNSでの投稿をやめました。
すっきりしました。心が軽くなりました。
やっぱり私には向いていなかったのだと思います。丁寧に一語一語熟考しながら、物語を紡ぐほうが私には合っている。
人には向き不向きがあります。私は自分自身を見失いそうだったあの頃より、今のほうがちゃんと自分と向き合えている実感があります。
皆さんにも心から楽しいと思える時間が、1秒でも一瞬でも長くあって欲しい──。
皆さんの大切な、かけがえのない『時間』のほんの少しでも私のラジオを聴いてくれてありがとう。
また来週お会いしましょう。眠れない夜のお供に、深見小夜子でした。
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